第436話 憂いの勝鬨
閃光と轟音、爆風が収まる。
うつ伏せで強烈な爆発を耐え凌いでいたヨネシゲがゆっくりと瞼を開いた。
「痛たた……畜生……派手にやってくれたな……」
ヨネシゲが全身を襲う鈍痛に顔を歪めていると、聞き慣れた少年の声が天から聞こえてきた。
「ヨネシゲ殿、大丈夫ですか?」
「ウィンター様!」
ヨネシゲが頭上を見上げると、そこには何事も無かったかのように無傷で宙を浮遊するウィンターの姿が瞳に映りこむ。
「俺は大丈夫です。ウィンター様もご無事で何よりです」
「ありがとうございます」
「それで……ゴッドキングダムは?」
ヨネシゲが尋ねるとウィンターは天を見上げながら答える。
「完全に逃げられました。彼らの気配が一切感じられません……」
いつもの無表情を見せるウィンターだったが、その瞳の奥には底知れぬ怒りを宿していた。
ヨネシゲも込み上げてくる怒りを抑えながら周囲を見渡すと、倒れ伏す仲間たちの姿が視界に飛び込んできた。大半の者が意識を失っているが大事ないようだ。
(皆無事のようだな……恐らくウィンター様が直前で結界を張って守ってくれたのだろう……)
すると背後から中年男の甲高いうめき声が耳に届く。
「グホッ……ぐぬぬ……」
「マ、マロウータン様!?」
振り向くと大の字で倒れるマロウータン。ヨネシゲが慌てた様子で主君の元まで駆け寄る。
「マロウータン様! 大丈夫ですか!?」
「ウホゥ……ヨネシゲか……無事で何より……またそなたの顔が見れて嬉しいぞよ……ウホッ」
「ヘヘッ……勿体無いお言葉であります」
主君の言葉を聞いた角刈りが恥ずかしそうに鼻を掻く。
ヨネシゲは再び周囲に目をやると、意識を失い倒れる同輩ドランカドを発見。
すかさずヨネシゲはドランカドの元まで急行。その身体を抱き起こすと、大声と共に激しく揺さぶる。
「おい! ドランカド! しっかりしろっ! ドランカドっ!」
直後、ドランカドは角刈りの呼び掛けに気が付いたようで、細い目をゆっくりと開く。――本当に開いているのか疑いたくなる。
「うっ……うぅ……」
「ドランカドっ! 目覚めたかっ! 大丈夫か!?」
「あれ……? ヨネさん……? ここは天国ッスか……?」
「縁起でもねえこと言うんじゃねえ」
ヨネシゲはそう言いながらも安堵の笑みを同輩に向ける。
その間にもサンディ・クボウ連合軍の猛者たちが続々と意識を取り戻していた。
ここでヨネシゲがあることに気が付く。
「そ、そういや、シャロンちゃんはどこに行った!?」
突如ヨネシゲの前に現れた義妹シャロン。しかし今はその姿が見当たらない。
ヨネシゲがキョロキョロとシャロンの姿を探していると、ウィンターがある推測を口にする。
「恐らく……サミュエルは私が作り出した『裁きの領域』を爆破しただけではなく、この一帯の空間を歪ませて、シャロン殿をどこか別の場所へと転送してしまったのでしょう。そして私たちも――」
ウィンターはヨネシゲの視線を誘導するように辺りを見渡す。
ヨネシゲは改めて周囲の状況を確認するとある事実に気が付いた。
「――てっ!? ここはどこだ!? チャヅケ川じゃないぞ!?」
そう。ヨネシゲたちが今居る場所は、先程まで改革戦士団と激戦を繰り広げていたチャヅケ川の畔ではない。そこは周囲に何も遮るものがない開けた岩場だった。
困惑するヨネシゲにウィンターが現在の所在地を告げる。
「――どうやら私たちは、『おむすび山』の山頂に転送されてしまったようですね」
「お、おむすび山!?」
「ええ。このような場所に転送するとは……嫌がらせにも程があります」
おむすび山――それはライス領を見下ろすように聳え立つトロイメライを代表する名峰。サンディとリゲル――ウィンターとタイガーが一騎打ちの激戦を繰り広げた地でもある。
ヨネシゲたちが夜明け間近の空を見つめていると、彗星の如く高速で移動する発光体が、おむすび山の頂上に降り立つ。
やがて発光体の光が弱まるとその正体が明らかになる。それは阿修羅に化けた老年男――サンディ家重臣ヒョーガだった。
ヒョーガは主君ウィンターの前で膝を折ると要件を伝える。
「旦那様、戦場の確認が終了しました」
「ヒョーガ、ご苦労様です」
(ヒョーガ様、いつの間に戦場の確認に行っていたのか!?)
ヨネシゲはヒョーガの行動の早さに驚きつつも、主従の会話に耳を傾ける。
「戦場を隈無く確認しましたが、サミュエルやダミアンの姿はありませんでした」
「そうでしたか……」
険しい表情を見せる主君に重臣が続ける。
「改革戦士団戦闘員の大半が戦死、残りは敗走。幹部のチャールズとアンディ、多くの戦闘長も討死。また、マスターも死亡し、サラとソードは戦線離脱。尚、改革戦士団と手を組んでいたウィルダネスの首領ノーラン・ファイターとその配下たちは捕縛……旦那様、この戦績――我々の大勝と言っても過言ではないでしょう」
「ええ、私もヒョーガと同じ意見です。――クボウ閣下。閣下の見解をお聞かせ願いますか?」
ウィンターから見解を求めるられたマロウータンは、優雅に扇を広げながら返答する。
「――異議なし。この状況、何人が見ても儂らの勝利と答えるじゃろう。儂らは強大な脅威に打ち勝ったのでおじゃる。皆の者、勝鬨を上げるぞよっ!」
マロウータンから視線を送られたクボウ家重臣リキヤは力強く頷くと、右腕を高らかに振りかざし、大声を轟かせる。
「皆っ、勝鬨を上げるぞっ! ――えいっ! えいっ!」
『おーっ!!』
「えいっ! えいっ!」
『おーっ!!』
リキヤの掛け声を合図に、サンディ・クボウ連合軍の将兵たちが雄叫びを上げる。激戦を制した戦士たちの顔からは勝利の笑みが溢れる落ちていた。
その中の一人にヨネシゲの姿があった。しかしその顔色は曇り空。憂いの表情で拳を頭上高くに掲げる。
(――確かに俺たちの勝利で間違いない。だが……ダミアンとサミュエルには逃げられた。王都の状況も気になる。そして……マスターは悲運の最期を遂げ、サラは最愛の父親を失った……今回の勝利は素直に喜べないよ――)
サンディ・クボウ連合軍はチャヅケ川にて改革戦士団・ウィルダネス連合軍相手に勝利を収めた。
この歴史的大勝は後世に語り継がれることだろう。
――だが、ヨネシゲにとっては後味悪い勝利となった。
つづく……




