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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 八王亭楽太郎
第八部【チャヅケ川の戦い】
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第434話 創造神の産物

 暗闇の中、天から降り注ぐ黄金の光――。

 四人の男女――ゴッドキングダムが、ヨネシゲとマスターの前に降臨する。


 同時にウィンターがヨネシゲの隣に降り立つ。


「ウィンター様!?」


「ヨネシゲ殿、気を付けてください。あの者たちは只者ではありません」


 守護神と呼ばれる少年の頬には一筋の汗が伝う。それを見たヨネシゲは気を引き締める。目の前の男女が相当な実力者であることを瞬時に理解した。


 直後、二人の男女の声が響き渡る。


「「総帥!」」


「あれは……サラにソード!」


 ヨネシゲが振り向いた先には、疾走してくるサラとソードの姿があった。


 やがて二人は、倒れるマスターの元に到着。ソードが主の身体を抱き上げて、サラは今にも泣き出しそうな表情で父親の顔を覗き込む。


「総帥! しっかりしてください!」


「ソード……大丈夫だ……問題ない……」


「何言ってるの!? 問題ない訳ないでしょ! こんなに怪我をしているのに……」


「サラ……そんな顔をするではない……私は大丈夫だから……」


 マスターはそう言いながら手を伸ばすと、娘の瞳から流れ落ちる涙を指で拭ってあげる。


 ヨネシゲがその様子を静かに見守っていると、聞き慣れた声が耳に届いてきた。


「おーいっ! ヨネさーんっ!」


「ウホーッ! ヨネシゲよ! 無事かえ!?」


「ドランカド! マロウータン様! それに皆っ!」


 振り向くとそこには、同輩ドランカドと主君マロウータン、サンディ・クボウ連合軍の猛者たちが駆け寄ってくるのが見えた。


 そしてドランカドがヨネシゲの前までやって来ると、興奮した様子で尋ねてくる。


「ヨネさん! ついにマスターを倒したんですね!?」


「ああ……一応、な……」


「流石ヨネさん! 最強ッス!」


 浮かれるドランカド。すると真四角野郎の言葉に反応したサラがキッと睨む。


「黙りなさいっ! 勝負はまだ終わっていないわ!」


 サラが空想杖を構えるが――


「サラ、もういい。やめなさい……この勝負、我々の完敗だ……」


「パパ……」


 マスターが力ない声で制すると、サラが唇を噛みながら構えていた手を下ろした。


 直後。

 老年男の不気味な笑い声が一帯に響き渡る。


「クックックッ……無様よのう……アーノルド」


「し、師匠……!?」


 一同が頭上へ視線を移すと、宙に浮かびながら不敵に顔を歪めるサミュエルの姿があった。


 すかさずマスターが謝罪の言葉を口にする。


「師匠、申し訳ございません。師匠からお力をお借りしておきながら……このような結果となってしまい……全ては私の責任です……」


 マスターの謝罪を聞いたサミュエルが悪意ある笑みを浮かべる。


「ククッ……仕方あるまい。許してやろう」


「あ、ありがとうございます」


「これで……おあいこだな」

 

「おあいこ……とは?」


 サミュエルの言葉にマスターは首を傾げた。



 そんな会話が行われている頃、気を失っていたダミアンとジュエルが意識を取り戻す。


「うっ……いでででで……」


「ダ……ダミアン……大丈夫……?」


「ああ……俺は平気だ。ジュエルは大丈夫か?」


「うん、私は平気だよ」


「そうか。なら良かったぜ――」


 互いに無事を確認したダミアンとジュエルが前方に視線を移すと、そこにはヨネシゲやマスター、神々の姿があった。


 ダミアンが興奮気味に言葉を漏らす。


「あれは……神様のおっさんじゃん!? 一体何を話してるんだぁ? なんだか面白くなってきやがったぜ……」


 ダミアンは一同のやり取りを静観する選択肢を選んだ。



 一方、マロウータンが突如現れた四人衆に問い掛ける。


「――そなたがサミュエルかえ? 儂の記憶が確かならば、他の三人も世界に名を轟かせる猛者とお見受けいたすが……?」


「クックックッ……いかにも。私が大空想神『サミュエル・ゼウス』だ」


「大空想神じゃと? そなた、神にでもなったつもりかえ?」


「ククッ……ああそうとも。間もなく我々は――この世界を支配する神となる!」


「正気かえ?」


 怪訝そうに顔を歪めるマロウータン。そんな彼らの反応を楽しむように、サミュエルがゴッドキングダムの面々を紹介する。


「ではここで、世界を支配するゴッドキングダムの面々を紹介しよう。――まずは、海の支配者『大海原神(おおうなばらのかみ)』!」


 その茶髪の長身男は、腰に黄金色の布を巻き、肩から青い布を掛けていた。


「俺が大海原神『ダニエル・ネプチューン』だ。以後お見知りおきを」


 大海原神ダニエルは不敵に歯を剥き出す。


「――続いて、森の支配者『大森林神(だいしんりんのかみ)』!」


 その大きく盛られた緑髪の少女は、胸周りと腰回りに黄色の布を巻く。その背中には妖精のような羽根が生えていた。


「キャハハッ! 大森林神『ジェイダ・ドリュアス』だよ。今すぐ泣きながら命乞いすれば、殺さないであ・げ・る♡」


 無邪気に笑う大森林神ジェイダの瞳には底知れぬ悪意が宿っていた。


「――続いて、陸の支配者『大陸地神(だいりくちのかみ)』!」


 積乱雲のような黒髭を生やす力士のような巨漢は、肩に薄青、腹回りに薄赤のペイント。麻のズボンの上には脂肪で覆われた腹がのる。


「大陸地神『ハロルド・ガイア』だ。我々の邪魔をする者は叩き潰す」


 大陸地神ハロルドは、威圧するように赤い瞳を光らせた。


 続けてサミュエルが改めて名乗り始める。


「――そして、私が空想を司る大空想神サミュエル・ゼウスだ。間もなく世界は我々の支配下となる。君たちは我々の下僕となるのだ。光栄に思うがよい」


「いかれてやがるぜ……」


 愉快そうに笑うサミュエル。

 ヨネシゲたちは瞬時にサミュエルたちを敵と認識。鋭い眼差しで神々を睨む。


 そしてマスターたちはサミュエルの発言を理解できず。呆然と神々を見つめていた。


 ここで突然、サミュエルがヨネシゲにある事を尋ねる。


「――ヨネシゲ・クラフトよ」


「……俺の事を知っているんだな?」


「勿論。君のことは良く知っているよ。君も私の事をよく知っているだろう?」


「……っ」


「ククッ。今更隠し事をする必要はあるまい。ありのままに答えてくれ。君が知る『サミュエル・ゼウス』という存在を教えてほしい」


 サミュエルに訊かれたヨネシゲが静かに口を開く。


「――サミュエル・ゼウスは……ソフィアの描いた物語に登場する……邪悪なるラスボスだ……」


 ソフィアの描いた物語を穴が開くほど読んでいたヨネシゲ。当然、ラスボス『サミュエル・ゼウス』の存在を知っている。但し、物語は未完結の為、サミュエルの活躍は殆ど描かれていなかった。


 そして『ラスボス』という言葉に真っ先に反応した男はマスターだった。


「ラスボスとは……一体どういう意味なのだ!? 説明しろ、ヨネシゲ・クラフト!」


 声を荒らげるマスター。

 だが、ヨネシゲが返答するよりも先に、サミュエルの声が天から響き渡る。


「この世界が、創造神によって創り出されたことは紛れもない事実――。そのことは理解しておるな?」


「ええ。この世界の理については、師匠から詳しくお話をお聞きしておりますので、理解しているつもりですが……」


「なら話は早い。私は、この世界の支配を目論む元凶として生み出された存在――創造神の産物なのだ」


「そ、それは……つまり……?」


「英雄アーノルドに始末される為だけに生み出された悪役ということだ」


 衝撃的な真実。

 マスターのみならず、他の者たちも驚愕の表情を見せていた。ただ一人――ヨネシゲ・クラフトを除いては。


 どよめく一同を見下ろしながら、サミュエルがさらなる真実を語り始める。


「私がその事実を知ったのは六十年以上前……まだ少年だった頃だ。


 当時の私は、世界各地の聖域を襲撃し、神たちの抹殺を繰り返していた。生まれ持った力と残忍性が、私を蛮行に駆り立てていたようだ。


 そんなある日のことだ。突如として私の前に創造神『アルファ女神』が姿を現した。

 そしてアルファ女神から真実を告げられた。私がこの世界の元凶として生み出されたことを、な。


 どうやら私の蛮行はアルファ女神の想定を上回るものだったそうでな。『軌道修正』と称して、私の動きを封じようとしてきたのだ。


 当時の私は怖いもの知らずでな。若気の至りというやつだ。アルファ女神が売ってきた喧嘩を買ってやった。


 だが……結果は惨敗。アルファ女神相手に手も足も出なかったよ。


 そして、アルファ女神は私にこう警告した。『このまま筋書きを逸脱した蛮行を繰り返すつもりなら、今ここで貴方の存在を抹消します』とな。


 心底腹立たしかったよ。

 私を蛮行に駆り立てるような思考を植え付けたのは、一体どこの誰だというのだ!?


 私はこみ上げる怒りを抑えながらアルファ女神に尋ねた。『私を始末すれば、貴様が描いた物語は成り立たなくなるぞ?』とな。


 するとアルファ女神は『問題ありません。何故ならば物語は未完結。白紙のページが続いておりますから。物語はいくらでも修正できます』と答えてきた。


 その上でアルファ女神は提案してきた。『結末を変えてみませんか? 貴方の改心次第ではハッピーエンドを迎えられますよ』とな。


 あの時のアルファ女神の笑顔には殺意が湧いたよ。


 だが私は『改心させてください』と即答した。勿論、そのような気持ちなど欠片もない。創造神を欺く為の返事だ。


 この時、私の心は既に決まっていた。私を弄ぶ創造神を排除し、白紙のページとやらに私の物語を描いててやるとな!


 それこそが……悪役に相応しい、真の世界征服だ」 


 サミュエルは一旦言葉を区切ると満悦の笑みを浮かべる。


「クククッ……ようやく訪れたのだよ。白紙のページを描く時がな。長かった、長かったよ。アルファ女神が描いた、既存の物語を歩み切るのに、六十年以上も掛かったわい」


 サミュエルはマスターに視線を移す。


「そして……私が描いた記念すべき1ページ目が『英雄アーノルドの悲劇。不幸の終焉』だ」


 マスターは顔を引きつらせながらサミュエルに訊く。


「師匠……それは一体……どのような意味なのでしょうか……?」


「ククッ……そのままの意味だよ。まあ、わからない者も居るであろうからな。あらすじを説明するとしよう――」


 サミュエルが煽り口調で言葉を発する。


「ある日突然、カルムのヒーロー『アーノルド』は、醜い角刈り男の姿になってしまう。

 アーノルドは元の姿を取り戻すべく、偉大なる神『サミュエル・ゼウス』様の元を訪れた。そこでアーノルドは世界の理、真実を知る。

 元凶ヨネシゲへの復讐を誓ったアーノルドは改革戦士団を設立。愉快でお気楽な仲間たちと共に、クリーンな世界を創り出す戦いの旅がはじまるのであった!」


 サミュエルの言葉を聞き終えたマスターが声を震わせる。


「それが……師匠が描いた……物語だというのですか……?」


「ククッ……左様。どうだ、傑作だろう?」


「要するに……私の人生を狂わしたのはヨネシゲではなく……貴方だというのか!?」


「ああそうだ。実に愉快だったぞ。何一つ疑わずに、私の描いたシナリオ通りに悲劇の主人公を演じてくれるのだからな」


「何故……何故そのようなことを!」


 怒り、悲しみ、困惑――マスターは様々な感情が入り混じった叫びを轟かせる。


 ヨネシゲもまた、マスターと同じ感情を抱いていた。


(コイツが……コイツが……ソフィアが描いた物語をブチ壊していたのか……! 許せねえ……!)


 サミュエルはそんな彼らを嘲笑うように顔を歪めながら言葉を続ける。


「何故? ククッ……決まっているであろう。お前は元々私を滅ぼす存在。そのような不穏分子を私の物語に残しておくと思うか?」


 マスターが怒鳴る。


「ならば何故!? 何故私を生かし続けた!? 私が不穏分子だというのであれば、早い段階で始末しておくべきではなかったのか!?」


「ハッハッハッハッ! それではつまらんだろう? 物語は楽しくなければいかん」


「人の人生を弄んで……楽しいか……?」


「ククッ……これは神に与えられた特権――神の娯楽なのだよ」

 

「ふざけるなっ! よくも私を騙してくれてなっ!」


「騙される方が悪いのだよ」


「クッ……!」


 怒りと悔しさで呼吸を乱しながら歯を剥き出すマスター。

 すると赤髪の魔女っ子――サラが覚束ない足取りで空想杖を構える。


「ふざけるな! よくも私たちの人生を狂わせてくれたなっ!」


「待ちなさい、サラ!」


 マスターが制止するも、サラは(ほうき)に跨がり、サミュエル目掛けて突撃する。


「お前だけは絶対に許さないっ!」


「フン、うるさい小娘だ」


 サミュエルは右手を迫りくるサラに向けると『空気の砲弾』を放った。


「きゃあっ!」


「サラっ!」


 その強烈な風圧に耐えきれず、押し流されてサラの身体は地上に叩き付けられてしまった。


 苦痛で顔を歪めるサラを見下ろしながらサミュエルが言う。


「十分楽しませてもらったが、もうお前たちに用はない」


 マスターはサミュエルを睨む。


「くっ……私たちを始末するつもりか?」


「ああ。次のページを描かねばならんからのう。それに……私の描いた物語を破壊しようと考える連中と、仲良くできると思うか?」


 サミュエルそう言うと、右手を構え始めた。するとその手元には、金色の矢が出現。――その尖端はサラに向けられていた。


 サミュエルがニヤリと歯を剥き出す。


「まずは、愛娘が死ぬところをよく見ておけ」


「や……やめろ……」


「ククッ……アディオス」


「やめろおおおおおっ!」


 マスターの叫びが轟いた刹那――。


 無情にも金色の矢が放たれた。


 目にも留まらぬ速さで突き進む矢。


 気付くと、肉体を突き刺す、グサッという音が一同の耳に届いてきた。


 沈黙が辺りを支配する。

 



 そして、矢を放たれたサラが瞳を大きく見開いた――。


「そ……そんな……嘘でしょ……パパっ!!」


 娘を庇うように立ち尽くすマスター。


 その心の臓は――金色の矢で射抜かれていた。



つづく……

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