第433話 決戦、チャヅケ川の戦い 〜決着〜
チャヅケ川一帯を覆った『裁きの領域』に衝撃波が掛け巡る。
衝撃波の発生源に最も近かったダミアンは咄嗟にバリアを発動するも――
「クソッ! なんて威力だ! このままじゃバリアが――グハッ!」
無数の亀裂が入ったバリアは粉々に砕け散った。同時にダミアンはジュエルを抱えたまま吹き飛ばされる。
ダミアンの身体は近くの岩に激突。そのまま意識を手放した。
ダミアンの位置から少し離れた場所でも衝撃波による被害があった。
その場所には多くの男たちが倒れ伏していたが、全員意識を保っているようだ。
男たちはうめき声を漏らしながらゆっくりと身体を起こす。
「ウホ……なんじゃ……今の衝撃波は……」
「くぅ……凄まじい力っすね……」
状況を理解できずに言葉を交わすマロウータンとドランカドの背後で、サンディ・クボウ連合軍の猛者たちが困惑の顔色を見せていた。
そんな彼らの傍らでは、衝撃波が駆け抜けてきた方向を見つめる男の姿があった。
「今の力は……総帥。いや、ヨネシゲの力も感じる……」
ソードだ。
衝撃波を受けた彼は、その発生源の正体を瞬時に見破っていた。
更にここにも衝撃波の力を感じ取った者がいた。
「――!? 今の力は!?」
先程まで意識を失っていたサラが簡易ベッドの上で目を覚ます。
サラが拘束されているサンディ・クボウ連合軍の本陣には結界が張られており、先程の衝撃波にも耐え抜くことができた。
しかし結界をも貫通してしまう強力な想素の粒子は、サラがよく知るものだった。
「これはパパの想素? パパが本気を出している……!?」
サラは飛び起きるが、自身の両手首に装着された手錠の存在に気付く。
「くっ……あの白塗りオヤジめ……小賢しい真似を……!」
錠で空想術を封じられてしまったサラ。悔しそうに顔を歪めながらもベッドから下りる。
すると彼女の行動に気が付いた監視の兵士たちが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「コラッ! 勝手に起き上がるなっ!」
「ベッドの上で大人しくしていろっ!」
「うるさいっ! 私に指図するな!」
「うっ!」
「グハッ!」
サラは駆け寄ってきと兵士に対して目にもとまらぬ速さで回し蹴りをお見舞い。華奢な脚が兵士の首元を捉えた。
すかさず、呆気に取られるもう一人の兵士の腹部へ膝を打ち込み、瞬く間に兵士を制圧。
「空想錠を装着しているからって、舐めないでちょうだい」
サラは、失神する兵士たちにそう言葉を吐き捨てると、監視の目を掻い潜って敵本陣から脱出するのであった。
同じ頃。
上空では神々たちが地上を見下ろしていた。
サミュエルが不敵に顔を歪めながら言葉を漏らす。
「クックックッ……哀れな男よのう。真の仇敵すら見破れずに、復讐心を剥き出しにしているとはな」
サミュエルの呟きにウィンターが反応する。
「真の仇敵? それはどういう意味でしょうか?」
「クックックッ……直にわかることだ。今はあの男たちの戦いを見守っていたまえ」
サミュエルはそう返答すると、ゴッドキングダムの面々と薄ら笑いを浮かべるのであった。
――衝撃波の起点。
対峙するヨネシゲとマスターは、右、左、右、左と互いに拳をぶつけ合い、第二波、三波となる衝撃波を生み出していた。
互角の拳は膠着状態を長引かすだけ。そう判断した両者は打ち合いを止めると、身を翻して後退。間合いをとった。
だがヨネシゲは間髪入れずに地面を蹴るとマスター目掛けて突撃開始。青鬼と化した角刈り頭が咆哮を轟かせる。
対するマスターは迫りくるヨネシゲを睨みながら右掌を地面に叩きつけた。
刹那。
猛進するヨネシゲの足元に漆黒の靄を伴った同色の針が無数に突き出てきた。
漆黒の針山に串刺しにされたヨネシゲ――と思われたが、障壁となる針を破壊しながら突撃を続けていた。
やがて破竹の勢いでマスターとの間合いを詰めたヨネシゲは、砲弾と化したその濃青の鬼ボディでタックル!
しかしヨネシゲはマスターの身体をすり抜けてしまう。
「なっ!? スペースバリアか……」
「左様。貴様の力では私にダメージを与えることはできない」
如何なる攻撃も異空間へと受け流してしまうスペースバリア。だが、鉄壁の防御を前にしてもヨネシゲは諦めない。
「そんなのやってみなきゃわからねえだろうがよっ!」
間髪入れずにヨネシゲはターン。再びマスター目掛けて飛びかかる。
(確かに……俺の力がお前より下回っていたら傷一つ負わすことはできないだろう。同じスペースバリアの使い手のウィンター様が言っていたのだから間違い。だがこうとも言っていた。「力の差が僅差ならばスペースバリアを破壊できる」と……)
「うおおおおおおおっ!」
「同じ手を……何度やっても結果は同じだぞ」
仁王立ちで待ち構えるマスター。
一方のヨネシゲは渾身の突撃をお見舞いする。
しかし結果は先程と同じ。ヨネシゲはマスターの身体をすり抜けてしまった。
ところが――
「……っ!?」
マスターが一瞬顔を歪める。
一方のヨネシゲも瞳を見開き驚きを隠しきれない表情だ。
(――またすり抜けちまったが……手応えはあった!)
そう。ほんの僅かであるが、ヨネシゲはマスターのダメージを与えた手応えを感じていた。
(ならば――)
するとヨネシゲ。三度目となる突撃を開始。
――だがしかし。
「しつこいぞ、ヨネシゲ! 貴様のそういうところが好かんのだ!」
珍しくマスターは声を荒らげると、瞬時にその身体を紫に発光させる。
ヨネシゲは突進を中断。防御の体制をとる。
「くっ……破壊神に化けるつもりだな!」
ヨネシゲはマスターの次なる一手を読んでいた。前回自分たちを圧倒した、破壊神『オメガ』の姿に変身してくるのだろうと。
案の定、マスターを覆う紫の光が肥大。巨人……いや、怪物の姿を形成する。
やがて光が収まると、ヨネシゲの予想通りの怪獣がギロリと見下ろしていた。
頭部から生える二本の角、黒光りする体毛、鋭い牙と爪、そして赤色に発光する猛獣のような瞳、更には漆黒の翼――破壊神オメガと化したマスターが右掌を構える。
「甘く見ておった。貴様の力を認めよう。だが……これ以上好きにはさせん。『破壊の火球』で貴様に引導を渡してやろう――」
直後、周囲を支配する灼熱の閃光――マスターの右掌に太陽のような火球が出現する。
破壊の火球──前回ヨネシゲを死に至らしめようとした、最強クラスの大技だ。
ヨネシゲの顔が強張る。
(いくら怒神の力を得ているとはいえ、あんなの食らったら火傷じゃ済まねえぞ。……だけど、今の俺なら――)
ヨネシゲは右腕を伸ばす。
するとその手元に青い光が走った刹那、白銀の金棒が出現する。
金棒握るヨネシゲを睨みながら、マスターが僅かに口角を上げる。
「鬼に金棒か……。笑止! ならばこの破壊の火球を受け止めてみよ!」
「臨むところだっ!」
次の瞬間。
マスターの右掌から破壊の火球が豪速で放たれた。
対するヨネシゲは打者の如く金棒を構える。彼には見えている。弾丸の如く迫る灼熱火球の動きが──。
(――こんな時だが、ボアラッシュを思い出しちまうぜ……)
角刈りはかつて金棒で打ち飛ばした盗賊『ボアラッシュ』との戦闘を思い出しながら、迫りくる破壊の火球に向かって金棒を振り抜いた。
「おりゃああああああっ!」
ヒット!
金棒に当たった火球をフルパワーで打ち返す。
火球はマスターに向かって飛んでいくが、途中で爆発。灼熱の炎と爆音が二人を飲み込む。
それでも尚、炎の先を睨むマスター。
すると炎の中から青鬼――ヨネシゲが瞳を青に発光させながら飛び出してきた。
ヨネシゲは金棒を構えてマスターに殴り掛かろうとするも――。
「甘いっ!」
「ぐぶっ!」
破壊神と化したマスターは巨大な掌でヨネシゲを叩き落とす。まるでハエ叩きで落とされたハエだ。
しかし、ヨネシゲは墜落寸前のところで両足を地に着ける。続けて着地と同時に飛翔。咆哮を響かせながら金棒を大きく振り上げた。
──その時。
ヨネシゲの動きがピタリと停止。空中に浮いたまま体を硬直させる。それはマスターが瞳を見開いた刹那のことだった。
「ガハッ!」
悶絶の表情をみせるヨネシゲ。
それもその筈。この時角刈りは、呼吸と心臓の動きをマスターの力によって停止させられていたのだ。
ヨネシゲは藻掻くこともできず。声にならないうめきを漏らしながら瞳を充血させる。
その身体をマスターが乱暴に掴みとる。ヨネシゲの全身にマスターの握力が襲い掛かった。
「アガ……アガガガ……」
「どうした、ヨネシゲよ。苦しいか? 怒神の力を手に入れているのだ。もっと抗ってみせよ」
マスターはそう言いながら更に握力を強めていく。
だがここで救世主出現。
ヨネシゲに力を与えている張本人――怒神オーガが割り込んできたのだ。
オーガは電流纏わせる掌でマスターの頬に強烈な張り手!
『ワガドウホウヲ……カイホウシロッ!』
「グフッ!」
その張り手は神話級。
雷の如く轟音が周囲を走る。
白目を剥きながら大の字に倒れるマスター。破壊神化も解除されてしまった。
すかさず、ヨネシゲは神速をもってマスターとの間合いを詰めると、金棒を大きく振り上げる。
「これでトドメだ!」
直後。
マスターは瞳をカッと見開くと、身体を転がしてヨネシゲの金棒を緊急回避。マスターが横たわっていた場所に金棒が振り落とされると、地面に亀裂を走らせた。
マスターは瞬時に体勢を整えると、ヨネシゲの金棒に対抗するため大剣を作り出す。
マスターは漆黒の靄を纏う大剣を構えてヨネシゲに襲い掛かる。
「覚悟っ!」
「ぬっ!」
振りぬかれた大剣をヨネシゲが金棒で受け止める。
しばらく鍔迫り合いの状態が続いたが、互いに地面を蹴り一歩後退すると、再び金棒と大剣をぶつけ合う。
激しい打ち合い。
重厚な金属音が鳴り響く。
金棒と大剣が激突する度に強烈な火花が散る。
両者一歩も譲らず。
(いつ以来だ……大剣を握るのは……)
そんな中、マスターの脳裏に過去の記憶が蘇っていた――
『――正義の大剣、受けてみよ。カルムのヒーローの名にかけて、お前たちをここで成敗する!――』
(そんな時代もあったな――!)
渾身の力で振り抜かれたマスターの大剣をヨネシゲは受け止めきれず。体勢を崩してしまう。
間髪入れず。
マスターは畳み掛けるように、ヨネシゲの金棒へ大剣を打ち込む。
そして――
「はあああああっ!」
「!!」
マスターの強烈な一振り。宙を舞う金棒。同時にヨネシゲは尻もちをつくように転倒する。
マスターは、顔を青くさせるヨネシゲ目掛けて大剣を振り下ろそうとした――が。
『――この剣は私利私欲を満たす為に使うものではない。君たちを守る為に使うものなのだ』
『わあ、パパ! カッコイイ!』
『うふふ。流石貴方ね。でも、私たちだけはなく、その剣でもっと多くの人々を救ってくださいな』
『フフッ、勿論だ。任せてくれ――』
(――何が、大切なものを守る為に……だ。復讐の為に剣を振り上げているだけではないか。我ながら情けない話だ……)
この時、マスターの心には一瞬の躊躇いが芽生えていた。常人なら気付けない程度の時間だが、マスターが大剣を振り下ろすまでに僅かな遅れが生じていたのだ。
その隙をヨネシゲが見逃す筈もなく。
「食らえっ!」
「!!」
次の瞬間。
角刈り頭から生えていた二本の角が矢の如く発射された。その鋭利な先端がマスターの腹部に突き刺さる。
「おらああああああっ!」
「ぐふっ!」
ヨネシゲはマスターに怯む時間さえも与えず。青の鉄拳がマスターの顔面を捉えた。
吹き飛ぶマスター。
それは彼のスペースバリアが破壊された証拠だ。
やがてマスターの身体は地面に落下。砂袋を地面に叩きつけたような衝撃がヨネシゲの足元を走り去ってゆく。
マスターは身体を起こそうとするも――起き上がれず。
マスターの元まで歩み寄ってきたヨネシゲが静かに告げる。
「――どうやら勝負あったようだな。……この勝負、俺の勝ちだ」
一方のマスターが力ない笑いを漏らす。
「フッフッフッ……この私を戦闘不能に追い込むとはな……やはり……お前こそが……この世界の主人公なのかもしれぬ……」
「マスター……」
どこか悲しげに微笑むマスターをヨネシゲは険しい表情で見つめる。
――その時。
「クックックッ……無様よのう、アーノルドよ」
「……し、師匠……!?」
「あ、アイツらは……!」
ヨネシゲとマスターが天を見上げると、そこには四人の男女――神々が降臨してくるのが見えた。
つづく……




