第432話 決戦、チャヅケ川の戦い 〜総帥〜
突如乱入してきたマスター。
ヨネシゲと視線をぶつけて火花を散らす。
一方、庇われた筈のダミアンが不機嫌そうにマスターを怒鳴る。
「おいっ! 総帥さんよっ! そのオヤジは俺の獲物だっ! 邪魔するんじゃねえ!」
「俺の獲物だと?」
その言葉を聞いたマスターがギロリと背後のダミアンを睨む。
「いつからこの男がお前の獲物になった? ヨネシゲは――私の獲物だ!」
「……っ」
その途轍もない威圧感にダミアンは反論できず。尻もちをついたまま後退りする。そんな部下に総帥が強烈な一言を放つ。
「足手まといだ。ジュエルを連れて下がっていろ」
「くっ……わかったよ! 下がってればいいんだろ!? 下がってればっ!」
ダミアンは悔しそうに顔を歪めるも、実際のところヨネシゲと戦うだけの体力は残っておらず。大人しくマスターの命令に従った。
その様子を横目にしながらマスターが静かに口を開く。
「……先日は仕留め損ねたが、貴様の方から私の前に現れてくれて助かったぞ。今度は必ず息の根を止めてやる……!」
ヨネシゲが表情一つも変えずに尋ねる。
「ああそうかい。それよりも……いいのかよ? 王都を放ったらかしにしちまってよ。俺の首を取るのも大事かもしれねえが、折角手に入れた王都を留守にするとは、随分と不用心じゃねえのか? まあこちらとしては都合が良いがな」
角刈りの問い掛けにマスターが口角を上げる。
「心配無用だ。留守は師匠にお願いしてある――」
マスターはそう言いながら上空に視線を移す。ヨネシゲも天を見上げると、そこにはウィンターと対峙する見慣れない男女四人の姿があった。
マスターが言葉を続ける。
「――貴様たちは、王都にゲネシス皇帝と西海守護役を差し向けたようだが、留守をお願いした師匠がこの場に居るということは……ククッ。つまりそういうことなのだよ。言わなくてもわかるな?」
「くっ……アイツらがオズウェルやロックス閣下を打ち負かしたというのか?」
「左様。師匠は抜かりないお方だ。恐らく邪魔者たちを排除した後、我々を激励する為にライス領までご足労くださったのだろう――」
ヨネシゲの顔が一気に強張る。
(確か……この間言ってたよな。マスターの師匠ってサミュエルの事だろう? 奴はこの世界のラスボスとして生まれた存在だ。オズウェル達を凌駕する力を持っていても不思議じゃない……)
そう。ヨネシゲは知っている。
亡き妻が描いた物語を何百回と読み返していた彼が、ラスボス『サミュエル・ゼウス』の存在を知らない筈がない。
動揺を隠しきれない角刈りに総帥が言う。
「王都の心配よりも、今は自分の身の心配した方が良いのではないか? 私の間合いに入っている時点で貴様の死は確定している」
「くっ……」
ヨネシゲは悔しそうに唇を噛んだ。
前回マスターと対峙した際、破壊神の力を前にして手も足も出なかったことは記憶に新しい。
――だが。
「言っておくが、この間の俺と一緒にされては困るぞ。今の俺は怒神の力を自在に使いこなせる」
「ああわかるとも。この間とは桁違いの力を感じるよ。短期間でここまで急成長するとは末恐ろしい。
だが、私とて努力を怠ってきた訳ではない。貴様がこの世界に来るその前から、精進の日々を送ってきたのだ。
付け焼き刃の力では私を倒すことはできぬぞ」
「そんなのやってみなきゃわからねえだろ」
「フッ……では早速試してみるか?」
睨み合うヨネシゲとマスター。一触即発の状態だ。
すると、ヨネシゲが予想外の言葉を口にする。
「なあ、一度話し合わないか?」
「何?」
マスターが眉を顰める。
「もう怖気づいたか?」
「違う。ただ……お前と戦うのは気が引ける」
「だろうな。貴様に欠片でも良心というものが存在するのであれば、地獄の谷に突き落とした相手と戦いたくはなかろう」
「ああ。俺という存在がこの世界に介入しなければ、お前たちはあるべき生活を送っていた筈だからな」
「ほう、わかっているようだな。なら話が早い。私は、私たちを不幸に陥れた貴様と、貴様という存在を許した創造神を排除し、世界を創り変えるまでだ。貴様と話し合う必要は無い」
きっぱりと言い切るマスターにヨネシゲが問い掛ける。
「考えは変らないのか?」
「それは愚問というものだぞ。私の考えが揺るぐことはない」
「そうか……わかった」
ヨネシゲは諦めた様子で大きく息を漏らした後、険しい表情でマスターに告げる。
「なら、全力でお前の暴走を止めてやる」
「私を止めるだと?」
「ああ。それがお前を暴走に駆り立てる原因を作った……俺の責任だ」
するとマスターが高笑いを上げる。いつもの不気味な作り笑いではなく、素の笑い声で。
「ハッハッハッ! それは随分と立派な考えだな。私も貴様と同じ立場であれば、同じ行動をとるであろう。だが、私を止めるのはそう簡単なことではないぞ?」
「ああ、お前の力は十分理解している。例え怒神の力を授かったとしても、レベルはお前の方が遥かに上だ。けどな、それを理由に俺は逃げねえ。大切な人、大好きなこの世界の為にも……俺は必ず、お前を止めてみせる!」
「……上等だ。掛かってきなさい――」
会話が途切れた直後、マスターが瞳を紫に光らせる。そして全身から漆黒の煙霧を立ち昇らせた。
一方のヨネシゲは瞬時にマスターとの間合いをとると、構えた両拳を青に発光させる。
その様子を距離を置いた場所から眺めるダミアン。意識を失っているジュエルを抱えながら不気味な笑いを漏らす。
「ウッヒッヒッヒッ……見せてもらおうじゃんか、総帥さんよぅ。アンタの本気を。あれだけ偉そうなこと言いやがったんだ、当然あの角刈りジジイを倒せるよなぁ? もし負けたら……総帥の座を明け渡してもらうぜ? ブヒャヒャヒャヒャ!」
そんな小物の独り言など耳に届かず、ヨネシゲとマスターが睨み合う。
「――マスター。俺が勝ったら……改革戦士団を解団して、大人しく法の裁きを受けてくれ!」
「フッ、安心しろ。万が一敗北を喫するような事があれば……大人しくこの場で腹を切る」
「そんな事は許さねえぞ……」
「自分の最期くらい自分で決めさせてくれ。……それで? 私が勝ったら?」
ヨネシゲがニヤリと笑う。
「ヘヘッ。ならそれも自分で決めろよ」
「やはり貴様は……心底腹立たしい男だな――!」
刹那。
両者カッと目を見開き力強く一歩を踏み出した。
瞬間移動の如く間合いを詰めた二人が同時に拳を放った。
「「うおおおおおおおおっ!!」」
激突する青と黒の拳。
強烈な閃光と衝撃波が周囲を飲み込んだ。
つづく……




