第430話 決戦、チャヅケ川の戦い 〜髑髏〜
――戦況は、サンディ・クボウ連合軍が圧倒的優勢。改革戦士団・ウィルダネス連合軍は追い込まれつつあった。
そして、劣勢を強いられているのはこの男も例外ではない。
白銀の長髪を靡かせながら、サンディ家臣やライス領主、マッスル軍団などの攻撃を躱す青年は、改革戦士団四天王『ソード』だ。
サラと並んでマスターが最も信頼を寄せる人物である一方、敵サンディ軍の総大将『ウィンター・サンディ』の実兄でもある。その真の名は『ウィル・サンディ』だ。
そんな折り紙付きの実力者の背中にマッスル軍団が暴走機関車の如くタックル。
「「「「「マッスルのタックルゥゥゥゥゥッ!!」」」」」
「くはっ!」
隙を突かれたソードは吹き飛ばされながら悔しそうに顔を歪める。
(くっ……この俺が雑魚相手に苦戦を強いられるとは……いや、雑魚ならとっくにこの手で始末できている筈だ。奴らはこの短期間で確実にレベルを上げてきている。油断ならない相手だ。だが……)
ソードには、大空想神『サミュエル』から授かった強大な力がある。しかし、未だその力を解放せず。
(まだだ。まだ、サミュエル氏から借りた力を解放する時ではない。あの力は万策尽きた際の最終手段。今からキャパオーバーの力を使っていては身体が持たない――)
ソードは身を翻しながら着地。前方で仁王立ちする猛者たちを睨む。
その猛者たち──サンディ家臣ノア、リゲル家臣ケンザン、ライス領主マッチャンの後方から、黄金に輝く白塗り顔が羽ばたいてきた。
「グワーッグワーッ! ウホホホホホッ!」
「くっ……マロウータンか」
マロウータンはソードの前に降り立つと白鶴の翼を解除。そして諭すように声を掛ける。
「ソードよ、悪いことは言わん。大人しく投降するのじゃ」
ソードは鼻で笑う。
「フッ、投降だと? 俺はまだ負けたつもりはないが?」
「確かにそなたはピンピンしておる。じゃが……全体を見てみよ。チャールズとアンディは討死、サラは儂が拘束した」
「……っ。サラが?」
同輩サラの拘束にソードは困惑の顔色をみせる。
すると背後からガラガラとしたオヤジ声が響く。
「ヘヘッ。ウィルダネスの猛獣『ノーラン・ファイター』もお縄にしてやったッスよ!」
「ほよ? ドランカド、無事じゃったか!」
マロウータンが視線を向けた先には、失神したノーランの首根っこを掴んで引きずる、臣下ドランカドの姿があった。
更にその背後には闊歩する上半身裸の中年男。その痛々しい姿を目にした白塗り顔が絶叫を轟かす。
「シュリーヴ卿っ! どうしたんじゃ!? その夥しい量の流血はっ!?」
頭部や口鼻、身体の至る所から血を流す中年男は、ドランカドの父『ルドラ・シュリーヴ』だった。
しかし大負傷の割には元気そうであり、陽気な声で言葉を返す。
「いや〜、クボウ閣下。ご心配をお掛けしましたな。少々劣勢を強いられましたが、息子の援護と、マッスルたちが授けてくれた回復薬『不死身の鋼鉄戦士・マッスル薬』のお陰で難を逃れましたぞ」
ノーランの具現草汚泥攻撃で体内に大量のグゲンモドキを取り込んでしまったルドラ。
その状態で空想術を使用してしまい、内部具現化による悲劇の自爆を迎える運命だった。
しかし、回復薬『不死身の鋼鉄戦士・マッスル薬』の効果で鋼の筋肉が形成されたことにより、体内で暴発したエネルギーを封じ込めることができたのだ。
ドランカドは父ルドラと顔を見合わせてニヤリと笑みを見せた後、ソードに言い放つ。
「ま、そういうことッス。ソードさんよぉ、もうアンタらに勝ち目はない。大人しく縛につきなっ!」
「縛につくのじゃ」
「ちっ、いい気になるなよ……!」
マロウータン、シュリーヴ親子の加勢により、ソードはますます劣勢を強いられることになった。
――同じ頃。
熱で今にも溶けそうな灼熱の地面の上では、睨み合う青鬼と悪魔――ヨネシゲとダミアンの姿があった。
神の力を早々に駆使するダミアン。
バーナーのように轟音を響かせながら全身に赤色火炎を纏い、その足元には黒煙が渦巻いていた。
対するヨネシゲは、怒神オーガの姿を保ちながら、青の光を全身から放つ。仁王立ちする青鬼は、鋭い眼差しでダミアンの出方を窺っていた。
「さあ……次はどんな大技を繰り出すつもりだ?」
「クソがっ! 余裕こいていられるのも今のだからなっ!」
興奮しながら血走った瞳で睨むダミアン。唾液をミストのように飛ばしながら怒鳴り声をあげると、両腕を大きく広げた。
直後、ダミアンの両腕両脚、更には胴体から、黒光りする漆黒の『髑髏』が出現、幾つも浮き上がってきた。
その姿はまるで髑髏の鎧を纏った狂った悪魔だ。
そして、その髑髏の一つ一つが青鬼――ヨネシゲを睨み、この世の者とは思えない声を漏らす。
『オマエモ……ワレワレノ……ドウホウト……ナレ……』
(気味が悪いぜ……)
流石のヨネシゲもその醜怪な姿を見て不快そうに顔を歪める。
そんな青鬼の姿を見つめながらダミアンが愉快そうに高笑い。
「ブヒャヒャヒャヒャッ! どうしたヨネさん? 怖気づいたか? ま、そんな嫌そうな顔するなってよ。アンタもこの髑髏たちの仲間に加えてやるからよっ――」
すると、髑髏の目が赤く光る。同時にその開かれた口にはエネルギーを充填するように、熱を帯びた赤光が発生し始める。
ダミアンがニヤリと歯を剥き出す。
「ゴミは――焼却処分だ!」
刹那。
ダミアンの身体から浮き出る数十の髑髏から赤色光線が放たれた。
ヨネシゲの視界は赤一色に染まり、皮膚が焼かれるような熱を全身を襲う。
その圧倒的なエネルギーを受けたら骨片すら残さず焼き尽くされることだろう。
――だが。
(相変わらず懲りねえ野郎だな)
『マッタクダ……』
ヨネシゲが心の中で呆れながら呟くと、怒神が相槌を打った。
――そして。
ヨネシゲがカッと瞳を見開く。
直後、青の波動が発生。真っ直ぐに伸びて襲い掛かってきた数十もの赤色光線が波動に押し流され、消滅した。
更に波動は光線を放ったダミアンの身体を飲み込んだ。
「ぐきゃあああああっ!!」
辺りに轟く悲痛な叫び。
やがて、過ぎ去った波動の進路上には、倒れふすダミアンの姿があった。
青鬼は青光りするドームに包まれながら、悪魔を見下ろす。
つづく……




