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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 八王亭楽太郎
第八部【チャヅケ川の戦い】
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第426話 決戦、チャヅケ川の戦い 〜息子〜

 頑固親父ルドラの窮地に駆けつけた男は――息子のドランカドだった。


 ドランカドは倒れる父親の元へ駆け寄ると、一本の小瓶と十手を手渡す。


「これは?」


「見りゃわかるだろう。回復薬と十手だ」


「そのくらいわかるわい!」


 ルドラは怒声を漏らしながらも、受け取った小瓶に視線を移す。


「――何?『不死身の鋼鉄戦士・マッスル薬』……だとぉ?!」


「ああ。マッスルたちから貰った効果覿面(てきめん)の回復薬兼筋肉増強剤だぜ」


「ぬぅ……背に腹は替えられぬ、か……」


 ルドラは顔を引き攣らせながらも、マッスル薬を一気飲み。


 直後、その身体にできた傷が消え、筋肉がモリモリと膨らみ上がる。


「なんと……強烈な薬だ……」


 ルドラはそう言いながら、ドランカドから受けった十手を握りしめる。

 そして息子に尋ねる。


「――ドランカドよ。俺が空想術を使えない状態にあると知って、この十手を渡してきたのか?」


「ああ。親父の身体についたその汚え泥から、具現草の匂いがプンプンしてくるからな。……つまり、そういう事なんだと俺なりに解釈しているが……違ったか?」


「うむ、察しの通りだ」


 ドランカドは、周囲に漂う具現草臭と汚泥を見て、ルドラが陥ってる状況を瞬時に理解。その上で丸腰の父親に予備の十手を手渡したのだ。


「礼を言うぞ……」


「ヘヘッ。礼を言う暇があったら早くコイツを引っ捕らえてくれよ」


 親子が視線を移した先には、不愉快そうに顔を歪めるノーランが仁王立ちしていた。


「さっきから何好き勝手してやがる? この俺を怒らせてタダで済むと思うなよ!」


「あん? 好き勝手やってるのは貴様の方だろっ! 俺は貴様を許さねえ!」


 怒りで身体を震わせる息子を横目にしながら、ルドラがノーランに言う。


「我々はウィルダネスの悲劇を忘れない。二度と同じ悲劇を繰り返さない為にも、今日ここで貴様を捕らえて――」


 親子が声を合わせる。


「「ウィルダネスの悲劇に終止符を打つ!」」


 親子から鋭い眼光を向けられたノーランは――


「クックックッ……ハッハッハッハッ!」


 高笑い。


「ウィルダネスの悲劇だぁ? 随分と洒落た愛称を付けてるじゃんか。大失態を美化するとは、流石お国のやる事は違うぜ」


「「何?」」


「フッ、『俺たちは悪くねえ』っていう考えが透けて見えて反吐が出るぜ」


 嘲笑するノーラン。

 一方のシュリーヴ親子は小声で言葉を交わす。


「親父、とりあえずあの野郎の口を塞いでやるか」


「ああ。相手の挑発に乗るつもりはないが、流石に耳障りだ」


 親子は互いに顔を見合わせて頷くと――地面を蹴った。


「「ぬおおおおおおおっ!!」」


「っ!」


 十手片手に鬼の形相で爆走してくる二人のオヤジ。ノーランは顔を強張らせながらも、親子の突撃を阻止する為、汚泥(ヘドロ)を撒き散らす。


 一方の親子は土砂降りのように降り注ぐ汚泥(ヘドロ)を浴びながら猛進。右手の十手を大きく振り上げた。


「覚悟しやがれっ!」

「この愚か者めがっ!」


「!!」


 次の瞬間、親子の強烈なひと振りがノーランの頭部に直撃。


「ぎゃあああああっ!」


 たまらず転倒するノーラン。

 すかさず親子がノーランに飛び乗ろうとするも――


「死ねえええええっ!」


「「!!」」


 ノーランは咄嗟に両掌を構えると、無数の泥玉――汚泥(ヘドロ)の弾丸を連射させる。


 親子は緊急回避、それぞれ別の方向へ飛翔。

 ところが親子は腕や脚に数発ほど被弾。傷口から鮮血が漏れ出す。

 それだけではない。汚泥(ヘドロ)の弾丸を被弾したことにより、大量の有害物質が体内に取り込んでしまった。その毒が身体を蝕むことは必至である。


 しかし、今親子に先のことまで考えている余裕はない。次なる脅威が襲いかかろうとしていた。


 大量に発射された汚泥(ヘドロ)の弾丸はやがて空中に飛散。周囲には強烈な悪臭が立ち込めていた。


 ノーランが悪意ある笑みを浮かべる。


「ククッ。爆ぜるがいい!」


「「!!」」


 ノーランが指を鳴らした刹那。

 指から発生した火花が漂う有毒ガスに引火。大爆発を引き起こした。


「「うわあああああっ!」」


 吹き飛ぶ親子。

 ドランカドは地面を数回転がり停止。一方のルドラも同じくだったが――頑固親父が行き着いた先は沼。ノーランが事前に仕掛けていた『汚泥(ヘドロ)の沼』に落ちてしまった。


「親父っ! 大丈夫かっ!?」


「ぐぬっ!? なんだこれはっ!? 抜け出せんぞ!」


 汚泥(ヘドロ)の沼に嵌まるルドラ。

 心配したドランカドが駆け寄ろうとするも――


「馬鹿野郎っ! 俺に構うなっ! ノーランを捕らえろっ!」


「……わかった!」


 ドランカドは進路変更。

 自身が引き起こした大爆発で倒れ伏すノーランの元へ全力疾走。


「ノーラン・ファイター! 大人しく縛につけっ!」


「くっ……捕まってたまるかよっ!」


 するとノーランは右手から汚泥(ヘドロ)を放射。汚泥(ヘドロ)の手と化したそれが、ドランカドの右手から十手を奪い去る。


「クソッ……しまった……」


「クックックッ……御用だ御用だってかぁ? ハッハッハッハッ!」


 ノーランはドランカドから奪い取った十手を掲げながら嘲笑するも――


「勝ったつもりでいるんじゃねえ!」


「なっ!?」

 

 瞬間移動の如く間合いを詰めたドランカドが、ノーランの顔面に正義の鉄拳制裁。


「食らえっ!」


「グボホッ!」


 鉄拳が、ノーランの鼻を、歯を折る。

 それでも尚、具現草王は粉々に砕けたサングラスから鋭い眼光を向ける。


「いい気になるなよっ!」


 ノーランは右腕を振り抜いて汚泥(ヘドロ)を振りまく。真四角野郎は回避できず、それを全身に受けてしまった。

 そして、その汚泥(ヘドロ)の粘着性は強烈。ドランカドの身動きを完全に封じた。


 更に傷口から入り込んだ有害物質が悪さを働く。ドランカドの全身が激痛と痺れに支配される。


「くっ……くそっ……」


 悔しさで顔を歪めるドランカド。

 一方のノーランは血塗れの顔面で真四角野郎を見下ろしながら、懐から強烈な火力を持つピストル『空想銃』を取り出す。


 ノーランはドランカドに銃口を向けながら怒鳴り散らす。


「舐めやがって! ぶっ殺してやる! この俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやるよっ!」


 ノーランが引き金に指を掛ける。



 ――ドランカド、危うし。



 その様子を沼の中から見つめるルドラ。額に汗を滲ませながら歯をギリギリと鳴らす。


(マズイぞ! このままではドランカドが……! 何か良い手はないか!?)


 必死に思考を巡らせるルドラ。


 なのに頭を過るのは――あの日、息子と交わした些細な会話だった。


『――ドランカドや。お前の将来の夢をパパに教えておくれ』


『うん。僕、大きくなったらパパみたいな立派な保安官さんになって、世界を救うんだぁ!』


『そうかそうか! 流石は俺の息子だ! 期待しておるぞ――』


(――こんな所で……息子を……死なせてたまるか……!)




 ノーランが折れた歯を剥き出す。


「死ねえええええっ!」


「!!」


 ノーランが空想銃の引き金を引こうとした――その時。


 突如、沼から閃光が発生。


 同時に、まばゆい光の中から飛び出す魔人ジン。


 魔人ジン――ルドラは上空へ急上昇。両手を振りかざし黒雲を発生させる。


 それを見たドランカドが悲痛な叫びを上げる。


「ダメだっ! オヤジっ! 空想術を使うなっ! 身体が破裂しちまうぞっ!!」


 ルドラはそんな息子に――優しく微笑みかける。


「ドランカド……母さんをよろしく頼むぞ……」


「オヤジっ!!」


「裁きの雷、受けてみよっ!」


 次の瞬間。

 凄まじい稲妻が黒雲から放たれた。

 稲妻はノーランを貫き、その身体をまる焦げにする。


 意識を完全に手放したノーランが大の字で倒れる。


 ――直後、上空で爆発が発生。


 血の雨がドランカドに降り注ぐ。


「オヤジ……オヤジィィィィィッ!!」






 ――同じ頃。

 爆発が起きた空の更に上空では、神々の戦いが勃発していた。


 鮮やかな数色の閃光はぶつかり合う度に混沌と交わる。


 加えて、轟音と衝撃波が支配する空は、この世の終わりと呼べる光景だ。


 そして、恐ろしい現象を発生させる人物の一人が――猫神化した少年『ウィンター・サンディ』。

 対するは、神を自称する四名の男女――秘密結社『ゴッドキングダム』だ。


 その、ゴッドキングダムのリーダー格である、白髪と同色の長い髭を持つ老年男――大空想神『サミュエル』が愉快そうに笑いを漏らす。


「クックックッ。たった一人で我々と互角に渡り合うとは、流石はトロイメライの守護神だな」


 ウィンターは無表情を貫く。


「『サミュエル・ゼウス』――イメージア教国の特級空想術師が、斯様な場所で何をされているのでしょうか? それに……他の方々も他国で名を馳せる猛者たち――」


 ウィンターは、サミュエルの背後に並ぶ『大陸地神』『大森林神』『大海原神』を名乗る男女を睨む。


 そんな少年を見つめながらサミュエルが言葉を返す。


「ククッ、そう怖い顔をするな。我々は君と戦いに来たわけではない。この戦いを傍観しに来たのだよ」


「傍観ですって?」


「左様。この戦いの結末次第で、我々の次なる行動が決まるものでな。こうして見守っている次第なのだ」


 サミュエルはそう言うと、薄ら笑いを浮かべながら、地上へ視線を移す。


 その様子を横目にしながらウィンターが思案する。


(他の者たちの援護に向かいたいところですが……彼から目を離すわけにはいきませんね……)


 ウィンターはゴッドキングダムの監視を継続することにした。





 ――地上では相変わらず激しい戦闘が続いていた。


 マロウータンの甲高い声がこだまする。


麻呂芝居(マロプレイ)『桃から生まれたマロ太郎』!」


 ♪〜


 直後、愉快で和やか民謡が周囲に響き渡る。


 続けて、チャヅケ川の上流から――巨大な桃が流れてきた。


「ふざけるのも……いい加減にしなさい……!」


 サラが苛立った様子で顔を歪める。



つづく……

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