第426話 決戦、チャヅケ川の戦い 〜息子〜
頑固親父ルドラの窮地に駆けつけた男は――息子のドランカドだった。
ドランカドは倒れる父親の元へ駆け寄ると、一本の小瓶と十手を手渡す。
「これは?」
「見りゃわかるだろう。回復薬と十手だ」
「そのくらいわかるわい!」
ルドラは怒声を漏らしながらも、受け取った小瓶に視線を移す。
「――何?『不死身の鋼鉄戦士・マッスル薬』……だとぉ?!」
「ああ。マッスルたちから貰った効果覿面の回復薬兼筋肉増強剤だぜ」
「ぬぅ……背に腹は替えられぬ、か……」
ルドラは顔を引き攣らせながらも、マッスル薬を一気飲み。
直後、その身体にできた傷が消え、筋肉がモリモリと膨らみ上がる。
「なんと……強烈な薬だ……」
ルドラはそう言いながら、ドランカドから受けった十手を握りしめる。
そして息子に尋ねる。
「――ドランカドよ。俺が空想術を使えない状態にあると知って、この十手を渡してきたのか?」
「ああ。親父の身体についたその汚え泥から、具現草の匂いがプンプンしてくるからな。……つまり、そういう事なんだと俺なりに解釈しているが……違ったか?」
「うむ、察しの通りだ」
ドランカドは、周囲に漂う具現草臭と汚泥を見て、ルドラが陥ってる状況を瞬時に理解。その上で丸腰の父親に予備の十手を手渡したのだ。
「礼を言うぞ……」
「ヘヘッ。礼を言う暇があったら早くコイツを引っ捕らえてくれよ」
親子が視線を移した先には、不愉快そうに顔を歪めるノーランが仁王立ちしていた。
「さっきから何好き勝手してやがる? この俺を怒らせてタダで済むと思うなよ!」
「あん? 好き勝手やってるのは貴様の方だろっ! 俺は貴様を許さねえ!」
怒りで身体を震わせる息子を横目にしながら、ルドラがノーランに言う。
「我々はウィルダネスの悲劇を忘れない。二度と同じ悲劇を繰り返さない為にも、今日ここで貴様を捕らえて――」
親子が声を合わせる。
「「ウィルダネスの悲劇に終止符を打つ!」」
親子から鋭い眼光を向けられたノーランは――
「クックックッ……ハッハッハッハッ!」
高笑い。
「ウィルダネスの悲劇だぁ? 随分と洒落た愛称を付けてるじゃんか。大失態を美化するとは、流石お国のやる事は違うぜ」
「「何?」」
「フッ、『俺たちは悪くねえ』っていう考えが透けて見えて反吐が出るぜ」
嘲笑するノーラン。
一方のシュリーヴ親子は小声で言葉を交わす。
「親父、とりあえずあの野郎の口を塞いでやるか」
「ああ。相手の挑発に乗るつもりはないが、流石に耳障りだ」
親子は互いに顔を見合わせて頷くと――地面を蹴った。
「「ぬおおおおおおおっ!!」」
「っ!」
十手片手に鬼の形相で爆走してくる二人のオヤジ。ノーランは顔を強張らせながらも、親子の突撃を阻止する為、汚泥を撒き散らす。
一方の親子は土砂降りのように降り注ぐ汚泥を浴びながら猛進。右手の十手を大きく振り上げた。
「覚悟しやがれっ!」
「この愚か者めがっ!」
「!!」
次の瞬間、親子の強烈なひと振りがノーランの頭部に直撃。
「ぎゃあああああっ!」
たまらず転倒するノーラン。
すかさず親子がノーランに飛び乗ろうとするも――
「死ねえええええっ!」
「「!!」」
ノーランは咄嗟に両掌を構えると、無数の泥玉――汚泥の弾丸を連射させる。
親子は緊急回避、それぞれ別の方向へ飛翔。
ところが親子は腕や脚に数発ほど被弾。傷口から鮮血が漏れ出す。
それだけではない。汚泥の弾丸を被弾したことにより、大量の有害物質が体内に取り込んでしまった。その毒が身体を蝕むことは必至である。
しかし、今親子に先のことまで考えている余裕はない。次なる脅威が襲いかかろうとしていた。
大量に発射された汚泥の弾丸はやがて空中に飛散。周囲には強烈な悪臭が立ち込めていた。
ノーランが悪意ある笑みを浮かべる。
「ククッ。爆ぜるがいい!」
「「!!」」
ノーランが指を鳴らした刹那。
指から発生した火花が漂う有毒ガスに引火。大爆発を引き起こした。
「「うわあああああっ!」」
吹き飛ぶ親子。
ドランカドは地面を数回転がり停止。一方のルドラも同じくだったが――頑固親父が行き着いた先は沼。ノーランが事前に仕掛けていた『汚泥の沼』に落ちてしまった。
「親父っ! 大丈夫かっ!?」
「ぐぬっ!? なんだこれはっ!? 抜け出せんぞ!」
汚泥の沼に嵌まるルドラ。
心配したドランカドが駆け寄ろうとするも――
「馬鹿野郎っ! 俺に構うなっ! ノーランを捕らえろっ!」
「……わかった!」
ドランカドは進路変更。
自身が引き起こした大爆発で倒れ伏すノーランの元へ全力疾走。
「ノーラン・ファイター! 大人しく縛につけっ!」
「くっ……捕まってたまるかよっ!」
するとノーランは右手から汚泥を放射。汚泥の手と化したそれが、ドランカドの右手から十手を奪い去る。
「クソッ……しまった……」
「クックックッ……御用だ御用だってかぁ? ハッハッハッハッ!」
ノーランはドランカドから奪い取った十手を掲げながら嘲笑するも――
「勝ったつもりでいるんじゃねえ!」
「なっ!?」
瞬間移動の如く間合いを詰めたドランカドが、ノーランの顔面に正義の鉄拳制裁。
「食らえっ!」
「グボホッ!」
鉄拳が、ノーランの鼻を、歯を折る。
それでも尚、具現草王は粉々に砕けたサングラスから鋭い眼光を向ける。
「いい気になるなよっ!」
ノーランは右腕を振り抜いて汚泥を振りまく。真四角野郎は回避できず、それを全身に受けてしまった。
そして、その汚泥の粘着性は強烈。ドランカドの身動きを完全に封じた。
更に傷口から入り込んだ有害物質が悪さを働く。ドランカドの全身が激痛と痺れに支配される。
「くっ……くそっ……」
悔しさで顔を歪めるドランカド。
一方のノーランは血塗れの顔面で真四角野郎を見下ろしながら、懐から強烈な火力を持つピストル『空想銃』を取り出す。
ノーランはドランカドに銃口を向けながら怒鳴り散らす。
「舐めやがって! ぶっ殺してやる! この俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやるよっ!」
ノーランが引き金に指を掛ける。
――ドランカド、危うし。
その様子を沼の中から見つめるルドラ。額に汗を滲ませながら歯をギリギリと鳴らす。
(マズイぞ! このままではドランカドが……! 何か良い手はないか!?)
必死に思考を巡らせるルドラ。
なのに頭を過るのは――あの日、息子と交わした些細な会話だった。
『――ドランカドや。お前の将来の夢をパパに教えておくれ』
『うん。僕、大きくなったらパパみたいな立派な保安官さんになって、世界を救うんだぁ!』
『そうかそうか! 流石は俺の息子だ! 期待しておるぞ――』
(――こんな所で……息子を……死なせてたまるか……!)
ノーランが折れた歯を剥き出す。
「死ねえええええっ!」
「!!」
ノーランが空想銃の引き金を引こうとした――その時。
突如、沼から閃光が発生。
同時に、まばゆい光の中から飛び出す魔人ジン。
魔人ジン――ルドラは上空へ急上昇。両手を振りかざし黒雲を発生させる。
それを見たドランカドが悲痛な叫びを上げる。
「ダメだっ! オヤジっ! 空想術を使うなっ! 身体が破裂しちまうぞっ!!」
ルドラはそんな息子に――優しく微笑みかける。
「ドランカド……母さんをよろしく頼むぞ……」
「オヤジっ!!」
「裁きの雷、受けてみよっ!」
次の瞬間。
凄まじい稲妻が黒雲から放たれた。
稲妻はノーランを貫き、その身体をまる焦げにする。
意識を完全に手放したノーランが大の字で倒れる。
――直後、上空で爆発が発生。
血の雨がドランカドに降り注ぐ。
「オヤジ……オヤジィィィィィッ!!」
――同じ頃。
爆発が起きた空の更に上空では、神々の戦いが勃発していた。
鮮やかな数色の閃光はぶつかり合う度に混沌と交わる。
加えて、轟音と衝撃波が支配する空は、この世の終わりと呼べる光景だ。
そして、恐ろしい現象を発生させる人物の一人が――猫神化した少年『ウィンター・サンディ』。
対するは、神を自称する四名の男女――秘密結社『ゴッドキングダム』だ。
その、ゴッドキングダムのリーダー格である、白髪と同色の長い髭を持つ老年男――大空想神『サミュエル』が愉快そうに笑いを漏らす。
「クックックッ。たった一人で我々と互角に渡り合うとは、流石はトロイメライの守護神だな」
ウィンターは無表情を貫く。
「『サミュエル・ゼウス』――イメージア教国の特級空想術師が、斯様な場所で何をされているのでしょうか? それに……他の方々も他国で名を馳せる猛者たち――」
ウィンターは、サミュエルの背後に並ぶ『大陸地神』『大森林神』『大海原神』を名乗る男女を睨む。
そんな少年を見つめながらサミュエルが言葉を返す。
「ククッ、そう怖い顔をするな。我々は君と戦いに来たわけではない。この戦いを傍観しに来たのだよ」
「傍観ですって?」
「左様。この戦いの結末次第で、我々の次なる行動が決まるものでな。こうして見守っている次第なのだ」
サミュエルはそう言うと、薄ら笑いを浮かべながら、地上へ視線を移す。
その様子を横目にしながらウィンターが思案する。
(他の者たちの援護に向かいたいところですが……彼から目を離すわけにはいきませんね……)
ウィンターはゴッドキングダムの監視を継続することにした。
――地上では相変わらず激しい戦闘が続いていた。
マロウータンの甲高い声がこだまする。
「麻呂芝居『桃から生まれたマロ太郎』!」
♪〜
直後、愉快で和やか民謡が周囲に響き渡る。
続けて、チャヅケ川の上流から――巨大な桃が流れてきた。
「ふざけるのも……いい加減にしなさい……!」
サラが苛立った様子で顔を歪める。
つづく……




