第2話 混血の少年 打ちのめされる
ジークは急いで朝稽古に向かう。
既に寝坊しているのだ。
そのうえ急いでこなかったとあれば、どんな事になるか想像に難くない。
走りながら中庭に向かいつつ、すれ違うメイドたちに朝の挨拶をする。
途中で翼が何かに当たって、何かが割れたような音が後方でした気がするが気のせいである。
うん……気のせいだよね。
中庭に着くとそこには仁王立ちした修羅がいた。
「おはようジーク。 随分と遅かったじゃないか 」
父レギウスは笑顔だった。
うん、実にいい笑顔だ。
目は一切笑っていない。
あ、だめだ。 これ本気で怒ってるやつだ。
この状況をどうにか打破しようとジークは頭をフル回転させる。
そして思い出した。
「お、おはようございます父上。 実はですね朝起きたところ、壁に角が刺さって抜けなくなっていまして、たった今アレク兄様に引き抜いてもらったところです 」
ジークは笑顔で答える。
嘘は言っていない。
ただ抜けなかったのは起きて数分程度であり、目覚めてすぐアレクが来たので正直誤差レベルである。
だがレギウスの笑顔は変わらなかった。
むしろより深まったと言える。
「なるほどね。 確かにそれはありそうな状況だ。 でも思い出したんだよ。 確かにジーク、君はよく寝起きで壁に刺さっているよ。 だけどいつも最終的には翼を使って無理やり脱出しているよね? 」
その言葉にジークは冷や汗をかいた。
あ、だめだこれもう見抜かれてる気しかしない。
「おかしいなぁ。 いつもはジークが翼を使うと、部屋がめちゃくちゃになるから凄い音がするはずなんだけど……私は聞いた覚えがないんだよね。 つまりアレクが起こしに行った前後位に起きたって考えるんだけど、違うかな? 」
もう無理だ。
完全に見抜かれている。
どうする? どうする? どうする?
正直に謝る以外の選択肢がない。
「はい。 確かにアレク兄様が起こしに来る直前位に目覚めました。 元から寝坊してたんです。 ごめんなさい 」
ジークはしっかりと頭を下げて謝った。
その様子にレギウスも満足したのか稽古を始めようとしている。
「よし。 じゃあいつもの打ち込み稽古から始めようか。 私がどこかしらで隙を作るから、それを見抜いて攻撃してきなさい 」
そう言ってレギウスは模擬剣を構える。
ジークも模擬剣を構えるが、攻め方に悩む。
だが余り悩んでもいられない。
悩み過ぎると地稽古に発展して、向こうから攻めてくるからだ。
ジークは足に力を籠めて突撃する。
何の考えもなしの突撃ではない。
ジークはここ数年の稽古で、体の特徴を生かした訓練をさせられていたのだ。
ジークの足は普通の魔人族のそれとは違う。
ジークの脚部は人狼のそれである。
持久力と瞬発力に優れている。
だが直線的過ぎる動きを当然レギウスは回避する。
しかし次の瞬間レギウスは大きく後ろに下がった。
避けられる事を、計算に入れていたジークが、尻尾での薙ぎ払いをかけてきたのである。
「んー今回もだめでしたか……いけると思ったのですが 」
「まだまだ動きが単純すぎる! 既に基礎は出来ているのだから、それを応用しろ! 」
残念そうなジークと、まだまだ余裕のあるレギウス。
だが実はジークも、その程度で父親が倒せると思っていなかった。
8歳児ではあるものの、数年間毎日父親と稽古をしているのだ。
それぐらいは解る。
そして避けられるまでが、ジークの計算通りであった。
ここからが本番である。
ジークは後方に下がった父親に対して、翼を広げ羽ばたかせる。
ジークの翼はグリフォンのそれである。
その翼によって生み出される風圧は、並大抵の相手であれば吹き飛ばされる。
だがジークの父レギウスは並大抵の相手ではなかった。
種族的にも屈強な肉体を持つ魔人族であり、帝国辺境において幾度の戦に参加した豪傑であった。
しかしそんなレギウスでも、回避した直後に起こる突風には体制を崩す。
ジーク自身も父が吹き飛ばされるとは思っていない。
重要なのは予測していないタイミングで体勢を崩す瞬間だ。
そこに再びジークは突撃をかける。
流石にこれにはレギウスも驚愕した、しかし一瞬である。
レギウスは崩した体勢を、わざと更に崩して見せた。
ジークの突撃は確かに速い。
だが、速いからこそ、短い距離では直線的な動きになる。
ジークはまだまだ急な動きに対応できていなかった。
ジークの剣はレギウスのいた位置を通り過ぎる。
そして、出されていた足に引っ掛かり見事なまでに転ぶ。
「応用しろとは言ったが直線的過ぎる! もっと動け! 何のための足と翼だ! 」
レギウスの張り上げた声に、ジークは更に闘志を燃やし、稽古は次第に熱を上げていく。
1時間ほど経ち、レギウスが頭の後ろで縛っていた髪を解く。
稽古終了の合図だ。
「だいぶ良くなってきた。 が、まだまだだ。 今のお前程度の動きが出来るやつ等、広い世界ではごろごろ居る。 基本を忘れず、しかし臨機応変に対応してみせろ。 以上だ! 」
結局は今日も一撃入れる事すら叶わなかった。
自信があっただけに残念である。
しかし、やっと朝食にありつけるというものだ。
「ありがとうございました 」
稽古の礼をし、ジークは食卓に向かう……はずだった。
食卓に向かうジークの横をメイドが駆けていく。
そしてメイドから何かの報告を聞いたレギウスはジークを呼び止めた。
手招きして、こっちに来いと言っているが、正直に言って行きたくない。
ベーコンが待っているし、なにより既に顔に青筋を浮かべた笑顔の人間の所になど、誰も行きたくはないだろう。
どうやら急いで中庭に来る途中で花瓶を割っていたらしい。
え?それも複数?
いやぁそんな事した覚えは……はい、ありました。
ところで父上、何故髪を結い直して模擬剣を構えているのですか?
え?稽古再開?今度は模擬戦?
元気が有り余っているようだから?
もう少し運動の必要がありそう?
この後、普通では考えられないようなスピードで迫ってくる父親相手に、
ジークの意識が途切れるまで模擬戦は続く事になった。
これから頑張って書いていきたいと思いますので
興味を持っていただけたり、面白いと思っていただければ幸いです




