プロローグ(2) 混血の赤子
出産に喜び勇んで扉を開けたレギウスは困惑していた。
これは何らかの呪いであるのか。
「まるで伝説の魔獣キマイラの様ではないか 」
赤子の体には小さいながらグリフォンの翼。
そしてドラゴンの尾が生えていた。
こんな赤子に前例等無く。
正に伝説の混合魔獣キマイラを彷彿させるものであった。
一瞬、不義の子かとも疑ったが、数種族の特徴を備えている事の説明にはならない。
隔世遺伝というやつなのだろうか。
レギウスにとって、この子が何故こう生まれてしまったのかというのは確かに疑問であったが、今はそれ以上にこの子の未来が心配であった。
「一度ホールに戻る。 出産祝いに駆けつけたもの達を帰らせ、この子の事を話し合わねばならない 」
レギウスはそう言って部屋を出た。
この後ホールで何を言ったかは覚えていない。
なにせ息子の事で頭がいっぱいだったのだ。
レギウスの種族であり帝国の主種族である魔人族は純血を尊ぶ。
レギウスの治める領地では、レギウスの信条もあり種族差別はなかったが、帝国全土でみると他種族は虐げられる傾向にあった。
そんな中で混血の極みの様なこの子の存在はどう映るだろうか。
忌み子? 不吉の象徴?
そんな扱われ方をされるのは目に見えていた。
だからこそこの子を守れるのは自分しかいないのだ。
レギウスはそう考えていた。
ホールに集まっていた来客たちを帰し、レギウスは執事のデアと共に執務室に入った。
デアはレギウスの十数年来の友人であり、最も信頼できる執事であった。
「デア。 あの子の事でなにか解った事はあるか? 」
ホールに赴き、戻ってくるまでに数時間も立っていなかったが、聞かざるを得なかった。
この状況が少しでも前に進んでいてほしい。
そんな祈りに満ちた言葉であった。
「はい。 書庫にある家系図を調べましたところ、興味深い内容が見つかりました 」
レギウスは驚いた。
全く期待していなかったのだから当然である。
「それで、やはり呪いの類か? それとも隔世遺伝か? 」
「どうやら後者の様でございます。 8世代以上前の記録ですので、詳しい事は解りませんが、どうやら竜族のものや、グリフォンの一族等、多岐にわたり血が混じっているようでして 」
レギウスはデアが調べた結果を聞いた。
自らの家が混血である事には左程驚かなかった。
シュミット家は帝国建国時からの名家である。
それと同時に今と違い、他種族に寛容であった時代からの家という事も意味していた。
建国期の不安定な情勢で、各部族との政略結婚により、地域安定化を計ったのがシュミット家の祖である。
「なるほどな。 原因はそれでよいとして、問題はこれからどうするかだな 」
レギウスは頭を抱えた。
幸いなことに嫡男ではない。
なのでシュミット家自体にはそこまでの影響はないと考えられる。
しかしこの体だ。
社会の中で生活する事が難しいだろう。
「よし。 特異だというのなら特異中の特異にしてやろう 」
「それはどういうことでしょうか? 」
デアはその発言の意味が解らず困惑する。
「純血派の連中はこの子を必ず疎む。 なら周囲の誰もが認めるような才覚を身に着けさせて、帝国にとって代えがたい人材にしてしまおうというのだ 」
デアはその話に理解を示した。
しかし同時にある懸念についても思い浮かんだのである。
「なるほど。 趣旨は理解致しました。 しかし才覚を身に着けさせると仰いましても。 まさかエイス様やアレクサンデル様以上に教育に力を入れるおつもりですか? 」
「その通りだ。 エイスやアレク以上にすることになる。 この子には時間がないからな 」
レギウスからしても、長男のエイスも次男のアレクサンデルも秀才である。
自分がなにか手を出さずとも、独りでに大成するだろうという確信があった。
だがこの子は違う。
この体である以上、父親である自分がなんとかしなければならない。
その時はそう考えていた。
特に既に頭角を現している長男エイスに至っては、もう手を放してもよいとすら思っていたのだ。
これが当人からどう思われるかは別として。
その愛情と誇りが伝わるかというのは別としてである。
しかしそんな事はレギウスの頭にはなかった。
既にこの三男をどう育てていくかという事に頭が働いていたからだ。
「所でレギウス様。 若様のお名前はいかがいたしましょうか 」
デアに言われて初めて、自分が未だ名前を付けていない事に気が付いた。
正直色々と候補はあったのだが、この数時間で皆、頭から消し飛んでしまったのだ。
そこで目に入ったのがシュミット家の家系図である。
丁度始祖となるジルクニスの名前が目に入ったのだ。
他種族との融和を図った始祖の姿が、レギウスにはこの混血の子と重なって見えた。
だからこそ彼の名を決めた。
「よし。 この子の名はジルクニスだ! ジルクニス・フォン・シュミットだ! 」
レギウスはとても誇らしそうに子供の名前をつけて執務室を後にした。
出産を終えた妻をねぎらう為である。
こうして嵐の晩は幕を下ろした。
ジルクニス・フォン・シュミットと名付けられた混血の赤子の誕生によって。
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そして嵐の晩から8年の歳月が経った。
8年後のシュミット領、混血の少年の物語はここからはじまるのだ。
これから頑張って書いていきたいと思いますので
興味を持っていただけたり、面白いと思っていただければ幸いです




