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プロローグ(0話)キマイラが生まれた日

 風の音すら聞こえない静かな夜。薄暗い部屋の中で、既に動かすたびに悲鳴を上げる体を動かし、男は最後の仕事に取り掛かろうとしていた。


 小さな明りの元、男は筆を執り物語を書き記す。

 それは吟遊詩人の謡うような綺麗な物語ではない。

 黒く醜く苦痛を伴う物語であった。


 「ああ・・・だがそこにはいつも光があった 」


 そう呟く男の顔は満ち足りていた。


 懐かしさからというわけではない。

 求めていたもの、歩んできた道は、多くの困難と喪失に見舞われたが

 決して暗いものだけではなかった。

 だからこそ今筆をとらなければならないのだ。


 後世に彼らの生きた証を残すために。


 

 これはキマイラロードと呼ばれたある男の物語である。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今は遠い昔、雷鳴が轟く嵐の晩の出来事である。

 魔族の国ハバリア帝国辺境、シュミットの街にある領主館は外の騒がしい風や雷等ものともしない熱気に包まれていた。

 辺境伯レギウス・フォン・シュミットの第二夫人がついに出産を迎えたのだ。


 レギウス辺境伯の第二夫人は珍しい事に異種族であった。

 それもレギウスの種族である魔人族からすれば、あり得ない程珍しい人間の嫁である。


 

 この世界の魔人族というのは純血を尊ぶ。

 そもそもこのハバリア帝国建国の中心を担っていたのが魔人族である。

 他種族とも協力し自分たちの力とする事で、対外的な優位性を持とうとしたのが国の興りであった。

 当時は戦乱の世で、どの種族も今日生き残ったとしても、明日をも知れぬ身であったのだ。

 だからこそ共益圏は理想郷に見え、周辺の魔族はその庇護下に入っていった。

 しかしその中で特権意識が生まれるまで左程時間はかからなかった。



 建国種族である魔人族の多くは、次第に自分たちが上位であると信じて疑わなくなり。彼らの急進派は政治の独占を図った。

 既に帝国の運営システムは魔人族によって占められていたこともあり、

 殆どの他種族はそれに従わざるを得なかった。

 今では帝国の主要貴族は殆どが魔人族である。

 他種族は族長が僅かに務めるだけで、一部を除いて発言権はないに等しかった。



 そんな特権意識の塊である魔人族の中でレギウスは異端であった。

 他種族を平等に扱い、その事で侮蔑されようが嘲笑されようがどこ吹く風。

 「そんな事を気にしていたら戦などできはしない 」というのはレギウスの言。

 実際に戦上手な所があったので、他の魔人族、とりわけ純血派は面白くはない。


 彼は純血に意味を見いだせなかった。

 優秀ならば良い、役に立つなら使う、美人であれば抱く。

 さっぱりとした男であった。

 だからこそ敵対しているはずの人族の娘を嫁にする等という事もやったのだ。


 

 そんな異端児は柄にもなく狼狽えていた。

 寝室前の廊下を右へ左へ。

 なにか音がする度に部屋の前に駆けつける。


 「遅い…いくらなんでも遅すぎる… 」


 「レギウス様その様に慌てても仕方がありません。隣の部屋に紅茶を用意しております。まずは一度落ち着きくださいませ 」


 慌てたレギウスの言葉を燕尾服を着た老齢の執事が諌める。


 「しかしもう丸一日になろうとしているぞ。エイスやアレクの時は半日程であったのにだ 」


 慌てる主人の言葉も理解はできた。

 なにせ陣痛が始まってからの時間が長すぎるのだ。

 しかし何かあれば既に助産師が慌てて出てくる頃であろう。

 そう思うからこそ執事は落ち着くようにと言ったのである。


 その時であった大きな泣き声が聞こえた。


 「おお!ついに生まれたか!ははは! 」


 レギウスは喜び勇んで扉を開け放った。

 しかし部屋の中の様子がおかしい。

 助産師たちがみな困惑した表情を見せているのだ。


 その理由は赤子を見て直ぐに理解できた。


 魔人族の象徴である赤い角と胸の文様の他に、翼と尻尾があったのである。


 

 この嵐の夜、後にキマイラロードと呼ばれることになる男が生を受けた。

 


 

これから頑張って書いていきたいと思いますので

興味を持っていただけたり、面白いと思っていただければ幸いです

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