第十二話「あと少し」
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「――わよ! ほら、起きて!」
お母さんの声がする。ゆっくりと重い瞼を上げると、お母さんが俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、起きた。ほら、もう着いたわよ?」
そう言って、お母さんは遠ざかる。
と言うか、ここはどこだろう。
ぼやけた視界の中で何となく、車の中だと気がついた。きっと、少し色あせた黄色の軽自動車に乗っているだろう。お父さんが気に入っている。
――待ってろ!
さっきの自分の言葉が頭を掠めた。
「え……?」
ゆっくりと、その言葉を繰り返してみる。
――あなたは繰り返したい?
「いや、だ……」
一気に頭が冴えてきた。急いで携帯を開く。そこには電子機器特有のカクカクな字で、「八月三十日 午後六時」とあった。
そうだ、繰り返したんだ……!
シートベルトを外し、のろのろと外に出る。外はまだ真っ暗ではなく、少しの蒸し暑さが夏を感じさせる。
脳裏を色んな記憶が行きかい、頭が痛い。
彼女の無表情が蘇ってくる。彼女は本当は笑いたかったのかもしれない。
けれど、そんな何回もこの夏だけを繰り返していたら、嫌にもなる。しかも記憶の終わりの殆どが彼女だった。
と言うことは。
彼女が毎回毎回、俺を殺していたことになる。
それは何を示すのか。
黒幕は誰なのか。
BADENDから切り抜けることはできるのか。
俺にはまだわからない。
「やほやっほー!」
姉貴が元気良く迎えてくれた。どの記憶を辿っても、こんな古びた家はなかった。
「……おう」
「おかあさーん! やっぱりこの子は反抗期なんじゃない?」
「あららー? 私にはそんなことないわよ?」
また女同士で「あはは」と笑う。俺は玄関口で靴を脱ぎ、高い段差を上がって中へと入った。本当に知らない家だ。
奥の方からテレビの音がするから、きっと真っ直ぐ行くと良いのだろうか。
とりあえず直進して襖を開けてみると、全く知らないおじいさんがそこにはいた。
しばらく立っていると俺に気付いて、
「おう、でかくなったな」
とだけ話しかけて、またテレビに向かった。ローカル番組らしく、何やら方言が使われていて何を言っているかわからない。どうやら俺の出身地ではないらしい。
何となく二、三日の荷物を置き、そこら辺を散歩することにした。
もう外は暗い。
外はいつもよりも涼しかった。見た感じ緑も多く、と言うか緑ばかりでビルなどの高い建物もない。急な長ったらしい坂や森、山などがあるだけだ。
何処へ行くでもなく、何となしに歩くとすぐに海が見えた。しかし、数歩先は崖で下は山が広がっているだけだ。
と……。
背中が強く押され、よろめく。体勢は崩れ、そのまま足場がなくなる。
ああ、根元の顔は見れなかったな。
と言うか、彼女の顔が見れなかったな……。
そんなことを思いながら落ちていると、ぐしゃっと言う音がした。
痛い。痛過ぎる。
そのまま、気を失っていった。
【◎Loop◎】
@ @ @
+ + +
あれ、また繰り返してる?
彼女は毎日の習慣にしていた、カレンダーへの×書きをしようとカレンダーを見て、一日も経っていないことに気付いた。
彼女は前回、彼を殺していない。
「何かが、変わろうとしている……?」
そのことに心が弾みながらも、シャワーを浴びにお風呂へ向かった。
+ + +
【あと、もう少し】
Loop、Loop、Loop、Loop。




