第十話「繰り返す」
+ + +
(また、あの感覚。もう嫌だ。嫌なのに……!)
悔しくて、悔しくて堪らなくて唇を噛む。鉄の味が彼女の口の中に広がった。
すぅっと、彼の目から光がなくなる。
闇が彼の目に宿るのが嫌だった。けれど、夏を何度も繰り返す。違うことをしても、繰り返す。
ループして、ループして、ループして。
あの《光》が何をしたいのか、全くわからない。
+ + +
@ @ @
――私は……あなたを世界中の誰よりも愛しています。
誰だこれ。
――あなた、最低。
誰なんだ、この声は。
――あなたなんて……! あなたなんて死んでしまえばいい!!
さっきから同じ声ばかりだ。
――あら。おかえりなさい。
真珠のように白い肌。
長いまつげで縁取られた、艶めかしい目。
マシュマロのような、柔らかくて甘い唇。
「愛してる……」
何も見えない。浮遊感だけが感じられる。
何となくで発してみた言葉は、全てを――
――初めまして。神ノ崎さん。
「!」
――突然ですが、神ノ崎さん。
――私は……あなたを世界中の誰よりも愛しています。
そうだ。
あの声だ。
――ボーっとしてないで、何か持って行って。コップとか。
この声は俺の『彼女』だ。
それがわかると、映像が一気に押し寄せてくる。
生ぬるい水。
俺の頭を踏みつける、彼女の乳白色のすらりとのびた脚。
首に巻きつけられた、冷たい手。
優しく押されて、落ちていった二十階くらいのビルからの景色。
胸の中に入ってきた、冷たいナイフ。
体を蝕んでいく、血の引くような感覚。
――この子は私には似なくて、あんまり笑わない子だったよねー!
こげ茶色のストレートの女の子。
これは『彼女』だ。何であのときは気付かなかったのだろう。
――あんた、妹の小さい頃も覚えてないの?
「なん、で?」
矛盾が、存在している。
【こっち】の記憶では妹になっている。
だって、
――自分の彼女のことも忘れちゃったのかしら?
――誰だ……?
あのときはわからなかったのだから。
自分の『彼女』だと、気付かなかったのだから。
「……いや」
違う。
気付かなかったんじゃない。知らなかったんだ。
「時間を、繰り返している?」
そうじゃないと説明がつかない。
この記憶が正しければ、俺はこの夏に何度も死んでいるのだから。
何度も何度も。
何度も何度も何度も……。
【あははははははははは!!!】
陽気に笑う姉貴の声が、脳裏に響く。
姉貴は狂ったのか?
いや、元から狂っていた?
わからない。




