雑貨店地下に広がる謎の空間と勇者
『罠の傾向無し、危険物判定ネガティブ』
例の危険物センサーでいかにも床に出入口がありますと言わんばかりの取っ手の付いた床板を確認する商業ギルドの職員。
慎重に取っ手を引くと床板がスライドして人が並んで二人通れるかどうかといった下りの階段が現れた。
階段には明かりがともされ、奥の方にある通路にもオレンジ色のランプのようなものがともされているのが見える。
『盾持ち前へ。通路の罠に警戒!』
折り畳み式の盾を構えた衛兵が先に一人入り、その後に武器を携えた兵士が続く。
ギルド職員は階段下の安全が確保されてから入るらしい。
階段下までは3mほどあるだろうか。
『危険物無し!これより捜索を開始する!』
モーショントラッカーのとらえた地下空間は30m四方ほどあり、そこに5人ほどの生体反応があるが先程から落ち着きをなくしている様子で動き回っているが、行動範囲はそれほど広くない。
ドローンで兵士の後を追い、生体反応の持ち主を探すことにした。
---
「まるで地下牢だ…」
ちょっと姫さま達には見せられない光景なので今のところは僕一人で映像の確認をしている。
鉄格子で区切られたいくつもの部屋があり、その区切りの中におそらくは女性ばかり5人が囚われている様子が確認できた。
みなさんもふもふさまばかりで粗末な灰色のワンピースを着せられ、一人当たり3畳ほどの空間が与えられているだけだ。
兵士の姿を確認したのか『た、助けてください!』と叫ぶ声が聞こえる。
なぜこんな場所に閉じ込められているのか…。
しかも雑貨屋の地下にこんな施設があるなんてどう考えても不自然すぎる。
鉄格子には鍵が掛っており、兵士が開錠を試みている様子だが一向に鍵がひらく気配は無い。
「今からお邪魔してもよろしいですか?」と商業ギルドの職員に声をかけると『お願いします。我々の手には負えません』と返事が返ってきた。
外に待たせている代表に鍵のありかを聞いても多分しらを切られると僕の第六感がささやくので物理に頼ることに。
今から移動すると時間がかかるので、現地に直接深緑の慈悲を送り込むことにする。
仮初の姿ではなく物理で大丈夫だろう。
ドローンを起点として空間を割り、深緑の慈悲を送り込んで僕はいつものようにバイザーを装着して精神同調を行う。
---
「お待たせしました」
兵士が何事かと武器を構える。
まぁ、何もない空間から真っ黒な鎧が出てきたらそりゃ驚きますよね。
「預言書の勇者様!」
「屋敷で待機するようにと言われていましたが急を要すると思い様子を見に来ました。とりあえず閉じ込められている人を自由にしましょう」
物理鍵が必要と思われる鉄格子は深緑の慈悲で引っ張ればあっという間に開錠…いや破壊か。
中に人が居るので可能な限りソフトに開けたつもりだが鉄格子は二度と使えない状態となってしまう。
ここを再利用するつもりは無いので大丈夫ですけれど。
捕えられていた5人を順番に開放し、他に誰かいないかモーショントラッカーを発動して確認。
地下の部屋はここだけのようで、他に人の気配は無い。
個室には一応トイレらしきものが備わって入るが衛生状態は決して良いとは言えない。
「あの。奴隷商は何処に…」
最初に助けた犬耳の女性からそんな言葉が。
「奴隷商ですか?」
「はい、確かカルロスと名乗っていましたが」
あの人は確か雑貨店のオーナーだよな。奴隷商としての登録もしているんだろうか?
「同一人物かは分かりませんが、同じ名前の人物を店の外で拘束していますけれど」
「私たちは騙されてここに…アコーギという男が村に借金があるからと取り立てに来て、金を工面できないなら人を出せと。アコーギに捕まった後、ここに閉じ込められ…」
何故か聞き覚えのある男の名前が。
「ひとまず外に出てから詳しい話を。ここは空気も悪いですし」
ひとまずアヒルちゃんワンボックスで商業ギルドまで送れば良いかな?
奴隷商ならこんな地下に借金奴隷を置く必要もないのでは?と思うのですが。
---
地下で保護した5人を地上へと案内。それほど衰弱している様子は無いが、憔悴しきっていた表情はいくぶん和らいでいる様子。
「まずはカルロスに話を聞くことにします。みなさんはここでしばらく待機を」と商業ギルドの責任者がいうので5人にはがらんとした店の中にある木箱などへ適当に座ってもらうことにした。
深緑の慈悲で最初から出ていくと威圧感しか無いので、まずは商業ギルドの方におまかせをすることにしてそういえば配信オンラインにしていたっけな?と思ったら自働配信が有功になっていた。
視聴者数は5人。おそらく王族の方々が見ていらっしゃると思われ、コメントを見ると後で仔細を確認したいと。これはオパール王妃かな?
しばらくすると外から叫び声が。何があったんだ?
---
急ぎ建物の外へ出るとカルロスが暴れまわり、衛兵が必死にやつを抑え込もうとしている。
「離せ!俺は何も知らない!地下に人がいた?そんなはずはない!」
言い逃れにしか聞こえないが必死の訴えも事前に地下に捉えられていたもふもふさまから話を聞いているので。
「店の営業の実態も含め商業ギルドで詳しく話を聞く。暴れるのなら詰所の地下牢にそのまま放り込むことになるが」
それを聞いたカルロスは暴れるのをやめ、突然素直に。
あそこの地下牢、そんなに嫌なんだ…。というか地下牢と聞いて黙るということは以前入ったことがあるのか?
急ぎ護送用の檻付き馬車が用意されることになった。




