やや番外編「ライスリッチフィールド王城大門前の異変」
「お前たち、そこの全身紫色のお前たちだ。両手を上げてそこで止まれ!」
卑劣な迷宮罠にかかり、這う這うの体で迷宮を出たアコーギ商会の面々は王都へ戻る途中にある小川で体に着いた紫色の液体を落とそうとしたがこびりついたそれは水をはじくばかりで一向に落ちる様子は無い。
色のついた防具は外したが露出していた顔は致命的なまでに紫色に染まっていた。
防具の隙間から入り込んだ液体は体にも付着し、今まで嗅いだこともないようなとてつもない刺激臭を放っている。
ズボンにもべったりと付着しているが公衆の面前で脱ぐわけにもいかず、道中すれ違う冒険者から奇異の目で見られつつ王城の大門前まで帰ってきたのは良いが、門番から槍を向けられ、両手を上げて待機するようにと。
「代表者は一歩前に。他のものは口を開くな!」
言われた通りにアコーギが前に出て、子飼いのならず者は口をつぐむ。
アコーギ達を取り囲む兵士は20人あまり。
城内に待機していた兵も何事かと様子を見に来たので一気に膨れ上がった。
「その様子、迷宮帰りと見るが何があった」
「じ、実は迷宮の罠解除に失敗しこのような有様に」
「迷宮罠だと?そんな紫色に染まるふざけた罠など今まで聞いたこともない。嘘の申し立てをすればそのまま牢へ直行してもらうぞ」
「ほ、本当です。罠にかかった場所は覚えています。今ならまだ罠の痕跡が残っているはずです!」
「分かった。まずは迷宮罠かどうか確認を取る。道案内に一人だけ同行するように。後の者は鍵のかかる個室で待機してもらうことになる」
門番は様子を見に来た上役に事態を伝え、全身紫ずくめの者達の言い分が正しいかどうかの調査を実施することにした。
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移動時間短縮のためにだーくほーす2頭立ての荷馬車が用意されたが、アコーギを見張る数人の兵士の顔色が優れない。
「その匂い、途中の小川で体を洗って落とせぬか?目と鼻がおかしくなりそうだ」
「その…川に入って洗っても全く落ちる気配が無く…」
アコーギ自身、既に鼻が利かなくなって何も感じないのだが、兵士たちはその匂いに耐えきれず、アコーギを風下となる荷馬車の後ろに移動させた。
本来ならば逃走の恐れのある人物は兵が取り囲んで運ぶのだが、とてもそれどころではない。
時折風向きが変わって荷台の後ろから風が流れ込むと御者席までにおいが拡散し、御者が盛大にむせて馬車が左右に揺れる等の問題も発生。
皆、持っていたてぬぐいで鼻と口を覆い、なるべくその匂いをかがないよう努力することに。
時間にして1/6ニールほどだが兵士たちにとっては永遠にも等しく感じられた。
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「出坑手続きもしていなかったのか…」
冒険者ギルドの出張所に入ると中にたむろしていた冒険者たちは我先にと外へ駆け出し、顔色を悪くした受付嬢がアコーギのギルド証を確認。
幸いにもギルド証は紫色に染まることなく、確認自体は取れたがここで出坑手続きをしていなかったことが明るみに出て叱責の対象となった。
「こんな姿でしたので、受付にも寄れず」
「本来ならば処罰の対象となるが、今回だけは見逃すことにする。王都にいるメンバーは後でまとめてギルド本部に行って手続きをするように」
兵士たちは冒険者ギルドから臨時の入場許可を得て、問題の罠が発動したという場所へ向かうことになった。
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「魔獣は倒さなくてよい。道はこちらで合っているのか?」
「は、はい。このまま通りをまっすぐ、突き当りを右に折れて…」
兵士たちは魔獣との戦闘を最小限に抑え、アコーギの案内で迷宮内を進んでいく。
「そもそも何故箱を開けたのだ。この迷宮自体の難易度は低いが出てくる箱の罠は上級の管理迷宮とあまり変わらぬと聞くが」
「箱は問題なかったのです。中に入っていた背嚢を開けようとしたらこのありさまでして」
「冒険者であれば二重罠の存在を知らぬわけは無かろう。それに箱の中から背嚢が出るなど聞いたことが無い」
迷宮に湧く宝箱には幾重にも罠が掛けられることがあり、一つ解除出来たからと言って油断は禁物。
それに取り出せる箱に関しては冒険者ギルドに持ち込み、罠鑑定を受けるという決まりもある。
アコーギは出てきたのが背嚢で箱では無かったと強調したが、兵士たちはそのような罠は迷宮演習でも見たことが無く、誰も信じようとしなかった。
「この先です」
「袋小路の宝箱か…全員警戒せよ。まだ罠が残っているかもしれぬ」
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「酷いありさまだな…」
兵士たちは袋小路の一番奥まで進めず、途中で立ち止まることとなった。
壁と言わず床と言わず、そして天井にも。
紫色の液体が飛び散った痕跡が残り、立ちこめる刺激臭がそれ以上の侵入をさせようとしないのだ。
「この液自体が毒の恐れもある。まずは冒険者ギルドへの報告とこの袋小路への立ち入りを禁じてもらわねば」
本来であれば冒険者ギルドの職員も同行する予定だったが、窓口は未だに続く箱の届け出を受け付けるのに精一杯で人を出す余裕が無かった。
兵士は武器をぬぐうぼろ布を1枚取り出し、紫色の液体に少し浸して折りたたむと使い捨てる予定の革袋に入れて厳重に口を閉じる。
「この液体は宮廷魔導士へ提出して調査を依頼しよう。これ以上は我々の手には負えぬ。一度王都へと戻ろう」
「あの…それで我々は…」
「この紫の液体の正体が判明するまで城内への立ち入りを禁ずる。悪いがしばらくの間地下牢に入ってもらうことになる」
「ち、地下牢…」
アコーギは肩を落とした。どうして自分たちだけこのような仕打ちに合うのか。
自分たちの悪行を棚に上げて途方に暮れるのだった。




