村を救う交換条件と勇者
急ぎ隠密メイドさんに軽食の手配を依頼し、ひとまず大人組だけで食堂へと集まることに。
姫さま達に見せるにはちょっと刺激が強すぎると思い、彼女達にはミドリの世話をしてもらうようお願いをしてある。
「とまぁ、こんな感じでミドリが捕まったいきさつまでは分かったのですが」
時間にして10分にも満たないトラウマトレーサーの動画を見てもらったが、同席した方々の表情はすぐれない。
「闇奴隷商か…」とユークレスさんがつぶやいてそのまま黙り込む。
サンダッティアでもその闇奴隷商による事件が発生した経緯もあり、王族の一人が王位継承権をはく奪されてそのまま身柄を一生幽閉されることになった。
預言書の勇者の従者として闇奴隷商から買い取った奴隷を自分の子だと偽って売り込みに来たのだが、預言書がそれを否定。
自ら闇奴隷商とのつながりを暴露し、その日のうちに彼は王族という立場を失った。
ちなみに保護した奴隷はユークレスさん預かりとなり、専属メイドという立ち位置に。なにしろもふもふさまでしたし。
毎日ユークレスさんの為にお茶を入れたり、部屋の片づけをしたりとそれなりに忙しく過ごしている。
その闇奴隷商の身元はいまだ明らかになっておらず、持ち逃げされた多額の現金も行方知れず。
大教会が絡んでいるところまでは分かっているのだが、接触してきた経緯からして謎となっている。
今回の収穫は主犯格と思われる借金取りの男の顔、そして仲間と思われる荒くれ者たちも。
収集できた人相データを南の平原迷宮で収集した監視カメラ映像と照らし合わせ、この人物たちが迷宮に出入りしていないか、そして背嚢を置き去りにしていないかの確認を行う事にした。
ミドリが捕まった際に詰め込まれたのは迷宮で見つかった背嚢で間違いないようなので、何らかの理由で迷宮に置かれたものと推定。
ツクヨミ神社の地下にある解析用マシン群に新たにジョブを登録し、迷宮への出入りがなかったかを最優先で調べさせることにした。
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「勇者さま、ミドリちゃんが勇者さまにお話したいことがあると」
食堂で大人組と打ち合わせをしていたら姫さまが僕を呼びに来た。
「僕に話?何だろう」
彼女の住む村を特定し、早く返して上げたいのだがいまだ精神的に不安定と思われ、あまり根掘り葉掘り聞くのもどうかと思っていたところに僕だけに話をしたいと。
ミドリの件は大人組の中で共有が終わり、王族チャンネルの力でもってならず者の調査を行うという話になった。
僕は僕で迷宮の監視カメラの映像を洗い直す作業を既に始めさせており、あとは結果待ちとなっている。
ひとまず彼女のいるゲストルームへと顔を出すことにした。
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ミドリはベッドの上で正座して待っていた。
もうちょっと体を休めていてほしかったのだが、僕を見るとベッドから降りて深々と頭を下げる。
「サブローさま。お金は自分を売って工面します。どうか私の村を救っていただけないでしょうか?」
「村を救う?」
「手足を縛られて運ばれている途中、何度か目を覚ました時に男たちの話を聞いてしまったんです。村の人間を片っ端から闇商人に売り払って借金を払わせるのだと…」
トラウマトレーサーでは迷宮まで運ばれてくる途中の出来事は見られなかった。
そもそも捕まったこと自体が心に大きなダメージを与えていてそれ以降の記憶はあいまいになっていたのかもしれない。
「冒険者に何か依頼するにはまとまったお金が必要だと聞いたことがあります。私にどれだけの価値があるかはわかりません。借金奴隷として…」
「ミドリ。村を救う話は引き受けるけれどお金はいらないからね。今、ならず者の身元を調査しているから…先にミドリの村の場所を教えてもらってもいいかな?」
「あの、対価もなしに依頼を受けていただけるのですか?」
「人助けに対価を求めるのはどうかと思って」
以前、冒険者ギルド長から勇者と言えどもタダ働きはしてはならないと釘を刺されたことがある。
それは魔獣退治が絡む話であって、今回のような人助けにお金を請求するのはどうかと。
固まってしまったミドリのおみみさまをわしゃわしゃしておく。
「どうしてもというなら時々こうやって耳を触らせてもらえればいいかな。あとおしっぽさまのお手入れをさせてもらうとか」
「それが対価に…そんなことで村を助けていただけるのでしたらずっと触っていただいてもかまいません!」
いつでももふもふする権利をゲットした。でいいのかな?
同じ狐人族でもさわりごこちは千差万別なので。
大黒屋さんはしっとりとした手触り、ココナは全体的にはりがあって弾力がすばらしい。ルナール先生はちょっと硬めだけど癖になる感じ。といった具合に。
ミドリは細い毛が指先にまとわりつく感じでなめらかさが良い塩梅なのだ。
ユークレスさんが聞いたら多分怒るんじゃないかという取引条件が成立したところで、ミドリの村の場所を確認することに。
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ここからは大人組も交えての話し合いとなり、ミドリを食堂へと案内。
早速街道図を用意してミドリに枝番号と支道を確認してもらったところ、ライスリッチフィールドから東方向へ徒歩でまる一日といった感じの場所に村があると判明。
この世界は何かしらの功績が無い村はただの村でしかなく、ミドリの住む村も「村」でしかなかった。
地方の村を束ねる管理貴族はどうやって村を識別しているのだろう。
「どうしようかな…」
「サブロー、何を悩んでおる」
「今ミドリを村に連れ帰ると例のならず者に無事だとバレて話がややこしくなりそうなので」
早めに彼女の無事を身内に知らせたいのだが、まずはならず者の身元を抑える必要がある。
『迷宮に背嚢を置いた人物の特定が完了しました』
ツクヨミ神社地下にあるデータ解析センターから通知が飛んできた。
割と早かったな。とりあえず犯人の情報を確認することに。




