大気圏外から魔導結界内の観察をする勇者
暴れるヘラクレスをいなし、無事に月の三姉妹の重力圏を離脱した僕は再度シフトドライブを起動してライスリッチフィールドへと戻ることに。
シフトアウトすると地球によく似た惑星が眼下に広がる。
そういえばゆっくり観察もせずにシフトドライブの試験をしたんだよなと思い出し、しばし星の様子を観察。
上空から見る魔導結界の範囲は非常に小さく、大陸の1/3程度を覆うのみ。
ここからは他の大陸も見えるが、とても人の住めるような環境ではない。
結界の外には暗く澱んだ瘴気が溢れ、地上には管理迷宮にいるのとは比較にならないほど凶暴な魔獣が跋扈している。
上空からは直接観測は出来ないが、古代遺跡と呼ばれる迷宮が数百ほど口を開き、B級以上の冒険者を待ち構えている。
その殆どが大海原を渡る民が遺した宇宙船の残骸と見られているが何故そこに魔獣が発生しているのかは不明だ。
サンダッティアの国王、ラシーマスさんが現役時代に回っていた迷宮で大海原を渡る民の宇宙船内部によく似た構造を持つ場所を探索したことがあると言っていた気が。
「ヘラクレス、大気圏再突入用意」
そういえば今なら惑星の反対側にあるヤーフナ村に顔を出せるのではと思ったが、仮初の体のタイムリミットがちょっと分からないので次回に持ち越すことで。
どうせなら生身でヤーフナ村を尋ねてみたいですし。
村長さんにも連絡を入れないと騒ぎの原因となるので。
後はまた嫁候補を押し付けられる可能性があり、姫さまからなりませぬをいただくことになりそうですし。
あそこの村長、ムニーレに毎日のように「ややこはできたか?」と連絡をしてくるという。
その辺りは何度も説明をしてこの世界の異変を収束させた後で改めて考えさせてもらうと伝えているのですが。
どさくさまぎれに媚薬を送りつけてくるので油断も隙もあったものでは。
ムニーレ宛の荷物は深緑の慈悲便が週に1度くらい往復して運び込まれている。
毎回姫さまの積荷チェックが入るのですが、ほぼ毎回なにかしらの天然由来の危険薬物が入っており、それらは魔導研究室行きとなって詳しく調べられている。
もしかすると有益な効果のあるぽーしょんの材料となる可能性も捨てきれないのですが。
殆どが精力剤ではないかという感じで、あの村は一体どうなっているんだとちょっと不安にもなりますが。
多分迷い込んだ冒険者が一服盛られ、帰るに帰れない状況を作り出すのに使われているのではと。
今はその原因となっている時の止まりし迷宮の出入りが規制されているので新たな犠牲者は出ていないと思われますが。
何かあれば通信機を使ってもらうか深緑の慈悲便に手紙を入れてもらうよう伝えてあるので。
時差がある関係で手紙の方が都合が良かったりもするのですが。
ヘラクレスは特に問題もなく大気圏を突破。
ちなみに魔導結界はドーム状に広がっているが、上空からの出入りに関しては特に制限はないらしい。
地上付近は完全な壁となっており、正規の手続きを経て門を出入り可能だとか。
大教会はその壁に勝手に穴をあけて出入りをしているようだが、その場所を特定出来ていないんですよね。
竜の背山脈を実ながら降下する事数分、離陸したライスリッチフィールド西の草原へと進路を変える。
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「姫さま。ただいま戻りました」
アヒルちゃんも仮初の体で飛んでいたため、船を撤収して体をリリースし、そのままお屋敷にいる自分自身に意識を戻した僕。
両脇になにならやわいものが当たっていますが何でしょうか?
「勝手ながらお体を支えさせていただいておりました」
膝枕では無く両脇から隠密メイドのおきつねさまお二人にサンドイッチにされていたようで。
被っていたVRゴーグルが回収され、あれよあれよという間に飲み物と軽食が運ばれてきた。
「エイトさま。月の三姉妹の様子見させていただきました。あのようなお姿をされていたとは…」
オパール王妃はお屋敷に来て配信を見守っていたようで、僕が撮影してきた新たな謎について質問をされたいとの事。
最初の脅威はフォースムーンではなかろうか。
巨大な人工天体だというのはなんとなくわかっていたが、あそこまで巨大だとは夢にも思わず。
多分僕が踏破したのはあの星の数パーセントにも満たないのかもしれない。
ライスリッチフィールドで数時間、現地で2週間ほどの時間を過ごしたのだが未だに映像を公開する気にはなれない。
普通の人が見たら多分SAN値が一瞬で削られて大変なことになると思われますので。
そのフォースムーンの近くにもドローンを放っているので外側からの確認はいつでも可能。
内部にドローンを放てば何が起こるか分からないので当分は観察のみ行う事に。
月の三姉妹についても同様だ。
まずあの月に大気らしきもの、そして水らしいものもあったというのが驚きだ。
月と言えば真空という固定概念があったので。
後は大しけの中に放り出されたような感じで重力圏が乱れまくっている件。
3つの星が互いに引き合う力が均衡せず、嵐のように荒れ狂っているのは何故か。
残してきたドローンで何か掴めれば良いのですが。
『益田よ!全記録を大至急こちらに転送してくれ!』
佐々木社長から早速直電がかかってきた。
ちょっとまとめるのにお時間をいただきたく…え?生データで良いんですか?
取りっぱなしの動画ファイルを何本かに分け、地球に向けて送信することにした。




