月の三姉妹の重力圏に到達する勇者
シフトドライブには大きく分けて三つの方法がある。
一つは大規模転送システム。
星間連合が使用している物で大型のシフトドライブ用リングを宇宙空間に設置。
そのサイズは直径が50kmほど。一度に百隻ほどの中型船を転移可能という。
転移先は固定されており、主要ステーション間を結ぶ便が相当するという。
星系の外れに行くほどリングのサイズは小さくなり、一度に飛べる船も少なくなる。
代わりに船自体にはシフトドライブの機能は存在せず、比較的コンパクトな設計が可能になるらしい。
もう一つは個別転送システム。
船自身が始点と終点に都度使い捨てのリングを形成、リング内にエネルギーを注入することで活性化させ、2点間の瞬間移動を可能とする。
これは大海原を渡る民が移民船団で利用していたものらしく、シフトドライブ終了後にリングが消える為、移動の痕跡を隠蔽できるという利点があったらしい。
いわゆる星喰い対策の一つだったらしいが、今となっては確かな記録も残っておらず本来はどうだったかを検証することはほぼ不可能。
後は緊急シフトドライブ。
終点を決めず、エネルギーの続く限り移動を行うというもの。
いわゆるランダムワープであり、これも星喰いに追跡された場合に全船団が犠牲にならないよう分散避難する場合に使われたとか。
ライスリッチフィールドに残る大海原の民の遺産はこのランダムワープによってここまで到達した旗艦の残骸らしいというところまでは分かっている。
トラウマトレーサーによって星喰いを道連れにしてシフトドライブを行ったと判明しているが、肝心の星喰いはどうなったのかは船の記録には残っていない。
艦内の全電源が落ちるまでシフトドライブにエネルギーを突っ込み、命がけで船団から星喰いを引き離したと思われるが…。
未発見の通信ブロックに何かしらの手掛かりが遺されていると思われるが肝心のブロックからの応答は無く、現地で直接確認するほかに手が無い状態。
後はスタージャンパー級と呼ばれる超長距離を移動可能な船の所在も通信ブロックにあると思われ、僕が地球に一時帰省するための手段として使えるかどうかの確認もまだである。
というかヘラクレスを使えば行けそうな気がするのですが最長シフトドライブを十数回、片道4か月から半年はかかるだろうというおおよその試算がされているがそんなにライスリッチフィールドを空けられないのでどうしたものかという感じで。
『ヘラクレス、シフトアウトします。衝撃に備えてください』
ショートドライブは1分ほどで完了し、ヘラクレスは亜空間から通常空間へと放り出された。
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『複数の重力圏を検知、船が安定しない為シートから離れないでください』
なんというか大しけの中に投げ込まれた船みたいな感じが。
目の前に広がるのは巨大な月。それも3つ。
普段見ている月の三姉妹の重力圏にまで飛んできたのだが、それぞれの星の引力が複雑にからみあい、空間が安定しない。
『勇者さま!危険でしたらすぐお戻りを!』
この様子はライスリッチフィールドを含めた王族チャンネルに配信中で、激しく揺れる船内と外の様子があちらにも映っている。
どこかに重力が安定する場所がありそうなのだが、探しているうちに星へ吸い込まれるのではという感じで。
ちなみに月のサイズは地球の月とあまり変わらないがよく見れば薄く大気らしきものが見える。
何なら雲もあるし、その下には大量の水をたたえた地表の存在も。
「もしかしてここにも知的生命体がいたりして?」
今日のところは様子を見に来ただけなので降下して確認しようとは思わない。
主目的は仮初の体がシフトドライブに耐えられるかどうかの検証ですし。
シフトドライブ中も意識を失うこともなく、たった今もライスリッチフィールドにいる自分とのリンクは確立した状態。
念の為に一瞬自分の体に戻ってみたが、特に異常はなさそうだ。
「姫さまちょっとだけ戻ってきました。テストは成功したようです。それ以上にまた謎がふえたのですが後で説明しますね」
「勇者さま、ご無事でなによりです。あまり無茶な事はなさらないでください」
「ほどほどにします…では意識をあちらに戻しますので。あ、そういえば例の子はどうですか?」
「先程すこし意識が戻ったようですがまた眠られました。相当お疲れのご様子」
「迷宮に置き去りにされたんですし…では帰り支度のために戻ります」
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ヘラクレスにいる仮初の体に意識を戻すと船は相変わらず交錯する重力に翻弄されたままとなっている。
これだけ至近距離にある星同士が衝突することは無いのだろうか?という疑問が。
もしかして重力以外の力も作用していたりしないかな?
あまり揺れまくるとシフトドライブにも影響が出そうですが。
帰れなかったら船は自動操縦にして自分だけ帰ればいいかな。
コピーは20隻くらい用意してあるので。
人工知能も積んでいないので少々もったいないが使い捨ても視野に入れている。
『益田!可能な限り情報を集めるのだ!』と地球にいる佐々木社長から無理難題が。
「でしたら各星に100機ずつドローンを置いていきますので」
多分通信距離は問題ないだろう。何しろ謎のプロトコルでやりとりしてますので。
ちなみにドローン自体は無菌状態で複製されており、星の環境を汚す恐れはない。
そんなわけで揺れまくる宙域から離脱することにした。




