シフトドライブのテストと勇者
本日の予定は謎の少女を保護した時点で無いも同然となり、今はお屋敷でおとなしくしている。
月夜の離陸許可をなんとか可決したというタマヨさんからの報告が入ったのは夕方。
今から星海を目指すのはちょっと遅い時間なので明日に持ち越すことに。
星海の入り口まで行き、各種動作チェックを行うことになったという。
空間ジャンプの方式についてはいまだ不明となっており、短距離のジャンプを行って性能確認をするとの事。
僕も同席することになっているが、あちらでの仮初の体はそもそもジャンプに耐えられるのかという謎も残っている。
仮初の体に飛ばした精神が本体とリンクした状態なのか、それとも完全にスタンドアロン環境で動いているのか謎なんですよね。
以前、深緑の慈悲だけを動かしていた時はサーバークライアント方式となっていたが、現在あちらに飛ばされる際はどう接続されているのか解明されていない。
精神境界面接合の実体もよく分かっていないですし。
もしもジャンプ中に接続が切れても多分こちらの体に精神が戻ってくるだけとは思いますが、テストをしようにもそのような機能を備えた船が無いんですよね。
星美の宇宙船で試すにしても一度調査隊を全員引き上げる必要があり、今後の調査活動に遅れが出る恐れがあるので簡単に実施するわけにもいかず。
サブロニアで図面をコピーしたカブトムシ型の船のジャンプ機能を使えば行けそうな気もする。
「姫さま、いまから少し出かけてきます。僕はここから動きませんが」
仮初の体はライスリッチフィールドでも出現可能。いつぞやムニーレの村に行った際も使ってましたし。
「勇者さまどちらへ?」
「星海の入り口に行って空間ジャンプのテストを。危険なので深緑の慈悲のコピーを使います」
一体何が始まるのかと姫さまが目を丸くしている。
「空間ジャンプ中に仮初の体がどう反応するか確認しておきたくて。今後多用することになると思われますので」
ちょっと説明が難しい。そもそもジャンプとは何ぞやという感じですし。
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僕本体はお屋敷のロングソファにいるのですが、仮初の体で構成された深緑の慈悲は以前何も無かった王都西の大木が植わっているエリアに来た。
「ぐえ」
アヒルちゃんから例のカブトムシ型宇宙船を引っ張り出し、草原に置く。
姫さまから同行したいとの申し出があったが何が起こるか分からないので僕一人で星海へ向かうことにした。
「そういえば名前なかったよな…」
安直にヘラクレスとでもつけておこう。
なんとなく形が似ているし。
正規の手段でコクピットへと向かうことにした。前回はエアロックを破壊して侵入しましたが、今は全権限が僕の手元にあるので問題ない。
コクピットのキャプテンシートに陣取り、深緑の慈悲のコネクタを船に接続してフルコントロール可能とする。
「ヘラクレス、通常発進。目標大気圏外」
ふわりと浮き上がった全長100mほどの真っ黒な船体が速度を上げて大空へと吸い込まれていく。
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「せっかくここまで来たし観測衛星を放っておこうかな」
魔導結界内部を見渡せる位置にドローンを改良した観測衛星を投入することにした。
ここからなら魔導結界の外も何の影響もなく見渡すことが可能なので100機くらい放っておく。
ドローンの推進には魔導を用いるので真空中でも問題ない。
観測衛星を打ち上げるというミッションが別の方法で達成できたのでやることリストにチェックを入れておく。
衛星の位置は後から調整することにしてまずは空間ジャンプを試すことに。
「距離はどのくらいが良いだろう…」
せっかくなので月の三姉妹の軌道まで飛んでみることに。
ちなみにフォースムーンが目の前にある。
赤紫色をした巨大な人工天体が真空中に漂う姿は恐怖以外の何物でもないのですが。
今、中に入ろうとは思わない。
正規の手順を踏めば宇宙船ごと中に乗り入れが可能と思われますが、さすがにあの地獄を味わう気分にはなれない。
一応動画と写真だけは撮影して各所に送ることに。
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「シフトゲート通常起動。ゲート内に亜空間の形成確認。エネルギー注入完了。シフトドライブレディ…シフトシーケンス開始」
船がすっぽりとおさまるサイズの魔導陣を模したリングが真空中に形成され、その中心に穴が広がる。
シフトドライブとはこの穴を入口と出口に形成し、距離の概念をゼロとする断層間航行を可能とする技術らしい。
『『ろぐちぇっくおーけーなの』です』
双子のバックアップでゲートの状態を確認し、問題が無い事を確認。
手元のコンソールに車に付いているようなシフトレバーが生えてきた。
今はPの位置だ。これをDレンジに入れてアクセルを踏み込めばシフトドライブが起動する。
「パーキングブレーキ解除、シフトレバーをDレンジにセット。エンジン回転数正常。速度計問題なし。シフトドライブ開始」
アクセルは思いっきり踏めと書いてあった。
「のわっ!」
それまで感じた事のない加速度が船内を襲い、僕はバックシートにはりつけ状態となる。
エンジン回転数はレッドゾーンへ。速度計は一瞬にして無限大を示しシフトドライブの残り時間が表示される。
『エンジン臨界点に到達。シフトドライブリミットまであと30』
星のきらめきはスターボウとなって船の前から後ろへと引き延ばされ、がたがたと揺れる船は一路三姉妹の待つ衛星軌道を目指すことに。




