謎の生物発見の知らせと勇者
「いや、上空どうなってるんだ…それに草原の端も確認出来ないなんて」
ここだけ亜空間の質が全く異なる。
他の区画は必ず壁と天井が存在し、広くはあるが制限が必ず存在する。
なのにこのエリアだけはそういった縛りが一切ないのだ。
「もしかして別の惑星に繋がっている?それにしてもあの太陽は偽物っぽいけれど」
人工天体と思われる太陽は唯の照明装置として宙に浮いている状態に見える。
『勇者さま、魔獣のような…魔獣にしてはとてもかわいらしい生き物の集団と遭遇しました!』
アヒルちゃんワンボックスで偵察に出ている姫さまから通信が入った。
早速視界を共有するとどう見ても羊の群れのような集団がのんびりと草を食んでいる様子が。
その隣には牛だろうか。ぶるーぶるではない乳牛のような生き物がやはり草を食んでいる。
「ちょっと様子を見に行きますか…」
僕は草原の入り口付近で全体指揮を取っていたが、謎の生き物が現れたとなれば調べないわけにはいかない。
すぐさまアヒルちゃんエアカーを取り出し、姫さまのいる場所へと急行を。
---
「完全に羊と牛ですね。それに家畜を飼う建物まで」
この羊や牛は本物なのかそこから調査を開始することに。
みすかすえっくすの判定では生き物に似せて作られたバイオドールと呼ばれる人工生命体らしい。
要するにサイボーグとでも言えばよいのか。生体ロボに人工スキンを被せて作られたもののようだ。
なぜみすかすえっくすにこの謎の生き物の情報が載っているのか、それも不思議なのですが。
「勇者さま、この子たちは何故毛が無いのでしょう。あちらの子はとてもふわふわしているのに」
工場にも見える建屋から出てきた羊はみな一様に丸刈り状態となっており、他の羊とは随分と様子が異なる。
「もしかしてあの中に毛を刈るための施設でもあるんでしょうか?」
「この子たちの毛を刈るのですか?なぜそんなひどいことを?」
「そういえばこの世界には何故か羊らしい羊っていないですよね…」
「ひつじですか?」
「地球では羊の体毛を刈って被服を作るんですが」
この世界、牛や馬はいるのだが何故か純粋な羊を見かけたことは無い。
その代わりに特定の魔獣を倒すと何故か糸や布地をドロップするらしい。
じゃいあんとすぱいだーと呼ばれる蜘蛛のでかいやつやじんぎすかーんと呼ばれる目つきの悪い毛玉のような魔獣がそれにあたる。
僕はどちらも実物を見たことは無いのだが、深い森の中に生息しているとか。
何故じんぎすかーんなのかは分からない。ことばのちからがバグっているとしか思えないのですが。
「あ、ドローンの一部が大気圏外へ出たようですね。もしかするとここはどこかの星の上なのかもしれません」
ドローンの気圧計が真空に近い値を示している。
そうなるとここは宇宙船の区画では無く、外部ということになるのか。それとも亜空間の中に作られた人工天体なのか?
そうなると街一つどころではない。星一つを内包するような巨大宇宙船ということになるのですが。
「サバンナさん達を呼び戻したほうがよさそうですね。ここはドローンに測量を任せることにしましょう」
予想していた壁は存在しないと思われ、エリアの終点を目指して飛んでいたアヒルちゃんワンボックスを呼び戻すことにした。
---
「ここが他の星の上?あの船の中に別の星が?」
サバンナさんの頭上にたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいるように見える。
一応現実世界なのでVR空間のようなエモーションは出せないのだが何故かそんな感じを。
星美にも尋ねたが彼女自身この船に関する記憶の殆どを抹消され、この草原エリアに関する情報も持ち合わせていないと。
ちなみに各所に点在する巨大な建物の傍には何かしらの動物っぽいものが放牧され、ある一定の時間が来ると建物の中に入り、しばらくすると出てくるのだとか。
羊に似たじんぎすかーんはその体毛を丸刈りにされ、牛に似た生き物についてはどうも搾乳をされている様子だと。
宮廷魔導士の中にサンダッティア出身の方がいて、メスのぶるーぶるの乳しぼりの経験があるとかで。
「ここは酪農エリアということですかね…」
それにしても大掛かりな仕掛けが。
星一つを酪農の為に作り上げ、偽の太陽まで用意しているとは。
ちなみに建物内の捜索はまだ行っていない。
動物に似た何かが出入りするゲートは確認できたがそこから侵入して無事でいられる保証がないから。
中に入っていきなり毛刈りマシーンにでも巻き込まれたら大変ですし。
なんとなく自動洗車機のような構造をしているのではと勝手に想像しているのですが。
このエリアは一度ドローンによる全体調査を行い、建物に関しては安全に出入りできる場所を見つけてから中を覗くことにした。
いきなり調査難易度が爆上がりしたのですが、他のエリアもこんな感じだといつまで経っても調査が終わらない気が。
いまのところはこの草原エリアだけがおかしいという話でしたが。
アヒルちゃんワンボックスは調査用に10台ほどを貸し出すことにして一旦宇宙船の外に出ることとした。
多方面に貸し出しているアヒルちゃんだが、まだまだストックは持っている。
いつの間にかまた数が増えているような気がするのですが…。
---
宇宙船の内部確認の後、ゴーレム研究施設に寄ってカミラ姉妹から調査報告を聞くことにした。
今確認中のゴイサギ型ゴーレム、大体の解析が終わったというので調査報告書のまとめに入っていると。
大教会は僕を襲うためのゴーレムを全て独自に作っていると思っていたのだが、最近は先代の光の女神様が遺した戦闘用ゴーレムを掘り出しては改造している様子。
ゴイサギ型ゴーレムには操縦席、魔力供給係の座る2つの場所がある。
これはその前に鹵獲したペンギン型ゴーレムにも備わっていた機構で、おそらくは大量の魔力保持者が燃料タンクの代わりとなり、ゴーレムを動かしていたと思われる。
どうして魔力を生み出す動力炉を備えなかったのか、それが不思議なのですが。
従者の星には当然のようにリアクターが内蔵されているがもしかしてリアクターの小型化が難しいので人を燃料タンクにしたのか?
ちなみに数百年前に光の女神が戦っていたころ、魔獣大戦と呼ばれる災悪が起きた際の記録は殆ど残っていない。
何故、そんな記録も残っていないゴーレムの事を大教会が知っているのか、それも謎なのですが。




