天使らしき存在を保護する勇者
帰り道も魔獣に遭遇することもなく、例の亀裂までたどり着いた。
ただ問題が。
亀裂の幅が妙に縮んでいるのだ。
「マッスルキングさん、先に通ってください!」
大柄なマッスルキングさんを先に通し、僕は深緑の慈悲を脱いで二回りほど小さくなる。
保護した仮称天使族の女の子を担いで亀裂から抜け出すと、待っていたかのように亀裂が閉じた。
「ドローンからの信号が途切れましたね…」
通信用ワイヤは切断され、中に残してきたドローンとの通信が途絶。
試しに無線での接続を試みたが、存在は確認できるが映像や音声を拾うことは出来ない。
ログには『次元断層間通信の許容範囲を越えました。』とだけ表示された。
いったいどれだけ離れた場所にあったんだ、あそこ。
ちなみにドローンには精霊などは宿っておらず、ただの機械なので置き去りにしてもまぁ大丈夫かなという感じで。
元々が使い捨て前提の運用で考えられたシステムですし。
各国内に放っているドローン子機もロスト前提での運用をしている。
貴重なデータの収拾が出来なくなったのはちょっと痛いですが…。
あと、牛魔人にとどめを刺してなかったのも気になりますけれど。しばったまま放置でよかったのかな?
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保護した天使らしき存在については一番心当たりのある天界総業にコンタクトを取り、確認する事とした。
南の平原迷宮の片づけをしながらすまほーちゃんのメッセージツールを立ち上げ、たしかブラウンさんだったか…統括事業部の方にまずは顔写真と保護した状況を送ることに。
この前の話し合いの際、ブラウンさんともイイトモになっていたのだ。
しかし何なんだろうこのメッセージツール。
「あ、迷宮改変ですね。ちょっと待ちましょうか」
今いる場所は出入り口から遠いセクションに配置されていたが、今から起こる迷宮改変で出口まで数分の距離に縮まりそうだ。
歩くとなると多分1時間はかかる距離だと思うのでおとなしく移動するのを待つことに。
「どりあーどにまかせて」
天使らしき女の子はどりあーどさんにおまかせすることにした。
手足に枷の後が残っているがその他にけがをしている様子もない。
所持品らしきものも無く、チュニックに似た白い服を纏っているだけ。
この前空から降ってきた子もたしかこんな感じだったような…。
少ししてブラウンさんから直電がかかってきた。
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ところ変わって天界総業の事務所。
「あの子はちゃんとやっているのかしら。報告書の内容は支離滅裂だし…」
ブラウンは地上勤務中の同僚から送られてくる日報に目を通し、ため息をつく。
とにかく荒唐無稽な話が多すぎるのだ。
地上勤務中の彼女が天界から落とした神器が刺さった青年と共に行動をしているのだが、行く先々で必ずと言っていいほどトラブルに巻き込まれる。
今日も勇者候補を送り込む予定の世界で敵対無機生物と交戦状態となり、余波で無機生物の拠点であった小惑星一つが消えたというのだから。
本来勇者が倒すはずの相手を先に片づけてしまい、勇者を送り込む計画は白紙に戻されることに。
本来であれば時間を掛けて攻略すべき相手を一瞬で倒してしまったのだ。
得られるはずのエネルギーがおそらく半分にも満たない状態。
統括部長から何を言われるか。
報告書の抜けを確認していると手元の端末が震えた。
「あの子かしら…」
メッセージの相手は意外な人物だった。
以前、本来は呼び出せないはずの第一級天使を無理やり召喚した人物。
その彼から天使らしき人物を保護したので心当たりが無いか確認してほしいと。
添付された画像には天界総業管轄下にある天使の特徴を備えた少女が横たわっていた。
「大変!この子はたしか混沌世界に派遣中の…」
メッセージを送るのももどかしく、そのまま通話ボタンを押す。
この仕組みは神器の刺さった青年が提案し、実装されたものだ。
天界総業の業務は以前とは比較にならないほどやりやすくなり、末端からの情報収集もスムーズに行えるようになった。
ブラウンは同時に統括部長にも画像を転送。すぐに話が出来ないか確認を取ることに。
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「勇者さま、治療が必要でしたらわたくしどもにお任せください!」
南の平原迷宮で出坑手続きを行い、そのままお屋敷へと戻ってきた僕達。
天使に関してはギルドへの説明が難しく、深緑の慈悲につっこんだ状態で連れてきた。
あそこで遭難者の照会となるとちょっと面倒なことになりそうな気がしたので。
ちなみにお屋敷に戻る途中で冒険者ギルド長には連絡をしておいた。
もう少し時間があれば先にギルド長に話を通してから天使を連れ出せばよかったのかもしれないが、例の極悪な枷のせいで彼女が弱り切っていたので。
「姫さま。エリクサーを!」
意識が無い相手に飲ませるのはちょっと大変だが、こんな時の為にエリクサーをコンテナ一杯になるくらい備蓄しているのだ。
姫さまがエリクサーの小瓶を自分のポーチから取り出し、どりあーどさんに支えられた天使の口に中身を含ませるとなんとか飲んでくれた。
ああ、そういえば人払いしてなかったですね。派遣メイドさんが初めて見るであろう羽の生えた人物を凝視している。
あれ?前回空から落ちてきた天使の時もこんな感じでしたっけ?ちょっと思い出せない。
「ん…んん…」
先ほどまでぴくりともしなかった天使がもぞもぞと動き始めた。




