膝の上を占拠される勇者
「唯の疲れなのかな…」
薫先生がふいに寄りかかってきたので何事かと思えばすやすやと寝息を立てていらっしゃる。
宴会場の座敷にそのまま寝かすのもかわいそうだと思い、ひざまくらを。
お子様達に膝を占領されることは毎日なのだが、ひざまくらは久しぶりかもしれない。
妹さまをよくひざまくらで寝かしつけていた。あと鈴もそうだが。
ななや旅館の宴会場からの国営鉱山の脇に置かれた大岩の監視はまだ続いており、おそらく境界の地の制限時間いっぱいまで続けると思われる。
特に変わり映えのしない映像…たまに巡回の兵士が持ち場を入れ変える、あるいは篝火にたいまつの木を継ぎ足すといった程度のイベントしかない。
それもまたみなさんの関心を引くのか、熱心に監視を。
「もふもふさまじゃ!」
違う方向で監視をされているかたもいらっしゃいますが。
ユークレスさんがけもみみ兵士を熱心に観察されていらっしゃる。
夜目の効く猫人族や耳の良い兎人族が夜番に向いているらしい。
そういえば冒険者ギルドの夜番を勤める猫人族の方々をひた隠しにしていたのですが、いつぞや明るみに出てしまってそれ以来ユークレスさんから用もないのに深夜のギルド行をせがまれたりしているのですが。
特に夜は猫成分多めの方が昼の1/10ほどになった窓口全てに並ぶので壮観といえば壮観なのですが。
何度も言うが、ユークレスさんのもふもふへの執着は本当に謎過ぎる。
依存症の方は他にもいて特にアカネさんが顕著だったりしますけれど。
アカネさんには南の平原迷宮の後ろにある迷宮内宮殿でかくまっているお子様達の世話を任せているのですが、そのお子様達も宮殿内に閉じ込めておく理由もなくなり今は殆どお屋敷で過ごしている。
今、宮殿にいるのはコーガ領から逃れてきた女性ばかり十数人、そして豆忍者達が住んでいる。
彼女達も帰ろうと思えば今すぐにでも帰れるのだが、迷宮内宮殿で体を鍛え続け、コーガ領に戻ってから困らないようにと。
キクヒメさんからは頃合いを見て国へ戻るようにと言われているようだけど、いったいどこまで強くなるつもりなんでしょうか。
強さだけで言えばそろそろBランク冒険者へと足を突っ込んでいるくらいですね。
最近は息抜きに南の平原迷宮を周回しているようですけれど、そういえば宝箱の事を聞くのをすっかり忘れていました。
明日にでも宮殿に行って最近の様子を尋ねないと。
アカネさんも連れて行こうかな。もふもふの豆忍者が特にお気に入りのようですし。
「あ!薫先生だけずっこいにゃ!」
シロさんにひざまくらの現場を見られ、シロさんは空いているひざへ頭を預ける。
浴衣でその姿勢はちょっとまずいと言いますか。まぁ今更なんですけれど。
「おとーさんが取られた!」
そんなNTRみたいなことをいうのは竜のたまごから生まれたりゅみこだ。
彼女は僕の背中に張り付いて鼻息を荒くする。ちょっと首筋がくすぐったいですよ。
「身動きが取れない…」
「勇者さま!なりませぬ!」
姫さまが気付いてがにまたで迫ってくるがどうする事も出来ず。
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翌朝。
いつものように姫さまが僕に馬乗りになって今日の予定確認を。
今日は例の大岩を確認に行かねばならず、迷宮探索はちょっと後ろへずらすことに。
何ならお昼ご飯を食べてからという話になり、午前中一杯は大岩の現地調査に当てることに。
いつものように護衛のシロさん、どりあーどさんと共に現場へ赴くこととなった。
その前に朝ご飯を頂いてから。支度の早い子は既に食堂へと向かっている。
食堂のモニタにも大岩の映像を流しているのでそれを確認に行ったのだろう。
しかし何度も言うがあの大岩、人気がすごいな…。
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そんなわけでアヒルちゃんワンボックスでやってきたライスリッチフィールド国営鉱山。
大岩の警備は昨日以上となっており、多分夜番明けと思われる作業員が物珍しそうに取り囲んでいる。
やはりあの大岩から目に見えない何かが出ているのだろうか。
測定装置では何の解析も出来ず、僕が見たところで唯の魔力の塊としか分からず。
「シロさん、どりあーどさん。あの大岩を見て何か感じますか?」
「なんとなく気になるにゃ。それが何かは分からないにゃ」
「どりあーどは特に感じない」
個人差があるんだろうか。どりあーどさんはちょっと人とは異なる種族なので感じ方も違うのでしょうけれど。
「勇者殿!」
後ろから声を掛けられ、誰かと振り向けばサバンナさんの姿が。
昨日は別件で席を外していたという彼女が今日はこちらの現場に。
宇宙船探索の人員を何人かこちらへ割り振ったらしい。
大岩の調査優先度を上げたのか。いつまでも正体不明の物体を野ざらしにしておくわけにもいかないでしょうし。
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「勇者殿、この大岩の中身を傷つけずに割ることは可能?」
サバンナさんから大岩を破壊しての調査をしたいとの申し出があった。
あれから2ニール、4時間ほどを調査に費やしたが外から得られる情報にも限度があり中身を確かめたいとの事。
「高周波ブレイドを使えば可能だと思いますが」
ちなみに岩の厚みは2メーエル、約2メートルくらいだと測定結果が出た。
高周波ブレイドが大体1.5メートルなので問題は無いと思われる。
「中から何が出るか分からないのでこの周辺一帯を立入禁止にしてください」
調査に当たっていた宮廷魔導士、商業ギルド職員が規制線の後ろへと下がった。
僕は深緑の慈悲に体をねじ込み、高周波ブレイドを構える。




