高校時代のシロの事を思い出す勇者
何故か落ち着かない様子の薫先生のご機嫌を取っていると姫さまが僕の前に仁王立ちとなる。
「勇者さま。薫先生をお借りいたします!」
「待って!益田君と話の途中…」
薫先生は僕から引きはがされ、露天風呂の女子ゾーンへと連行されていった。
連行された薫先生は女子十数人に取り囲まれ、何かを聞かれている様子だがかけ流しのお湯の音で声は聞こえない。
「先生はお任せしておけばよいか…」
「サブロー、なんかお疲れにゃ」
女子ゾーンからシロさんが出張。僕の隣へと座って肩に頭を預けてくる。
行動が飼い猫のそれなんですが。ちなみにうちでは猫を飼ったことは無い。おいぬさまもコロだけでしたね。
今でも彼女の事を思い出すのですが、まさかこちらの世界に犬人族として転生しているとは夢にも思わず。
犬だったころの記憶はつい最近になって思い出したようで、姫さまが傍らにいない時は僕の隣に座ってじっと顔を見つめてくる。
しぐさの一つ一つが生前の彼女そっくりでとても不思議な感じがするのですが。
そんなことを思っていたら「サブロー、他の女の子の事は考えちゃダメにゃ」とシロさんから釘を刺された。
ちなみにシロさんのスク水は暴力的すぎて。
高校時代は男女別でプールの授業を受けていたので直接見る機会は…ああ、そういえば彼女が住んでいたお屋敷に呼ばれた時に態々水着に着替えて現れたことがありましたね。
「どこかおかしいところはないかしら?」とお嬢様口調で尋ねられたのを思い出し。
あの時は本当に良いところのお嬢様だと信じて疑わなかったのですが、蓋を開けてみれば猛獣だったと。
「久しぶりにスクール水着を着たけど胸がくるしいにゃ」
高校時代よりもパワーアップしてますからね。山脈が。
学生時代、シロさんのファンは男女問わずといった感じで休み時間は席の周りに人だかりができてましたね。
そんな彼女のプライベートを知る僕のところにも人が集まってあれこれ聞かれたのですが。
「どうして益田だけ…」と何度言われた事か。主に男子生徒から。
「じゃあ、これを読んで内容を説明して」とアトーリア語でかかれた資料を見せると大体逃げていくのですが。
文字自体も地球で使われる言語からはかなり逸脱していましたし。
結局のところ、アトーリアという東欧の国をわざわざ隠れ蓑にしてシロさんがうちの高校に来た理由は今でも不明となっている。
絶対に黒幕がいたはずなのですが、そこにたどり着くためのヒントなどは全くない。
卒業する直前までの約2年間、シロさんと殆ど毎日一緒に過ごしたのですがその記憶も一部曖昧なんですよね。
社会人になるころにはシロさんの存在すら忘れてましたし。
「そろそろ上がるにゃ」
ざばっ!と立ち上がったシロさんからまき散らされたお湯が目に入り思わず「うわっ!」と声が出た。
「サブローごめんにゃ!」
「大丈夫。ちょっとお湯が染みるくらいだから」
シャワーで流さないとダメかな。この露天風呂のお湯、けっこう刺激的なんですよね。
アルカリ泉なのかな?効能は美肌くらいしか分からないのですけれど。
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「益田君…」
「薫先生、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ…ちょっと話疲れたというか…」
「また何か聞かれていたんですか?」
「益田君とシロマリアさんの事を。二人がどういうお付き合いをしていたのか…」
僕とシロさんの外での動きは全て国から派遣されたエージェントが監視をしており、逐一報告されていたらしい。
秘密の買い食いも全然秘密じゃなかったし、二人で映画館に行ったのも全部筒抜けだったし。
さすがにお屋敷の中までは監視されていなかったようで二人で日本語の勉強をしていたことは分からなかったようですが。
この辺の事情は既に何度も説明されているはずなのですが、事あるごとに話題に上るんですよね。
そもそも高校とは。高校生とは。その辺の説明もしていたようですけれど。
「ところで薫先生、ちょっとだけ回復したみたいですね」
先ほどまでの悲壮感漂う雰囲気がいくらか良くなっている。
ちなみに原因は不明だ。何が悪さをしているのか皆目見当もつかない。
いつもなら立ち上るオーラを見れば大抵の事は分かるのですが、ちょっとオーラの色が濁っている程度にしか分からず。
「ノンアルコールビールを貰おうかしら…」
薫先生にも禁酒を言い渡している。説教酒というのが正しいのか謎ですが。
「ちょっと貰ってきますね」
この際なのでノンアルコールはななや旅館で解禁することに。
自販機コーナーまで行くの大変ですし。
ちなみにアルコールが回っている人は別部屋に隔離してある。とてもじゃないがお子様には見せられませんので。
あちらはあちらで何か盛り上がっている様子だが巻き込まれては大変なので様子を見に行くような真似はしない。
好奇心、猫をなんとか。である。




