天界の統括マネージャーと顔合わせをする勇者
パメラさんには連絡手段をお渡しした。
いつものイモ羊羹である。PTT式のトランシーバーとでも言えばよいか。
「これは準アーティファクトで割と余っているので大丈夫です」とだけ伝えておいた。
冒険者向けの馬車を作るのであれば現場の声を聴くのが一番と思いまして。
試作品が出来たら冒険者ギルド前や迷宮広場に展示して中を見てもらうのも良いかもしれない。
もちろん既存の業者との軋轢は避けたいのでノウハウは全て開示する予定ですが。
レンタルで利益が出るようなら孤児院や預かり所の運営費に回してもらうのも考えている。
この運営費に回すのも管理貴族が行っている税対策とバッティングしないよう注意をしないと。
彼らは一定額を孤児院の運営に回すことで税の一部を免除されるのだとか。
実際それで潤っている孤児院はそれほど多くないのだとか。
この世界、親が居ない子供が一定数いるんですよね。
村から口減らしのために引き取られたり、あるいは両親ともに冒険者で子供を預けたまま返ってこない…この場合失踪が殆どだと言いますが。
迷宮には中毒性があり、魔獣を倒した時の高揚感を忘れられず、自身の子供を放置してまで難易度の高い迷宮に潜る人もそれなりにいると。
今、神社の手伝いに来てもらっている子供の半分くらいは冒険者の子供を預かる所から来ている。
中にはもう迎えに来る親はいないと思い込んでいる子もいるようで、そういった子供達のケアにもお金を投じたいところですが。
考え事をしている間にお屋敷へと到着。
アヒルちゃんをいつもの姿に戻し、客間へと急ぐ。
この後天界総業の統括マネージャーさんと会う約束をしているのだ。
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出席者は僕とオパール王妃、護衛に隠密メイドさんが3人。
そしてあちらからは2人がいらっしゃった。
「ふぉっふぉっふぉ…お初にお目にかかる。天界総業のホワイトというものじゃ」
一言でいえば好々爺。何故か灰色の和服姿。というか浪人のようないで立ちとでも言おうか。
長く伸ばした白髪にこれまた長いひげを生やし、顔はしわが目立つが本来の姿かどうかは分からない。
そのじいさまは大型の恒星を目の前にしているかのような威圧感を放っている。
この威圧は僕だけに向けられているようで視覚化された力場が僕の魔力とせめぎ合うのが確認できた。
ここで全力を出されたらお屋敷などひとたまりもなく吹き飛んでしまうだろう。
「預言書の勇者、こちらではサブローと名乗っています。地球出身です」
「ほう…地球から。わしの神力を受けて平然としていられるとは。あの若者と似たような…」
誰なんだろう。その若者って。
ホワイトと名乗った老体から放たれていた力が霧散し、急に静かになった。
「しかし変わった世界じゃな…天界に似た空気とでもいうべきか…神力の密度が高いのう」
「神力ですか…わたしはエーテルと呼んでいますが、この星系の中心から放たれているようでして」
この星、名前は不明だが星系の中央にある恒星から莫大な不可視のエネルギーを受けている。
僕は便宜上エーテルと呼んでいるがこれが曲者で地球から来たばかりの僕はこのエーテルの中毒症状でぶったおれたことがあるのだ。
この星に住まうありとあらゆる生命体は体内に原始精霊という微小な精霊を細胞の数だけ宿し、エーテルを代謝して魔力へと変換、体に蓄積するのだ。
僕にはその力が無く、しばらくの間はエーテルを中和するために姫さまとべったり張り付いた生活を送っていた。
姫さまがいなければ僕はとっくの昔に亡き者となっていただろう。
今は精霊女王から移植された精霊、そしてサフランに植え付けられた証たる精霊の力によってエーテルが代謝され、命の危機は去ったのだが姫さまとべったりの生活は続いている。
姫さま自身は本来は僕に注がれるはずの魔力を常に生成している関係で離れ離れになっているとその魔力に耐えきれず、魔素酔いの症状が出ていたが精霊石の力によってその魔力は中和されている。
結局のところ、いつも一緒にいる方がお互いの為という事もあっておはようからおやすみまで殆どを一緒に過ごすことに。
話がそれた。
今日ここにきているのは天界総業のホワイトさんだけではない。
見たことのないダークブラウンの髪色の女性が一人、それこそ女神様とでもいうような恰好をしていらっしゃる。
ヘイローも翼もなく、普通の人族にも見えるが内包する魔力量はとんでもないことに。
ちなみに例の天使さんは来ていないようだ。たぶん重要な話をするので一般の天使には聞かせられないのだろう。
「1級天使より別世界から突然の召喚を受けたとの報告があり、召喚主に会いに来たのじゃが…サブローどのでまちがいは無いか?」
「はい、わたしで間違いありません」
「1級の天使を呼び出すとなるとそれなりの術式と相当量の神力が必要となるが」
「実は武器の試し撃ちをしておりまして」
「武器?試し撃ち?」
「実際に見ていただいたほうが。悪しきものを討つのに特化しているので他の生命体にはなんら悪影響は及ぼさないと思います」
「ぐえ」
手元のアヒルちゃんから召喚銃を取り出し、ホワイトさんの目の前に置くと女神らしき人が立ち上がる。
「改めさせていただいても?私、ホワイトの補佐を務めるブラウンと申します」
多分本名じゃないよな。ホワイトさんにしてもブラウンさんにしても。
ホルスターに収まった召喚銃をローテーブルに置くと、ブラウンと名乗った方がいつの間にか取り出したルーペのようなもので観察を始める。
「これは…」
何があったのだろう。




