お約束を実行するみっちゃんさんと勇者
そんなわけで温泉ホテル隣にある神社を一通り堪能したのでななや旅館へ戻ることに。
今日はななや旅館の大広間でログアウトの予定である。
ちなみに僕達の後を派遣メイドさんたちも追ってきて、おみくじの結果に一喜一憂していた様子。
現実世界ではライスリッチフィールドに建てたツクヨミ神社の抽選に当たらないとおみくじが引けないので。
タングラートまで足をのばせばおみくじはいつでも引けますが最低でも片道1週間くらいはかかるんですよね。
抽選で当たった日程が待ちきれない管理貴族の一部は馬車を飛ばしてカタハマ山頂神社へ向かったという話も聞いていますが。
カタハマ神社の件は管理貴族の伝手で広がっているとの事で、今後参拝客が増えるようであれば抽選システムの導入も考えなくてはならない。
神社まで行って抽選ではちょっと街から遠いので、カタハマの街中に抽選機を置くなどの工夫が必要と思われますけれど。
今のところ、毎日報告される勤怠情報にはトラブル等の話は無いので一旦様子見となっている。
「みっちゃんさん、そう気を落とさずに…」
神社からの帰り道、砂浜のくぼみに足を取られて砂まみれとなったみっちゃんさんをおぶっている。
僕も砂まみれなのでななや旅館に着いたらお風呂に入り直すつもりだ。
「おねえさんは当分立ち直れそうにありません…」
しかし超大凶とか誰がいれたんだろう。
吉?も謎ですけれど。
みっちゃんさんをお風呂に入れると話したら姫さま達もついてくると。
ここは仮想世界なので何度お風呂に入ってもリアルでふやける心配はないのですが…。
こちらの体はふやけるんですよね。その辺りが非常に細かいと言いますか。
旅館の手前でおせんたく魔導を起動して最低限の砂ぼこりだけは払っておく。
何故仮想世界で魔導が使えるのかといった細かい事は考え出すときりがないのでやめている。
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「みっちゃんさん。頭流すので目をつぶって」
お洗濯魔導をかけたのにどうしてこんなに砂が落ちて来るんだろう。
あさりの砂抜きをしている感じですが。というのは前にも話したような気がする。
みっちゃんさんの砂が抜けたところで僕も体を流すことに。
彼女のように砂が溢れてくることは無いのですが、気持ちの問題と言いますか。
みっちゃんさんは事前に買っておいたフルーツ牛乳を飲みながら湯船につかっている。
「勇者さま、お背中を…もう流されたのですね!でしたらマッサージはいかがでしょう?」
「マッサージ?」
「あちらにそういった施設があるのを見つけました!」
いつのまにかサウナやマッサージルームといった付帯設備が出来ている。
昨日は無かったはずというか、さっきまで無かったよな?
もしかして見落としていたとか。
とりあえず姫さまに手を引かれ、謎のマッサージルームへと移動を。
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「どうみてもマッサージ台ですね」
うつぶせになって顔を出す穴がある防水加工されたベッドがいくつか並んでおり、ワゴンにはマッサージに使うジェルなどが準備されていた。
「なんかたのしそうにゃ」とシロさんがノリノリである。大丈夫か?
いつだったかひれビンタさんを含む水精霊たちにマッサージを受けたような記憶もあるのですが。
「勇者さま、早速!」
とりあえずうつ伏せに寝かされた僕は自称マッサージ士の数が非常に多いことに不安を抱く。
これ、癒しの力とか使われたらまた何処かに精神を飛ばされたりしないのか?
「うひゃひゃひゃひゃ」と思わず声が出てしまった。
脇腹を重点的に攻めるのは一体誰だ?
顔を上げられないので確認が出来ない。
とてもスースーする謎のジェルでもって全身くまなくもみほぐされる僕。
だれですか?バミューダの上からおしりさまに力を掛けているのは。
「サブロー、ここも強張ってるにゃ」
シロさんが率先しておしりさまのマッサージをしている様子。
確かに凝っていますがそこまで執拗に責め立てる必要はないのでは?
「どりあーども」
どりあーどさんは魔蔦から微弱な魔力を放出し、まるで低周波治療器を当てられているような感覚が伝わってくる。
いつだったか軽い肉離れをやった時に整骨院で低周波治療やったっけな…と思い出し。
「勇者さま、どこか痛いところはありませんか?」
「特に無いですね」
「でも、肩のあたりが…」
肩こりがひどいんですよね。こればかりは致し方なく。
自分の癒しの力は自分自身には使えないという謎の縛りがあるので。
姫さまが癒しの力を使っているようでちょっとだけリラックス出来たような。
「勇者さま!このまま眠っていただいても構いません!」
ログアウトは時間が来れば児童で行われるので問題は無いのですが。
明日もアトレーンに行かないと…と考えているうちに意識が遠のく。
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「あれ?たしか境界の地で…」
体を起こすと傍らに寝ていたみなさんの姿が無い。
それ以前に見たこともない場所に一人でいるのが謎だ。
灰色の天井と床だけがどこまでも続く不可思議な世界。
境界の地にも思えるが、あそこはカオスが支配する場所へと変貌しており、モノが全く無いというのはおかしい。
「誰だろう…」
突然目の前に現れた人影。背の高さは十六夜さんよりもすこし高いくらい。
真っ白なゴシックドレスに身を包み、黒い皮で装丁された分厚い本を抱えている。
うつむいているので表情までは分からない。
「ここは境界の地。わが名は…」




