魔笛短歌
聞こえてくる
さみしい音色に誘われて
歪んだものが集まってくる
*電子
パソコンの
仮想空間のなかで生きる
わたしは果たして人間かしら?
カタカタと
震える指でキーを叩き
「ごめん」と呟きIDを消す
赦してと
一言メールに書いて送り
オーバードースの海へと沈む
*記憶
大切な記憶は
ぜんぶ置き去りに
生きる為には重すぎるのだ
ソウあの日、
失ったのは何だった?
思い出さない出せない自分
みずいろの
記憶のプールに沈んでく
静かに音なく石のよに
「あなただれ?」
きみはすべてを忘却し
世界をみんな透明にした
*食べ物
分割し
冷凍保存されていた
シロップで煮た心臓を食べる
壜詰で
棚に保存されていた
お砂糖漬けの胎児を食べる
愉しきは
乙女の腐肉の腸詰を
その恋人に料理せしとき
愉しきは
殺した仔猫の胃袋を
その飼い主に料理せしとき
貴重な
禁制品のクッキーを
犬に投げて一緒に食べる
あらゆる
チョコレートを禁止した
政府にデモの行進をする
甘ったるい
アイシングかけたクッキーを
山ほど作って壁に飾ろう
植物を
豚を魚を鶏を
殺してみにくい死骸を食らう
*色彩
きらきらと
青いネイルの美しい
小指の爪を剥がして飾る
赤ペンで
頭骨に恋の詩を写し
可愛いひとにプレゼントする
盗まれた目の代わりに
チクチクと
青い釦を縫いつけてみる
虫よ虫
醜く震えるアノ黒い
貴兄の潰したそれが妾です
「ひかりあれ!」
うたう少女の足元で
赤き涙こぼす水脈
ほろほろと
おちるは涙の赤き色
溶けおちてゆくわが身とまじる
純粋な記憶を
黒く塗りつぶし
ウ、ラ、ギ、リ、モ、ノ!と叫び笑ウ
しあわせの
かたち模るミルクティが
血いろにみえるハレの夕べ
浮き上がる
あおい血管をそっと撫で
死の予感にあまく震える
*虫
腐敗せし
あまい林檎は猶あまく
幻覚の虫を肥らせる
右腕で
虫を育てる夢を見て
柔らかなキャベツにかじりついた
バタバタと
もがき苦しむ虫摘み
泥臭い飯の端に添える
爪先から
ちいさな虫に変質し
ばらばらになって俺は消える
*今はもう
今はもう
海に沈んだ極東の
キモノとスシの論文を書く
降りそそぐ
紫外線を浴びた子は
吸血鬼のよに焼け焦げて死ぬ
生まれない
子どものために仕方なく
クローンの自分をもう一人つくる
ただ一つ
昔からずっと変わらない
空の青さに涙を零す
人工の
正体分からぬ肉を焼き
何でもいいやと気にせず食べる
どこまでも
広がる緑の草原を
馬で駆けゆく想像をする
いつからか
労働という言葉さえ
古代語となり美徳は消えた
今はもう
写真にしか残らない
森林の存在記憶へ刻む
*花
たおやかな
白百合のよなその首を
ナイロンの紐でぐいと絞める
腐乱した人差し指を
鉢に植え
牡丹が咲くようお祈りをする
花籠の花弁に
溺れてみえなくなる
透明なわたし狂ってゆくあなた
微笑する天使のパズルを
ばらばらに崩して
薔薇の根元に埋める
鉛筆で
画用紙いっぱいに描きだし
花びらひとつを遺作と名づける
青薔薇の
繁殖つづける死体ちぎり
小瓶に詰めてお金に換える
雨降れど
花を召しませ、笑いましょ
暗い顔など似合いませんわ
風流に
花占いと洒落こんで
スキで終わるよう小細工をする
強く香る
薔薇のポプリにダイブして
からだじゅうで幸せになる
夢のよな
バラいろの傷にくちづけて
壊れてく音に耳傾ける




