第39話 - 誰も愛さなかったアイドル
第4巻 - 第3話 - [閲覧注意: MA17+]
[ナレーター:他人は家族より簡単だからと演じる者がいる。愛されることより、数字の方が安全だからとフォロワーを集める者がいる。そして、もし十分に輝けば、たった一人――大切なあの人が自分を見てくれるかもしれないと願ってアイドルになる者がいる。オワリ・シに会おう。SNSのセンセーション、百万人のフォロワーを持つアイドル。そして、どんなに有名になっても、兄からの徹底的な憎悪という壁を越えられない少女。今日、彼女はジェレミー高校へ転校してくる。今日、リユラは自分の演技がアマチュアに見えるほどの「完璧な絶望」に出会う。今日、承認欲求は深く、完璧な笑顔を纏う。バリデーションが死に絶え、それでもショーが続くステージへようこそ。]
第一部:完璧すぎた笑顔
金曜日。3年生の初週が終わろうとしていた。リユラはパンの疲弊した瞳、ジョウユウの死んだ眼差しを思いながら校門をくぐる。
[リユラの独白:パンの店にまた行った。レビューも書いた。彼は反応しない。ただパンを焼き続けている。ジョウユウにも3度話しかけたが、プロの笑顔で拒絶された。僕は失敗し続けている。ヤカミラを救えなかった時と同じように。]
始業式で、ジェレミー校長が最後の転校生を紹介した。「オワリ・シさんです。温かく迎えてやってください」
ステージに現れた生徒を見て、リユラは即座に違和感を抱いた。微かだが、決定的に間違っている。
「皆さん、こんにちは! ジェレミー高校に来られて本当に嬉しいです! お友達をたくさん作りたいです!」
彼女はお辞儀をし、温かく微笑んだ。だがその瞳は――絶望していた。
ジョウユウのような死んだ目ではない。溺れながら、優雅に見せる術を学んだ者の目。叫びながら微笑んでいる者の目。内側で死にかけていることに誰も気づかないほど、完璧に喜びを演じている者の目。
「あれ、オワリ・シだわ」ミヤカがリユラに囁いた。「超有名人よ。SNSのフォロワー100万人以上。アイドル活動に動画配信……なぜこんな学校に?」
「転校理由は皆同じさ」リユラは彼女の必死な瞳を見つめた。「何かから逃げているのか、何かを求めているのか。その両方か」
第二部:仮面が砕けたランチ
昼食時。オワリは食堂で崇拝者たちに囲まれていた。リユラは隙を見て近づいた。「座っていいか?」
オワリの笑顔がさらに輝いた。「もちろん! リユラ・シコよね! 噂は聞いているわ! 腐敗を暴いた勇気ある人! 座って!」
熱狂的すぎる。演技だ。
「君、うまいな」リユラが言った。「何が?」と笑みを絶やさない彼女に、「演じるのが。人を心地よくさせ、大勢を一人一人扱っているように見せるのが。印象的だが、見ていて疲れるよ」
オワリの笑顔が一瞬揺らいだ。「意味がわからないわ。ただ皆と会いたいだけよ」
「君は人を『集めて』いるんだ」リユラは静かに指摘した。「繋がりと蓄積は違う。君は繋がりを演じながら、蓄積をしている」
彼女から完全に笑顔が消えた。「初対面の人に分析される筋合いはないわ」
「演技が見抜ける男の分析だ」リユラが返す。「昔の僕も同じだった。攻撃的な陽気さ、歪んだ蝶ネクタイ。笑いを鎧にして、自分が溺れていることに誰も気づかないようにしていた。君はそれをアイドルの美学でやっているだけだ」
オワリは立ち上がった。「失礼するわ」
第三部:真実が宿る屋上
放課後。屋上で、誰かが必死に呟く声が聞こえた。オワリだった。
「気づいて……お願い、気づいて。見て。認めて。お願い」
彼女はスマホを見ていた。自分の投稿、コメント、増え続ける数字。
「120万フォロワー……」オワリの声が震えた。「120万人が私を『いいね』している。なのに、彼は……彼は私を見てくれない。私が存在することすら認めてくれない。私が私であることを憎んでいる」
彼女はスマホを投げつけた。「なんの意味があるの? このパフォーマンスも、動画も、完璧になろうとする必死な努力も! これで、ようやく私を家族として見てくれるかもしれないと思ったのに!」
「誰を?」リユラが前に出た。
オワリは振り返り、微笑もうとして失敗した。「……兄よ。ヘイター。血の繋がった唯一の家族。親が6歳の時に私を養子にして以来、彼は私を憎んでいる。私の姓が同じであることも、妹と名乗ることも」
「成功すれば、有名になれば、何百万人もの人に愛されれば、彼も誇りに思ってくれるかもしれないと思った。養子という『慈善事業』ではなく、本当の家族として認めてくれるかもしれないと」
「なぜ、そんなに認められたいの?」リユラが問うた。「ひどい扱いを受けているのに」
「だって、彼しかいないから!」オワリは泣き崩れた。「養父母は親切だけど遠い存在。慈善活動として私を引き取っただけ。ヘイターだけが、私がどこかに属していると感じさせてくれる唯一の存在だったの」
「愛は努力や演技で勝ち取れるものじゃない」リユラは隣に座った。「僕もやった。父に愛されるために必死に演じた。でも彼は僕を憎み、最後には殺そうとした。愛はパフォーマンスで手に入るものじゃない」
「じゃあどうすればいいの? 愛されるべき人に拒絶されたら、どうやって生きればいいの?」
「新しい家族を作るんだ」リユラが言った。「血の繋がりではなく、自分たちを選んでくれる人たちを。演技をやめて、誠実であることで見てくれる人たちと生きるんだ」
「……誠実である方法なんて忘れたわ」彼女は言った。
リユラのスマホが震えた。ミヤカからだ。『緊急。ジョウユウが倒れた。救急車を呼んだ』
「行かなきゃならない」リユラは立ち上がった。「でもオワリ、愛は演技で稼ぐものじゃない。完璧を求めないで、ありのままの君を見てくれる人を探せばいい。必ずいる」
彼は走った。オワリは、百万人のフォロワーを持ちながら、一人きりで屋上に残された。
第四部:病院で剥がれ落ちた仮面
病院の待合室。ジョウユウは栄養失調と過労で倒れていた。
「命に別状はないが、休養が必要だ」と医師。「重度の鬱の可能性がある」
病室でジョウユウは衰弱していたが、演技を維持する気力さえ失っていた。「……なぜ来た。僕なんかに関わるな」
「友達だからだよ」リユラが答えた。「拒絶されても、僕らは勝手に友達だと決めた。残念ながら、僕らは諦めが悪いんだ」
「……怖いんだ。僕の本当の姿を見たら、みんな去っていくから」ジョウユウが泣いた。
「じゃあ、僕らと学ぼう」リユラが言った。「僕らはみんな壊れている。みんな溺れながら『大丈夫』を演じている。君は独りじゃない」
エピローグ:憎む兄
東京の高級マンション。ヘイター・シコは、妹のSNSを見て嫌悪を露わにしていた。
「彼女を知らない120万人の馬鹿ども。こいつが偽物だとも、演技だとも知らずに」
養母から電話がかかってきた。「ヘイター、妹があなたの学校に転校したの。優しくしてあげて」
「彼女は哀れな存在だ」ヘイターは冷酷に言った。「注目と承認に飢え、フォロワー数で愛を測ろうとしている。彼女は僕のスペースに侵入しただけの他人だ。養子という慈善の道具が、何をしたって関係ない」
彼は画面のオワリの笑顔を睨みつけた。
月曜日が楽しみだ。学校で彼女がどんな必死な演技を見せるのか。どれだけ媚びを売ろうとも、決して受け入れない。それが現実だと教えてやる。
[ナレーター:オワリの物語がリユラの世界に激突する。愛に飢え、百万人に演技し、笑顔の裏で死にかけているオワリ。冷徹に憎悪を注ぐ兄ヘイター。ジョウユウは助けを受け入れ始める。パンは独りで焼き続ける。リユラは他者を助けながら、自分の傷が癒えないことを知る。次回:ジサツが真の動きを見せる。影が語り出す。敵は危険なだけではない――彼もまた必死なのだ。戦いは加速する。ついてきてくれ。]
TO BE CONTINUED...




