【第二十六話】遺跡の外で
遺跡の扉が、重々しい音を立てて閉じた。
陽光が降り注ぐ外の世界は、まるで別の国のように明るく、風が頬を撫でるたびに、肌に触れる空気の柔らかさが身に染みる。
長い時間、閉ざされた空間にいたせいだろう。それぞれの目が、わずかに眩しさに細められていた。
リクは振り返り、静かに遺跡の入り口を見つめた。
あの場所は、ただ古い石の積み重ねではない。過去と、記憶と、そして何か未知の力が眠る場所だった。
「……戻ってきた、んだな」
隊員のひとりが呟くと、仲間たちの間にゆるやかな空気が流れた。
「とりあえず、無事でなによりだな」
ベテランの隊員が、ミナの方をちらと見て言う。
ミナはその視線をまっすぐに受け止め、小さく頭を下げた。
◆ ◆ ◆
野営地点に戻ると、各自が荷を下ろして休憩に入った。
リクは腰を下ろし、あぐらをかいて一息つく。
その傍に、ミナが静かに座った。彼女は野営のやり方をまだよく知らないらしく、所在なげにリクの真似をして膝を抱えている。
「……疲れてないか?」
「ううん、大丈夫。でも……なんていうか、今の自分に何ができるのか、まだよくわからないから……落ち着かない」
リクは火打石で焚き火を起こしながら、ふと彼女に視線を向けた。
「大丈夫。僕だって、最初は“解析”ってスキルが戦いにどう使えるのか、全然わからなかった。でも、いろんなものを見て、調べて、考えて……少しずつ形になってきた。だから……」
リクは笑った。
「君にも、きっと〝知る〟時がくるよ」
その笑顔は、まっすぐだった。ミナは少し頬を赤らめ、火の明かりに視線を落とした。
「……ありがと」
その夜、リクは一人、星空を仰いでいた。
あの日、この世界に転生し、わけもわからぬまま「リライフ」を迫られた日々――
そして、今、自分のスキルを駆使して、仲間と共に遺跡を歩き、生きている。
思い返すと、ほんのわずかな出来事が、大きな流れを変えてきた。
(……次は、どんな“発見”があるだろう)
夜風がそっと草を揺らし、焚き火の火がぱちりと弾けた。
リクは目を閉じ、次なる探索の準備を心の中で始めていた。




