【第二十七話】長き旅路のはじまり
翌朝、隊は遺跡のそばの野営地を片付け、簡単な朝食を終えた後、中央のテントに集まっていた。
そこに広げられていたのは、古びた地図と、一連の解析結果を記した羊皮紙。
それはリクが遺跡内部で得た文様と魔素の流れを記録し、さらに自らのスキルで解読した断片的な情報だった。
隊長が腕を組んで、低く唸る。
「……“東の山脈を越え、星降る谷の底に封じられし門あり”か」
その言葉の意味を全員が噛み締めるように、沈黙が場を包む。
「この遺跡の奥にあった紋様は、どうやら『境界門』と呼ばれる古代の装置に繋がっていた可能性がある」
そう口を開いたのはリクだった。
「断片的だけど……地図に記された魔素の流れは、遥か東の山地に続いてる。そこに何かある。もしかしたら……この遺跡よりも、もっと核心に近い場所が」
「東の山脈を越えるとなると……まともな街道は通ってない。街を経由するにも、いくつか国境を跨ぐ。あれはもう、旅っていうより遠征だ」
年配の隊員が渋い顔でそう言い、誰かが唾を飲んだ。
だが、リクの目には不思議な熱が宿っていた。
「行きたい。……行かなきゃいけない気がするんだ。きっと、まだ僕の“解析”にしか見えない何かがある」
その決意に、隊長が目を細めた。
「……あのな、お前はよくやってる。それは認める。けど、これは遊びじゃねえ。魔獣も盗賊も、国境の検問もある。甘い考えで動いたら、誰かが死ぬ」
その声は厳しくも、本気で心配しているのが伝わった。
だが、リクはわずかに首を横に振る。
「僕は、“まだ何者でもない”けど……だからこそ、行きたいんです。何者かになるために。僕自身の意味を探したい」
それを聞いた隊長は、肩をすくめ、嘆息した。
「……ふん。いいだろう。俺たち調査団は、真実の欠片を追い求めるのが本分だ。だがその代わり、覚悟はしておけ。次の場所は、これまでよりずっと過酷だぞ」
リクは静かに、だがはっきりと頷いた。
その日の午後、荷を整えた一行は再び歩き出した。
東へ。遥か彼方、山脈の向こうにあるという“星降る谷”へと――。
ミナはリクの隣で、まだ不安を残した瞳で空を見上げていた。
だが、歩みは止めない。
「……ねぇリク。そんなに遠い場所に、ほんとに何かあるの?」
「あるかどうかなんて、わからない。でも……何もないって、僕のスキルが言ってないから。僕は“解析”を信じてる」
それは、何かを信じた少年の、少し大人びた声だった。
ミナはゆっくりと笑った。
「じゃあ、私も信じてみる。リクの“解析”と、リク自身のこと」
二人の言葉を聞きながら、隊の面々は黙って歩を進める。
彼らの背に、陽は傾き、長い影が道を延ばしていた。
これまでの旅は、ただの序章だったのかもしれない。
いよいよ――本当の旅が始まる。




