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職業ガチャでSSレアを引いたら死神になりました。  作者: 柚木
四章 天上の国、魔王の増殖
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醜類の魔王

 王都の中はがらんとしていた。

 わずかに残る戦闘の跡があるだけで、生物は存在さえしていない。

 昔にテレビでやっていた幽霊船のような不気味さが漂っていた。


「これが翼人の普通じゃないよな?」


「もちろん違います。ガチャをするために来た時はもっと賑やかでしたから」


 これが醜類の魔王の能力なんだろう。

 前の町で覆った闇の幕がここでも下りたってことなんだろうけど、他の魔王さえいないってのはなんでだ?


「城まで案内してくれ」


 誰もいない無音の町は恐怖感を煽ってくる。

 物陰や、建物の中から誰かが飛び出してくる気さえしてくる。


 結局何も起きないまま城にたどり着いた。

 雲にも重量制限があるのか、城は地上と比べて小さく見える。


「ようこそ、あたしの城へ」


 エントランスに現れた魔王は漆黒のドレスの端を掴み軽くお辞儀する。


「挨拶にも応えてくれないのは悲しいわ。悲しくてあなたのお仲間を殺してしまいそうですわ」


「それはどういう――」


「嘘はいらない」


 ティックの言葉を手で制し、魔王を睨む。

 そんなことをするならわざわざここで待っている意味はない。

 自分の身を危険にさらす必要はない。


「それが嘘ではないとしたらどうですか? 例えばあたしが偽物でこうしてあなたとお話している間にも一人一人命が失われているとしたら?」


「そうだとしても俺のやることは変わらない。お前を倒せば全部終わるだろ?」


「そうですね。死を操るくらいで人間があたしを倒せるなら倒してみてくださいな」


 ドレスが自然に浮き上がり、姿を変えて攻撃してくる。

 前回と同じように触れた端から寿命が無くなり灰に変わる。


「二十は死んでしまったわ」


 前と何も変わってないけど、こいつは何がしたいんだ?


「不思議そうな顔ね。答えを教えてあげるわ。何から聞きたい? この町にいた人間の行方? それとも私があなたの力で死なないことかしら?」


 そう言いながら、魔王は一歩ずつゆっくりと俺に近寄ってくる。

 なんだ? どういう意味だ? なんで心がこんなにざわつくんだ?


「全部教えてあげる。私の職業は『独裁者』よ」


 その一言で全てが結びついてしまった。


「察しがいいのね」


 わざと触れた腕から灰が零れる。


「想像通りよ。消えた理由も、ここに零れる白い灰も全てあなたの想像通り。大変ね、こんな短時間で二十人も死んだわ。さっきあなたに触れて一人死んだから二十一人ね、残り四千八百十二人もあっというまに殺されてしまうかも」


 こいつはあのドレスで人を取り込んでいる。

 自由も命も全て取り込んで盾にしてやがる。


「さあ、続けましょうか。五千の命が無くなるのが先か、あなたの心が折れるのが先かどちらかしらね。フフフ」


 ドレスから生えたのは幾人かの人だった。

 顔には恐怖が浮かび、武器を持った彼らの手は震えている。


「ごめんなさいごめんなさい」


 謝りながら男性は剣を振り下ろす。

 その人たちは鎧に弾かれる。


「装備も変化できるのね。真っ白で綺麗ね、すぐに赤く染めてあげる」


 『死神』から『英雄』へと変わった装備を魔王は殴り続ける。

 数多に変化するドレスの攻撃を俺は黙って受け続けるしかない。


「別に気にしなくていいじゃない。私を羽交い絞めにし続ければすぐに終わるわよ。たった五千の人間を殺せば私に届くわ。どうしてやらないの?」


「うるせえよクソばばあ」


「黙らせたかったらこの口を塞ぐといいわ。なんならその口で塞いでみてもいいわよ、特別に許してあげる」


「お前だけは必ず倒す」


「だから言ってるでしょ? 人の命なんて見捨てなさい。そうすれば私を倒せるわよ。わざわざこんなに近づいてあげてるのに」


 どうすればいい? どうすればこいつだけを倒せる?


「できないの? できないわよね、人間だもの。わずか五千を殺せば倍以上の人を救えるのに、五千を殺せば自分は助かるのに良心って邪魔な物があるせいで殺せない。愚かで愛おしくさえ感じるわ」


 ドレスから更に一人の男が生えてくる。


「さあ、殺しなさい。そいつを殺せばあなただけは助けてあげましょう」


「お前は最低だよ。今までのどんな魔王よりも」


「最高の誉め言葉よ。さあ、早く殺しなさい」


 男は一本のナイフを手に取り、近づいてくる。


「させません」


 ティックがその男を殴り飛ばした。


「生かしてあげていたのに、なぜショーを邪魔したの?」


「ウォルさんがあなたを倒すからです。あなたみたいな魔王にウォルさんは絶対に負けません」


「ずっとそこにいたのに聞いてなかったの? その男が私に触れれば五千の人が死ぬの、そいつはそれを殺すことはできないの」


「そんなこと知ったこっちゃないです。ウォルさんはその五千人も救ってあなたも倒して必ず勝つんです」


「わからない子ね。もういいわ、死になさい」


 魔王の振り下ろす腕を俺は受け止めた。


「ティック、ありがとう。助かったよ」


「急に入ってきてどうしたの? 私と戦う気になったのかしら、五千の人間を殺す覚悟ができたのかしら?」


「いや、そんなつもりは一切ない」


 姿勢を正し剣を構える。


「『英雄』が聞いてあきれるわね、小を切り捨てて大を救うなんて『英雄』のすることかしら」


「『英雄』に能力は一個しかないんだよ」


 大丈夫だと確証なんて一つもない。

 もし違ったらこいつは倒せても俺の負けだ。


「何を言ってるの?」


「そのたった一つが『英雄』である証だ」


 俺は構えた剣を振る。

 魔王を倒しても俺の勝ちじゃない。

 残りの命も助けて魔王も倒すのがたった一つの勝利だ。

 それなら約束された勝利の一撃なら、そのたった一つに届けられる。


 斬撃は魔王の体を半分にする。


「あははははは! あたしを殺したわね、大義のために人を大量に殺した! これでもうあなたの勝利はないわ、例え全ての魔王を倒しても、あなたはいずれ人殺しの……、えっ? なんで? なんで誰も死んでないの? あたしに攻撃が届いたのに?」


 言葉通り、ドレスからは次々と人が解き放たれていく。


「待って、なんで、なんでなの? こんな痛い思いしてるのに、なんでなの? 傷が治らない、痛い痛い痛い! 死にたくない、なんで私が……、だれか、たす、けて……」


 泣き叫んだ醜類の魔王は美しかった顔をゆがめ、息絶えた。

 その死体を灰に変える。


「英雄様、ありがとうございます。おかげでイルミナは救われました。国王として感謝いたします」


 国王が頭を下げると他の国民もそれに合わせて深く頭を下げた。


「いや、えっと、その……」


「ウォルさん、こういう時は剣を高く掲げるんです」


「「「うおおおおぉぉぉぉおおおお!!!!」」」


 言われた通りにするとその場の全員が雄たけびを上げた。


 これで魔王は倒し終わったんだ。

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