魔王の増えた理由
翌朝、早速ヴァレンシアに話をしに来た。
ヴァレンシアは俺達の話を聞き、唸ったまましばらく考え込む。
「前例がないわけじゃないです。もちろん多いわけじゃないですけど」
「成功する確率がわずかでもあるなら頼みたい。このままググゲグ達を死なせたくない」
「わかりました。私も気持ちは同じですから助けられるなら助けます。ですが、彼らが人に戻っても悪の場合もあることを覚えておいてくださいね」
ホッとした瞬間に釘を刺された。
魔に染まっても染まらなくても悪人は悪人だ。
「それはわかってる。その時は俺が責任を持ってあいつから寿命を奪う」
「それでしたら私から言うことは何もありません。情報も貰わないといけませんから行きましょう」
ググゲグは俺達が呼びに行くよりも早く、闘技場にいた。
「遅かったな。俺様に聞きたいことは決めてきたか?」
「ああ、お前達を引き連れたボスはどこにいる?」
「俺達を引き連れてきたボスは、残りの町を占領している醜類の魔王って魔王だ。名前はシコメって言ったはずだ。俺達を作りだしたのは更にその上にいる魔王で――」
「作り出した? 誰を?」
「俺様達だよ。このイルミナにいる魔王を全部作ったやつがいるんだが、それがどうかしたのか?」
魔王を作り出せる魔王がいるのか? そんなの反則だ。
でも、それでここに来てからの魔王に感じた違いがわかった。
ここに解き放つためにその魔王が作ったんだ。
だから戦いにも慣れていない、逃げた四体よりも魔に染まり切っていなかったのか。
「そんなに変なことなのか?」
「変どころじゃありません。明らかに異常事態です。魔王を作る魔王なんて聞いたこともありません」
「そうなのか」
「魔王を知らないってお前はどんなところに住んでたんだよ」
歴史を少しでも触れれば必ずと言っていいほど、魔王の話題にはぶつかるはずだ。
「この内地から少し離れたアリエス島ってところだな」
まさかの島育ちでしたか……、それでも魔王を知らないってどんだけ隔離された場所なんだよそこ……。
「生まれも育ちもあるってことは、ググゲグさんは人間だったのを魔王にされたってことですか?」
「そうだ。そいつは一月前に俺達の島に来て島を占領した。逆らう者には死を従う者を魔王に変え、数日で島の全てを支配した」
「もしかしてそれがここに居る魔王達ですか?」
シャルの言葉にググゲグは頷く。
なるほど、そうなると前の町にいた連中もどこかの集落から集められた集団だったわけだ。
「その魔王の目的はなんなんだ?」
「答える必要はないだろ、魔王の目的は決まってる。世界の破滅ただそれだけだ」
「だろうな」
ググゲグみたいな魔王は珍しいからな。
「さて、他に聞きたいことがないならとっとと殺してくれ」
「それはなしだ。やっぱりお前達には生きててもらおうと思う」
「なっ、ふざけるな! 昨日説明しただろ、人間と魔王は根本が違うから俺達が生きてたら駄目だって! それをお前は受け入れただろ!」
「ああ、覚えてるよ。お前達が魔王のままなら俺がお前達の寿命を奪う。その前に悪あがきするくらいいいだろ?」
「悪あがきって……」
「私が魔に染まった魔力回廊を浄化します」
「そんなことできるわけが……」
「死ぬ覚悟があるなら平気だろ? それとも死ぬより人間に戻る方が怖いのか?」
「わかったよ。ならさっさとやってくれ」
「それでは始めます。イレーズ」
アルバで浄化した時とは違い、ググゲグを中心に光の球体が生まれる。
するとググゲグから闇が染み出てくる。
「ぐっ……」
闇が溢れるたびにググゲグは苦悶に顔をゆがめ、その闇たちは光に飲み込まれていく。
それが数分ほど続き、光の球は粒子になって消えて行く。
「ググゲグ?」
「大丈夫です、魔力回廊に直接干渉しているので気を失っているだけですよ」
死んでいるようにしか見えない程ぐったりしているが、心臓はきっちり動いているから問題はないだろう。
それからヴァレンシア以外の『神官』にも声をかけ、丸一日がかりで魔王達を元に戻すことに成功した。
「これからだけど、俺は醜類の魔王を倒しに行こうと思う」
「そりゃそうでしょ、そこで終わりなのに倒さないで帰るわけにはいかないでしょ?」
「一人で行くってことだよね?」
「そうだ。案内役にティックかググゲグを連れて行くけど、皆にはここで待っててもらいたい」
この町の人も助けたために人数が爆発的に増えた。
この人数と移動するのは時間も手間もかかりすぎてしまう。
折角この町は機能しているんだから、現状を利用して人間の町を取り戻しておきたい。
†
その翌日に町を出て更に二日かけ、次の町に着いた。
品の無い笑い声が離れていても聞こえ、内容も吐き気を催すほどに酷い。
「ちょっと全部消してくる」
少しは我慢して情報を聞き出そうかと思ったが、これ以上は耳が腐る。
「どこの奴だ? あん、何だ人間か? わざわざ殺されに来たのか?」
「ここのボスに話がある。死にたくないなら大人しくしてろ」
「ふざけてんのか!?」
近くにいた魔王二体は俺の体に触れ、寿命が無くなり灰へと変わる。
「ボスの場所を吐け」
「あたしならここに居るわよ」
「シコメ様!」
漆黒のドレスを身に纏った長身の女がゆっくりと姿を現す。
醜類の魔王を見た他の魔王達が一斉にその場で傅いた。
「お前が醜類の魔王だな?」
「そうよ。あなたは何者かしら?」
「『英雄』ウォル・ノーグル」
醜いという字が入っている割に深窓の令嬢って感じだな。
「あなたが『英雄』なのね。それなら殺さないといけないわ」
直後にドレスから腕が生え俺の体を掴み、灰に変わる。
「あら、二人死んでしまったわ。それならこれでどう?」
二人?
魔王の言葉を考える間もないまま追撃が来る。
今度は十を超える腕がドレスから生え、一斉に向かってくる。
それらも触れた直後に灰に変わる。
灰に変わったのに魔王自身も、ドレス自体も灰に変わる気配はない。
「触れたら死ぬタイプね。ノヴァと同じ系統ってことかしら」
こいつ死の魔王を知ってる?
ココリが生きた時代の生き残りってことか?
「今のままでは負けてしまうわね、今は引きましょうか。それではごきげんよう」
「待て!」
闇が一瞬世界を覆う。
光を取り戻した瞬間、町から人が一斉に消えた。
魔王の大群も消え、この町は無人になった。
「ウォルさん、今一瞬町を黒いドームが覆いましたけど」
「醜類の魔王に逃げられた。他の魔王も一緒に消えた」
なんで『死神』で消えなかったのか、死の魔王をなんで知っているのか、あいつはこちらに何も情報を与えてくれないまま、俺の前から姿を消した。
俺が再びその姿を見たのは、イルミナの王都にただりついてからだった。




