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堕天使は腐女子に翻弄されています?! ~楽しいBLライフは死後に魔界で~  作者: 藍川詩子
魔界を揺るがすのは身内か腐女子かそれとも両方か
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五十日目① 同人誌即売会と火山の噴火

 ついに同人誌即売会当日を迎えた朝の八時ちょうど――。外では今日が噴火の日であることを教える音花火が鳴り響いている。


 私はその花火の音をダイニングテーブルで聞きながら、ビビに「予定通り今から出るよ」とだけスマホでメッセージを送ると、スマホを椅子の上に置いて立ち上がり、目の前でモーニングティーを飲むグラスとモップちゃんにニッコニコの笑顔を向けた。


「グラス、モップちゃん、時間だからもう出るね!」

「もう行くのか?! 随分早いな」

「みさきしゃん、ホントに一人で大丈夫デシか? やっぱりぼく、付いて行くデシよ?」

「ううん! 本当に一人で大丈夫だから! それに友達も一緒だし!」


 私はそう答えると同時にテキパキと大きな黒いリュックを背負い、左の脇にスクーターのヘルメットをガシッと抱える。スクーターの鍵はチノパンのポケットに入っているので、あとはもう家を出るだけだ。


「……それでは玄関先まで見送――」

「――それも大丈夫ー! 二人はティータイムの続きをどうぞ~! じゃあ行ってきま~す!」


 この時点で私はすでに玄関ホールへと続く扉から半分身体が出ており、身体全部が出た瞬間、脱兎のごとく玄関ホールを駆けて行った――。



「――エンジン音、もう聞こえないデシね……みさきしゃん、大丈夫だといいんデシが……」

「モップ、そんなに心配しなくても大丈夫だぞ。ああ見えて、美咲はだいぶしっかりしてるしな。まあ、お茶でも飲んで落ち着け」

「そ、そうデシよね……?! じゃあもう一杯…………って、あ゛ーーー?!」

「どうした?」

「た、大変デシ、グラスしゃま!! み、みさきしゃん、スマホを忘れて行ってるデシーーー!!」

「……! まずいな……! 美咲からは中級悪魔街のギャラリーとしか聞いていないぞ……!」

「……! あっ、あの、ぼく、知ってるかもデシ……!」

「何?! 本当か?!」

「でも、その、みさきしゃんの部屋の前を通る時に耳にした程度デシから、合ってるかはわからないんデシけど……確か、『ギャラリーヤドカリ』とかなんとか言ってたと思うデシ……!」

「ギャラリーヤドカリ……? そんなギャラリーは聞いたことが……いや、それはもしや――」



   ◇



 中級悪魔街の端、青々とした木々が生い茂る都会のオアシスのような一画にひっそりと佇む建物、ギャラリーカタツムリ――それが、本日私達がお世話になる、第一回魔界同人誌即売会の会場だ。


 隠れ家をコンセプトとしたこのギャラリーは、外壁をダークブラウン一色の木材で覆った一見シンプルそうな建物なのだが、上空からだとこの建物がカタツムリの形に見えるらしく、カタツムリの殻に当たる部分がギャラリー会場となっている。


 そして、一番重要な会場内はというと――。


「――うん……! この配置ならバランスもいいし、入場から退場までの流れも完璧だわ……! まあ、ちょっとスペースを無駄に使ってはいるけど……広いから問題無いわね!」


 ――と言うルルの台詞通り、私達には十分過ぎるほど広かった。でもそのおかげで、巨大パネルを五枚も会場内の中央に配置出来たし(イベント感がすごく出て良い)、お客さんに円形の壁に沿って進んでもらう手法を取ることが出来た(経路が単純明快でトラブルも起きにくい)ので結果オーライである。


「ねぇねぇ、私、お客さんになった気持ちで一周回ってみてもいい?!」

「あら、それいいわね! わたしも美咲の後ろから付いて行こうかしら」

「だったら二人はお客さん役をやってよ~! セナ、売り子さんの練習した~い! ルルちゃんも一緒にやろ~よ! シフトの順番だと、売り子さんはセナたちが最初でしょ~!」

「なるほど、予行練習ね。いいわよ」

「じゃ、アタシはドーナツ係だね」

「ワタシは……入口でチケットをモギトル……!」


 ということで、みんなで予行練習だ。私はビビと一緒に一列に並び、まずは入口でモネにチケットもどきを渡した。それをもぎってもらった後は、ポスター(各同人誌の表紙)がずらりと貼られている壁に沿って進み、四分の三を回った辺りで待つルルセナのテーブルの前で止まった。


「いらっしゃいませ~! 今日はご来店ありがとうございま~す! どちらの作品をお望みですか~?――」


 ――ちなみに会場内に設置した長テーブルは二つ。一つはもちろん同人誌を置いた物販用だ。


 ここには常時二人がスタンバイし、全ての作品を販売する。支払いはデビットブレスレットなので、釣銭はもちろん不要である。


 もう一つは物販テーブルの少し先、出口付近に設置したウェルカムドリンクならぬウェルカムドーナツのテーブルだ。


 ここにはアサコに頼んで特別に用意してもらったミニドーナツのセット――スティックタイプとホールタイプの二個入り――をずらりと並べている(本当は入口で渡して待ち時間の間に食べてもらおうと考えていたのだが、会場内は飲食禁止のため、やむを得ず出口で渡すことになったのだ)。


「――えっと、それじゃあ全部を一部ずつ下さい」

「四冊ですね。お会計は全部で三千デビになります」


 価格は漫画が一冊千デビ、短編小説が一冊五百デビ。また、値付けを担当したのはルルセナの二人だ。私としてはかなり高いと感じたが、二人曰はく芸術作品扱いなので妥当らしい。


 さて、同人誌を購入したら、最後はアサコの待つテーブルである。


「これは今日を記念した特別なドーナツセットです。出口は入口と一緒でアチラになります。本日はご来場ありがとうございました」


 私はアサコから小さな手提げ袋に入ったドーナツを受け取って、会場を後にする――ここまでが一連の流れだ。


 そして、同じ流れでビビも会場を出た直後、中から「わあっ!」という歓声が聞こえて来た。みんなの士気が非常に高まっている証拠である。


 あとは約二十分後に迫る本番を迎えるだけだ――。



「――最後尾はこちらです! 同人誌即売会のチケットをお持ちの方はこちらに一列でお並び下さい! 当日券はありません! 前売りチケットのみです!」


 同人誌即売会の開始まで残り二、三分――。イベントにハプニングは付き物とは言うが、これはハプニングを通り越している。


 現在、ギャラリーカタツムリの敷地内は、私達の予想よりも多くの悪魔の女の子らで溢れ返っており、その数、なんと二百あまり。前売りチケットは約百五十枚なのに、それ以上の数が集まるなどいったい誰が予想出来ただろうか。


 また、それらを整列させているのは、最後尾と書かれたプラカードを高く掲げて先ほどの台詞を叫び続けるビビ、それから開始と同時に長蛇の列をギャラリーの入口まで先導する係の私だ。


 私は自分の腕時計の針を確認し、あと一分ちょっとで開く自動ドアの前に戻ると、インカムの送話ボタンを押す。


「こちら美咲。開始時刻一分前です。カウントダウン始めます。会場内、最後尾、どうぞ」

『こちらルーヴル。会場内、了解』

『こちらヴィヴィアン。最後尾、了解』

「五十秒前…………四十秒前――」


 そうして、そのカウントダウンが十秒前になった瞬間――。私は目の前に広がる光景に胸がいっぱいになりながら、大声で開始の宣言をした。


「――ご来場の皆様、大変お待たせ致しました! 只今より、第一回魔界同人誌即売会を開始致します!!」


 歓喜と興奮の声が響き、自動ドアが開く。ついに、魔界の歴史を変える(かもしれない)ビッグイベント、魔界版同人誌即売会の始まりである――!



「――美咲、まずい展開よ!! このままだと半分のお客さんは何も買えないで完売しちゃうわ!!」


 ところが、開始から三分。入口でのチケットをもぐヘルプをし終わった私は、次のヘルプ先(物販テーブル)に入った途端、切羽詰まった声でルルにそう囁かれてしまった。先ほどの非来場者が沢山押し寄せた件に続いて、第二のハプニングだ。


「どぇっ?! な、なんで?!」

「それが八冊買って行く子ばっかりなのよ!! 全種類二冊ずつで合計八冊!!」

「全種類二冊ずつ?! ルルとセナの共作だけならわかるけど……全部?!」


 正直、どうしてそんなことになっているのか私にはわからないが、今はそんなことよりも、買えないお客さんが出てしまうことの方を最優先に考えて対策しなくては――!


「完全にあたしの誤算だわ……! ごめんなさい……! でも、いったいどうしたら……?!」

「ルル、落ち着いて。大丈夫。まず、購入制限を設けよう。で、それでも買えないお客さんが出た場合は謝罪して……後日希望の品を郵送で送るのはどう?」

「っ! その手があったわね……! ありがとう、美咲! そうと決まれば、あたし、控室で注文書を作ってくる――」


 ――と、その時である。突然、ドゴゴゴーーーーーンという、聞いた者全てを震撼させるような爆発音が轟き、それとほぼ同時にギャラリーの建物もグラグラと揺れ始めた。そう――火山が噴火したのだ。


 私はあまりの衝撃に心臓がキュッとなって、思わずその場で固まってしまう。しかし、それは私だけではないようで、会場内のみんなも似たような反応だった。


「――噴火が始まったみたいね……毎年のこととはいえ、ホント、嫌な音だわ……!」


 ルルはそう呟いた直後、販売を再開したセナを見てハッとし、「注文書!」とだけ小声で叫ぶと、インカムで完売の件を共有しながら慌てて会場内を後にする。


 会場で同人誌を買えないお客さんには本当に申し訳ないが、これが今の私達に出来る精一杯の対応なので、どうかご容赦願いたい。


 それにしても、まさかこんな短時間の内に二つもハプニングが起こるなんて思いもよらなかった。でも、さすがにこれ以上のハプニングはないだろう。そう思っていたのだが――それは私が売り子に入って五分も経たないタイミングで、ビビによるインカム連絡からやってきたのである。


『――こちらヴィヴィアン! 全体に緊急連絡! 現在下級悪魔街から大勢の悪魔達がこちらに向かって来ているの! 何か大変な事態が起こっている可能性が高いわ!!』

次話投稿は明日8/31の15:30です

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