四十九日目 即売会前日の呼び出し
ダスボで新たな腐悪魔女子を仲間に引き入れた日を境に、私の生活は魔界に来てから一番と言っていいほど忙しくなった。と言うのも、あの日、ルルからレオとグラスの漫画を買いそうな顧客数を聞いたことにより、あの場に居た私達が全員一致で同人誌即売会の開催をしようと決めたからだ――!
『――開催場所の手配はあたしに任せて! 中級悪魔街の端に隠れ家的なギャラリーがあるのよ……! 規模もそこそこ大きいし、いくつかブースを設置しても三十人は余裕で入れるわ!』
『そこってルルちゃんがたまーに個展をやってる、下級悪魔街が目の前にあるとこでしょ~? あそこ、美味しい飲食店が全然ないんだよね~……あっ! じゃあセナはみんなのお弁当とかを用意する係をやるよ~!』
『お弁当……だったらそれに合わせて来場者のために軽食のキッチンカーを呼ぶのはどうかしら? それか、アサコに店のドーナツを持ってきてもらうのもいいかもしれないわ。惑うなツウのドーナツは人気が高いから』
『ビビ、それいいよ! しかもBLにぴったりなドーナツがあるじゃん!! うん! ドーナツは絶対会場に用意しよう! スティックとホールタイプをセットで!!』
『……あたしには何の話かよくわからないけど、卑猥な感じはビンビン伝わって来るわ……! ええと、それであとは印刷所の手配ね。モネ、あなたの方で手配出来ない? あたしが懇意にしているところは常に忙しいから特急の案件は多分無理だと思うのよ』
『ダイジョブ……! ワタシ、できるよ……! 手配、任せて……! みんな、完成したら、ワタシにデータ送って……!――』
――と、まあ、こんな感じで話がとんとん拍子に進み、事後報告となってしまったアサコも加わって、全員が二十六日後に控えた同人誌即売会を成功させるべく、タイトなスケジュールで準備に勤しむ日々を送った。
その中で私が担当したのは、全体のスケジュール管理と、即売会を宣伝するチラシやチケットの作成 (ディレクションはルル)、そしてビビの小説の表紙と挿絵を描くという大仕事である。三男はともかく、ヤギ太を少女漫画風に描くというのはかなり難しかったが、話の邪魔にならない程度の完成度にはなったと思う(というか、そう思いたい)。
また、追加などの変更はアサコの作品にもあり、こちらはモネが頑張ってくれた。話の構成はそのままで、ゴブドワの二人を今人気のイケメン顔に、場所を格闘技クラブへと変更している。理由としては倫理観とかマニアック過ぎるとか諸々だ。
更にもう一つ。嬉しいことに、ルルセナの二人も共作で作品を出してくれることになった――! それも、セナがセシル×ルシファーの短編小説を書き、その表紙と挿絵をルルが描く、濡れ場無しのほのぼのBL作品である。ちなみに二人曰はく、妄想は出来ても実際に堕天使の濡れ場を書く(描く)のはまだ抵抗があるらしい。
ということで、同人誌即売会では、漫画二つ小説二つの計四作品を販売する次第だ。なお、発行部数は、堕天使系は来場予定者数と同じにして百五十部ずつ、それ以外はその半分となっている。なかなか強気な部数ではあるが、ルルが大丈夫だと言うので信じて発注した。
そして最後に、肝心な開催日について――。これは『絶対この日しかない』と言っても過言ではないだろう。それは、このイベントがバレてしまうと厄介な相手が私達のような下々の者に構っていられない日――そう、魔界会議がある日のことだ。また、火山が噴火する日でもある。
私達はその日の前日、つまり今日まで堕天使らにバレないよう細心の注意を払い着々と準備を進めてきた。よって、あとは明日の同人誌即売会本番を迎えるだけ――だったはずなのだが。
残り三十分ほどで午前中の仕事が終わる頃、私は魔王に呼び出されてしまったのである――! それも、昼食を共にするとかいうめちゃくちゃ胡散臭い理由で!
……ヤバい!! これ、絶対バレてるよね?! 誤魔化せる自信はないよ?! くっ……こうなったら、知らないの一点張りで白を切るしかない――!!
「――ま、魔王様……それで……本日はどういったご用件でしょうか……?」
いつもの謁見室の天幕の奥にある一室。どうやらここは魔王が休憩する部屋のようで、魔王が横になれそうなソファセットや長くて大きいダイニングテーブルセットだけが置かれている。そのダイニングテーブルの上には二人分の豪華な食事が並べられており、一つはもちろん私の分だ。
しかし、私は目の前のご馳走には目もくれず、対面に座る魔王だけを警戒の眼差しで見つめながら、先ほどの台詞を言った。
「私は昼食を共にすると伝えてあるはずだが? あとはそうだな、楽しいおしゃべりか」
「魔王様が何と申されても、私は何も存じ上げませ……はいぃ?! た、たのしいおしゃべり?!」
「そうだ。それと昼食だ。それも美咲のために特別用意させたものだぞ。冷めないうちに食せ」
「私のため……? あっ?!」
魔王にそう言われたので一応チラリと見てみれば、確かにテーブルには魔王の言う通り特別な食事が用意されていた。海老と野菜の天ぷらに脂ののったお刺身、色とりどりのおかずが入った小鉢に茶そば、おまけに茶碗蒸しまである。
「天ぷら御膳だ。美咲は地球の日本という国で生を全うしたと聞いている。もちろん、魔界にある材料で作ったものだから味は完全に同じとはいかないが」
「わー! 久しぶりの和食! 美味しそう!」
「ふっ……喜んでいるようで何よりだ。さて、私はこのナスの天ぷらからいただくか――」
どうやら本当にただお昼を一緒に食べるためだけに呼ばれたらしい。魔王はもうナスの天ぷらを口に運んでおり、うっすら口角を上げてもぐもぐしている。
まあ、そう言うことなら――と、私も箸を取った。
「――それで、グラスとレオの件はどうなった? 何か良い進展はあったのか?」
「いや、それがですね……全くと言っていいほど、何も……」
むしろ進展がないどころか、ここ数週間は明日の準備で明け暮れていたため、レオをグラスの別荘に来ないかと誘うことすら出来ていない。
「なんだ、まだあの時から変わっていないのか。威勢よく宣言したわりにはだいぶ悠長だな」
「う゛っ……! で、でも、チャンスは一応あったんですよ?!」
「チャンスはあっても掴んでこそだ。それに最近は早朝にも魔界大通りのダスボに行っているようだが、その時間を使って戦術を考えた方が有意義ではないのか?」
「ぐふっ?! ゴホッゴホッ……! なっ――」
……なんで魔王がそのことを知ってるの?! 朝はショタの護衛なしに自由行動が出来るから、ビビ達と打ち合わせをするためにわざわざ早朝にダスボへ行っていたっていうのに!!
「そんなに驚くようなことではないだろう。むしろ、とっくに気付いていると思ったがな。美咲、其方のスマホは誰が用意したと思っている? 私だぞ」
「!!」
それは即ち、私のスマホを通じて私の位置情報は魔王に筒抜けということだ。いや、もしかしたら魔王以外にも私の位置情報が漏れている可能性もある。
「それと、美咲の動向話のついでに言っておくことがある。明日のことだ――」
……キ、キタッ!! 今度こそ、絶対同人誌即売会の件だ――!!
「――美咲も知っての通り、明日は魔界会議の日となる。よって、我ら堕天使は全員朝から晩まで魔王城に半缶詰め状態だ。もちろんグラスは館で待機だが」
「は、はい……あの、それはレオとショタから聞いていますけど……?」
そのため、明日は私のおもりが出来る護衛はいないとのことだ。それもあって、明日を同人誌即売会の開催日に決めたのだが。
「だったら私が言いたいことがわかるな? いいか、美咲。明日はなるべく外出は控えてくれ。魔界大通りのドーナツ屋やダスボに行くくらいなら大丈夫だが、長時間の一人行動は慎むように。魔死山などもってのほかだぞ」
魔王はそう言うと、真面目な表情で私を見つめる。その表情から、魔王はこれを言うために私を呼び出したのだと悟った。どうやら私は、噴火する日にのこのこ火山へ行くかもしれないアホだと思われているらしい。一度火山で遭難騒動を起こしているので、何かやらかすアホという印象があるのだろう。
「……明日は噴火の日だと承知しているので行きませんよ」
「なら良い。ああ、それと……後学のために教えておくが、美咲の場合は例えマグマで身体が溶けようとも死ねないからな。それどころか細胞が自動修復し始めるため、マグマの中にいる限りずっと痛みを感じ続けることになるぞ」
「ひっ、ひぃ~~~!!」
そんな痛い脅しをしなくても、明日は火山になんて絶対行きませんて!――そんな私の心の声が伝わったのか明日の話はそこで終わり、その後は同人誌即売会のドの字も聞かれることなく、魔王とのランチは無事に、そして意外に楽しく終了した。
まあ、中には「魔界に永住する心の準備は出来たか?」とか「魔王様ではなくサタンと呼んでいいぞ」とかいう冗談に見せかけた恐ろしいテストも紛れ込んではいたが――。
何はともあれ、明日のことがバレてなかったから万々歳だ!
次話投稿は明日8/30の15:30です




