二十三日目② データだけど本
「どわっ……! び、びっくりした~……!」
いつの間に私の背後へと回り込んでいたのだろう――? いや、それ以前に隠れていた私をピンポイントで見つけられたことが信じられない。
「いや、驚いてんのはこっちだからな?! ホントに今まで何してたんだよ?! つーか、友達と会うって話はマジだったんだな……! オレはお前の妄想だと思ってたぜ……!」
「レオ、驚くところはそこじゃないだろう。まさか火山に来る奴が他にもいるとは……! それでお前たちは何を始めるつもりだ?」
だが、信じられなくても見つかってしまった時点ですでに手遅れなのは事実だ。私は堕天使の二人に向かって頭を垂れているビビとアサコの方をチラリと見た後、代表して口を開いた。
「えー……その、ですね……実はこの後、秘密の恋をしているカップルがここにやって来るんですけど、私達はそのカップルに用があるんですよ」
「はぁ?! カップルだぁ?!」
「……お前たち以外にもここへ来る奴がいる意味がわからないが、今は置いておく……で、そのカップルと何をするつもりなんだ?」
「いやいや、ナニをするのはカップルだけです。私達はそのカップルのナニを草陰に隠れて見学させてもらうだけですよ」
「は……? はぁ?! ナニってあれか?! あれのことだよな?!」
「カ、カップルのナニを見学、だと……?!」
レオとルシファーは半信半疑と言った声を上げながら、『ドン引き』という顔で私を見つめ返す。
「なんせ秘密のカップルですからね。堂々とネオン通りに入るわけにはいかないんですよ」
「だったらお互いの家ですればいいじゃねーかっ?! 家でっ!!」
「家だと音とか声でバレちゃうから……」
「いや、声ぐらい我慢しろよ?!」
「あー、それが出来ないから火山で――」
「――おいっ!! さっきから会話の論点がズレているし内容も生々し過ぎるぞ!!」
「っ……! そ、そうだな……!」
「そうですかね?」
……あ、ルシファーに睨まれた……黙れということですね、了解です。
「……話を戻す。要するに……お前たちはカップルの逢瀬を覗き見する、と言うんだな?」
「はい!」
「……本気で言ってんのか……?!」
「もちろん! その証拠に、いつでも退散出来るようハーネスベルトも装着してます! 覗き見の絶景ポジションが崖すれすれなので逃げる時は飛び降りなきゃなんですよ!」
この羞恥心など一切ない元気な返事とハーネスベルトにより、二人は私が言っていることが本当であり、本気だとわかったらしい。二人からは疑うような雰囲気が立ち消え、今は嫌悪感でいっぱいだ。
「お前、ガチの変態じゃねぇか……!」
「お褒めにあずかり光栄にございます」
「褒めてねーよっ! ルシファー、オレもうここに居たくない……! とっとと移動しようぜ! なっ?!」
「あ、逢瀬は今から一時間半はかかる――」
「――かかる時間なんて知りたくねーよ! ここを出るタイミングに連絡寄越せ! ルシファー、行くぞっ!」
「あっ、おい、腕を引っ張るな、レオ……! いいか、お前たち……! くれぐれも備品に触ったり壊したりするなよ……!」
二人はそう言うと翼を広げ、あっという間に下山していった――。予期せぬ尋問タイムだったが、私の咄嗟の作戦――木を隠すなら森の中作戦もとい卑猥なものを隠すなら卑猥な現場の中作戦――勝ちだ。
「――ふー……! 上手く誤魔化せたね」
「ホントに。深く突っ込まれなくて良かったわ」
「まー、内容が内容なだけにあれ以上突っ込みようがナイしね……じゃ、そういうことで、さっさと移動するよ……!」
「「了解!」」
――ということで、やってきたのは前回と同じ現場の茂みである。来て早々そこにしゃがみ込んだ私達三人は、それぞれの胸に週刊誌サイズのタブレットを抱えながらニヤニヤ笑い合い、同時にコクリと頷いた。全員準備は万端。いよいよ、今日の本当の目的である秘密の会の幕開けだ――!
「――それでは只今より! 『第一回魔界同人誌発表会』を開始します!!」
「きゃ~! 待ってました~!!」
「イエーイ! ドンドンパフパフー!!」
この会はその字の通り卑猥な自作のBL本(同人誌)を見せ合うというもので、開催が決まったのはほんの二週間前のこと。アサコという腐悪魔女子が増え、次の段階に進む時だと判断した私は二人に自分達でお話を作ってみないかと提案したのだ(二人の返事は当然イエス)。
それから私達はすぐに電器屋へと移動し、現在各々が抱えているタブレット――お絵描きも出来る、ほにゃららパッドのような電子機器(お値段なんと二十万デビ)――を購入後、その場で開催日時と創作物も決め、今に至っている。
「開始早々大変盛り上がっておりますが、時間が無いので早速作品を読み合っていきましょ~う!!」
「「おー!!」」
「じゃあ自分のタブレットを左隣の相手に渡してもらって……うん、オッケー! 感想は全員分の作品を読み終わってからでお願いします! ではでは~……黙読スタート!!」
この私の掛け声を皮切りに、全員が一斉に自分の手元にあるタブレットへと視線を移した。私の元へとやってきた最初のタブレットはビビのもので、作品は『初めて君がぼくの髭に触れた日』というタイトルの短編小説だ。
登場人物はダスボのヤギ太と三男であり、二人が初めて恋仲になった日の出来事を受けのヤギ太目線で書き綴っている。二人の初々しい感じが絶妙に表現されていて、かつヤギ太が鳴き声を上げるシーンはダスボでの「メェ~~~!」を思い出させ、初めて書いたとは思えないほど非常にリアルで素晴らしい作品だった。
その次は、無論アサコの作品、それも写実的な漫画だ。タイトルは『淫虐のこん棒と蠱惑の沼』。これに関しては説明不要だろうが、一応簡潔にまとめると登場人物は今私達がいる場所で逢瀬を繰り返しているゴブリン系とドワーフ系で、前半は決闘、後半はゴブリン系がこん棒をドワーフ系の沼に出し入れしちゃう物語である。
これもまたリアルな作品であり、特に画力がプロ並みかそれ以上だったためか、一種の芸術作品を観ている気分になったほどだ。BLをここまで芸術に昇華出来るとは、さすがアサコとしか言いようがない。
そして最後に回って来た(というか戻って来た)タブレットは私のもので、描いた作品は『ふたりはコンビネーション』というタイトルの漫画である。登場するのは大天使だった時のレオとグラスで、完璧主義が原因となり一人だけ堕天してしまったグラスをレオがなんとか大天使に戻そうと四苦八苦するのだが、最終的に二人が心身ともに一つに繋がることで一緒に闇へと落ちることを選択するストーリーだ。
出来栄えはさておき、終始描いていて最高に楽しかったし、その作品を嬉々として読んでくれる仲間がいることが何よりも嬉しい。
私はそのことに感謝しながらホクホク顔で二人の様子を窺ってみれば、二人も私と同じような顔をしている。
……本当にやって良かった……!
だけど、本番はこれから――作品の感想を言い合う時間が一番盛り上がるのだ!
というわけで、私達はいつになるかわからないゴブドワの登場に気を配りつつ、早々に感想タイムへと突入した。トップバッターは本人が希望したこともあり、ビビの作品だ。
「――私が一番いいなって思ったのは三男がヤギ太の髭に手を伸ばすシーン! ヤギ太に触れたいけど拒絶されるのが怖いって気持ちが伝わってきて、くぅ~って感じだった!!」
「えー! 嬉しい! そこ、表現に一番苦労したところなの!」
「あとヤギ太の嬌声! 私の脳内でオート再生されたからね!」
「うん、あの声良かったよね。アタシにはあれが悲鳴に聞こえて興奮したもん。ビビ、才能あるんじゃない?」
「ちょっと二人共ほめ過ぎよ? と言うか、アサコ、才能ならあなたの方でしょ。まさかあんなに絵が描けるなんて知らなかったわ……!」
「うんうん! 絵も上手いし話もめちゃくちゃリアルだったよ!!」
私とビビがそう絶賛すると、アサコは一拍おいてからペロリと舌を出した。
「いや~実はあれ、アタシが描いたんじゃないんだよねー」
「「……は……?」」
「まあ、正しく言えば、話の構成だけアタシで、絵は全部プロにお願いしたって感じなんだけど」
「「プロ?!」」
「そっ。あ、でもアタシだって最初からプロに頼もうとしたわけじゃないからね? 漫画を描く挑戦はしたよ。けど、想像以上にメチャクチャ難しくてさー」
「わかるよ。私も最初の頃は全然描けなかったもん」
「なるほどね。だからアサコは絵のプロに頼んだのね」
「そーいうこと。まーでもそのおかげでアタシ的には満足のいく作品が出来上がったし、実際良かったでしょ?」
「ええ。とても! それにゴブドワの二人がいつもあんな感じに逢瀬を繰り返してるんだって知れて良かったわ」
「そうそう。だって私達、未だに二人の逢瀬を見れてないもんね。だからアサコの漫画で二人の歪んだ恋の雰囲気がよく伝わってきて感動したよ!」
「ありがと。描いてくれた子にもそう伝えとくー」
――さて、最後は私の作品である。真っ先に感想を口にしたのは、今まで見たことがないくらい熱気のこもった瞳で私を見つめるビビだ。
「――わたし、初めてああいう絵の漫画を読んだんだけど、なんて言うかすごくキレイなのに現実っぽさもあるから自然と話の中に入り込めて……! そこに友情と心の葛藤でしょ?! で、怒涛の甘いシーンからのラストよ……?! もう、ほんっとに読後感が凄まじくてヤバかったわ!!」
「そうそう。漫画ってこうやって描くんだって勉強にもなったし。で、アタシのお気に入りはやっぱり交わるシーンね。色んな角度からの描写も楽しかったし、受けが闇に落ちていく快感と性的快感に溺れて攻めを求める様子には思わず舌を舐めずりまわしたよ」
「しかもそれが堕天使様って言うのがまた、ね?!」
「うんうん。不敬からくる背徳感みたいな感情が余計に興奮を煽ってきたよね」
だいぶ褒め過ぎだが、二人の反応から判断するに、日本の(それも思いっきり私の趣味趣向の)BL漫画はすんなり受け入れてもらえたと言えるだろう。
……良かった――! 受け入れてもらえて本当に良かった!
次話投稿は明日8/26の15:30です




