休日報告書①
ニキ様。ご指示の通り、わたくしが本日いただいた「休日」をいかに過ごし、十全に楽しむことができたのかを証明するための報告書を作成いたしました。 「本当に休んだのか日記にして提出しろ」と仰られた時は大変困惑いたしました。執事たるもの、己の私的な時間の顛末を記録するなどという習慣はございませんが、これもニキ様からの主命とあらば、つつがなく筆を執る所存でございます。
朝の柔らかい日差しが、診療所の台所に差し込んでおりました。
わたくしは、小気味良い音を立てて野菜を刻み、鍋の中でコトコトと音を立てるスープの火加減を慎重に調整しておりました。焼き上がったばかりのふっくらとしたパンの香ばしい匂いと、兎の里でいただいた色鮮やかな野菜の付け合わせを、少しの狂いもなく皿に盛り付けていきます。
「おはよう、ユウ。……おお、今日も朝からすごいご馳走だな」
寝癖を少し残したニキ様が、欠伸を噛み殺しながら台所へ顔を出されました。
「おはようございます、ニキ様。本日は新鮮な野菜のポタージュと、白身魚の香草焼きでございます。すぐにお茶も淹れますね」
わたくしは手早く配膳を済ませ、ニキ様のグラスに適温の温かいお茶を注ぎました。ニキ様はいつものように美味しそうに食事を進めながら、ふと、不思議そうな顔をしてわたくしを見上げられました。
「なぁ、ユウ。俺はずっと気になっていたんだが……お前はいつも俺より早く起きて完璧な食事を作り、俺より遅く寝て片付けや明日の準備、診療録の整理まで手伝ってくれているだろう? ……一体、いつ休んでいるんだ?」
その問いに、わたくしは背筋を伸ばし、胸に手を当てて静かに微笑んでお答えしました。
「執事たるもの、いかなる時も主人のために働き、尽くすことこそが本懐でございます。わたくしの休息など、ニキ様のお健やかな日々がお守りできればそれで十分。お気遣いは無用にございます」
わたくしの返答に、ニキ様は少しだけ困ったような、そしてどこか悪戯っぽい笑みを浮かべました。
「そう言うと思った。お前は真面目すぎるんだよ。……実はな、今日は休診日で、俺は溜まっていた診療録の整理や薬草の調合をしようと思っていたんだ。だが、見ての通りだ」
ニキ様が視線を向けた先。診療所の入り口には、腕を固く組み、仁王立ちでこちらを睨みつけているヨタカ様の姿がありました。
「ニキ。其方には今日、何もするなと言ったはずだ。もし筆を執るような真似をすれば、その腕ごと縛り上げて寝台に放り投げるぞ」
「……というわけで、俺は今日、あの恐ろしい監視官のせいで全く仕事ができないんだ。俺が休んでいるのに、お前だけが働くのは理屈に合わないだろう? だから、ユウ。お前にも今日は一日の休みを与える」
「わたくしが、お休み、でございますか……?」
予期せぬ言葉に、わたくしは思わず瞬きを繰り返しました。
「ですが、わたくしはこれまで一度も『休日』というものをいただいたことがありません」
わたくしが以前仕えていた遠方の王朝では元よりお休みという概念がなく、それが普通だと思っておりました。その王朝が消滅した後、この里の長老様よりお声がかかり、わたくしはここに派遣されてまいりました。ニキ様たちと出会うまでの間、住み込みで長老様の元で膨大な事務作業を請け負っておりました。それは表に出る仕事ではなかったため、ニキ様達とは会うことはありませんでしたが。そういうわけで、休むという概念すらわたくしには持ち合わせていなかったのです。
「突然のお休みと言われましても……一体、何をすれば良いのか分かりかねます」
困惑するわたくしは、入り口に立つヨタカ様に視線を向けました。
「ヨタカ様は、お休みの日はどのように過ごされているのですか?」
「拙者か? 拙者は休みの日も、木刀を振って鍛錬をするか、里の周囲を見回っている。それ以外にやることなどない。其方に助言はできんな」
ヨタカ様は鼻を鳴らし、そっぽを向いてしまわれました。それではお休みになっておりません。
「困ったな……。あ、そうだ」
ニキ様はポンと手を叩くと、診療所の裏手で薪割りをしていたお二人を大声で呼ばれました。
「ゴズ! タイガ! お前たちも今日は休みにする! 三人で一緒に遊んできたらどうだろう。ほら、これ。今日の小遣い。美味しいものでも食べてこい。……ユウに『休み』の過ごし方を教えてやってくれ。任せたぞ」
ニキ様はゴズさんに、硬貨のしっかり入った小さな袋をポンと手渡されました。
「えっ、マジで!? やったー! 先生、おおきに!」
「おう、ユウ先生のことはオレたちに任せとけ!」
以前、三人で温泉に行ったことで、このお二人とは随分と打ち解けておりました。ゴズさんとタイガさんは満面の笑みでわたくしの両腕を掴み、「さあ、行くでユウ!」と、あっという間に外へと連れ出してしまったのです。




