5話‐3
「一々俺のやりたい事を邪魔してくる奴らめ。イライラするんだよ!」
叔父さんへの攻撃を防がれ、苛立ちを隠す様子も無いスコーピオが空いているもう片方の腕を振り上げる。
「誰にも迷惑かけてないなら兎に角、そうじゃないから邪魔してんだよ!」
腕が振り下ろされるよりも早く、炎を纏った足で蹴りつける。
いくら甲殻が硬くても熱いのには慣れていないのか、流石のスコーピオもよろめき、隙を見せた。
その隙を逃さず、フリーになった両手で殴り掛かる。
甲殻の硬さに手が痛むが、怯まず攻撃を続け、体勢を整える時間を与えないのが大事だ。
「くっ……調子に乗るなよ!」
このままでは負けると判断したであろうスコーピオが、状況を打破すべくハサミを開いた腕を伸ばしてきた。
「うおりゃぁ!」
その場で跳躍しスコーピオの腕をかわすと、そのままの勢いでドロップキックをお見舞いし、蹴り飛ばしてやる。
「やるなぁ、流石先輩だ。ところでさっきの話を聞いてたんだけど、あんたの甥っ子の名前ってショウじゃないか?」
地面に倒れこむスコーピオを視界に捉えていると、横から喧しい声が聞こえてくる。
いつの間にか影分身達を蹴散らし、近くに来ていた音切が勉叔父さんに声をかけていた。
「あ、ああ。そうだが、何でショウの事を知ってるんだ?」
「やっぱりか! オレは火走のクラスメートで友人の、音切我威亜って言うんだ! 以後よろしく!」
急に話を振られて若干困惑した様子の勉叔父さん。
そんな様子を気にする事なく、音切は自己紹介を始めた。
「悪いが、よろしくできない。あの男を捕まえたら君も一緒に署まで来てもらおうか」
多田さん経由で警察と協力できている俺と違い、音切にはそんな後ろ楯は無い。
勉叔父さんの反応は当然だ。
「ええー、それは困るから、あいつを倒したら即おさらば――」
「ソニックライダー、まずはスコーピオを倒す事に集中しろ。まだ奴は戦えるぞ」
音切と勉叔父さんの話を聞きながらスコーピオの様子を窺っていたが、奴はすぐに起き上がる。
……シャイマーと同じく、倒すのには骨がおれそうだ。
「一人でお前たち全員を相手にするのは、中々厳しそうだな」
一度倒された事で冷静になってしまったのか、スコーピオは自身が置かれている状況が不利なのを理解したらしい。
次に何をやるのか、大体予想がつくぞ。
「そんなの当たり前。いや、オレ一人でもお前を倒すのなんて余裕――」
「ここは一先ず撤退させてもらう。行け、影分身達よ!」
根拠があるのかないのかよくわからない自信を意気揚々と述べる音切を遮り、スコーピオは新しく発生させた影分身をけしかけてきた。
同時に俺は跳躍し、此方に向かってきていた影分身達を飛び越える。
「撤退って、逃げるだけだろ。ソニックライダー、後は頼んだ!」
音切に影分身の相手を任せると、既に逃走を図っていたスコーピオを追いかけるべく駆け出す。
「今日のところは見逃してやるって言ってるんだ。大人しくしてろよ、ブレイズライダー!」
「何を勘違いしてるんだ? 見逃すか見逃さないかは、俺が決める!」
拳に炎を纏わせ殴りかかるが、スコーピオが飛び退いた事で、空振りしてしまった。
おまけに、スコーピオは着地した先に放置されていたバイクに跨がり、走り去っていく。
「誰だよ! あんな所に鍵を差したまま放置した奴は!」
思わず嘆きの叫びを上げてしまうが、そんな事をしている場合じゃないとすぐに我に返り、圧縮させたバイクを取り出す。
そのままバイクの圧縮を解除し跨がると、スコーピオの後を追うべくバイクを走らせた。
十分程バイクを走らせ続け、街中から郊外に場所を移してスコーピオを追い続ける。
「しつこい奴め!」
前方を走っていたスコーピオがバイクから飛び降りる。
更に操縦者を失い暴走しようとしていたバイクをハサミで掴みとると、頭上へと持ち上げながら此方へ振り返った。
「な、なんて無茶苦茶な――マジかよ!?」
それだけでも十分に驚いてしまうが、更に恐ろしい事にエンジンがかかったままのバイクを、俺目掛けて投げつけてきたではないか。
咄嗟に急ブレーキをかけてバイクを停車させると、此方に飛来するスコーピオのバイク目掛けて炎を放つ。
そしてバイクが炎に包まれ、その車体が溶けると燃料に引火し、爆発を起こした。
「す、スコーピオめ、とんでもない事しやがる」
爆音と閃光に怯みながらも、爆炎を操って無理矢理鎮火し、周囲への被害を抑えながらスコーピオへの恨み節を口にする。
そのスコーピオはと言えば、近くの建物へと逃げ込んでいくのが視界の隅に映った。
追いかけてもいいが、ここで足を止めたのは奴の方。
罠が仕掛けられている可能性が非常に高い。
「とはいえ、じゃあ諦めますなんて言えないよな。行くしか――なんだ? 敵の増援か?」
覚悟を決めて建物へ足を踏み入れようとした時、背後から車の駆動音が耳に入り、だんだんと大きくなってくる。
一台のパトカーが建物の前で停車すると、中から一人の警官……勉叔父さんが姿を現した。
「ブレイズライダー、化け物はどうした? 見失ったのか?」
「……い、いや、この建物の中に入っていった。今から追いかけようとしてた。それよりも、どうしてここに? 影分身に邪魔されてたんじゃなかったのか?」
スコーピオは結構な数の影分身をけしかけていた筈。
一体どうやってここまで来る事が出来たんだ?
「黒い化け物は他の同僚やソニックライダーに任せてきた。お前一人に怪物の相手をさせる訳にはいかないから、後を追わせてもらった」
「それって、俺の事を心配してくれた訳? ありがたいけど、俺なら一人でも大丈夫だ。奴は危険だし、帰った方がいい」
勉叔父さんが何故ここまで来る事は出来たが、そして何故付いてきたのか理解したけど、スコーピオは危険。
叔父さんを守りながら戦うのは難しいだろうし、帰るように促すが勉叔父さんは首を横に振る。
「何を言ってるんだ? 俺は警察官で、犯罪者を捕まえるのが仕事だ。それに上からはお前に協力してやれと言われているが、俺個人はお前の事を信用していない」
……俺の事を良く思っていない警官もいるとは思っていたけど、実の叔父さんに面と向かって言われると中々堪えるものがあるな。
「わ、わかったよ。一緒に行って、スコーピオを止めよう」
本当ならもっと説得して同行を思い留まらせたいところだが、勉叔父さんは気難しい性格している。
そして警察官としての仕事に誇りを持っているのはよく知っているし、何を話しても徒労に終わるだろう。
「本当はお前のようなヒーローに頼るつもりはないが、どうせ言っても聞かないだろう。邪魔だけはするなよ」
「あ、ああ、努力させてもらうよ」
俺の言葉を聞いた勉叔父さんは、返事をする事なく拳銃を取り出し、倉庫へと歩みを進める。
……ここまで扱いが辛辣だと、少し心が折れそうだよ。
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