5話‐2
「敵なのは間違ってないけど、緑色のトカゲみたいな奴の正体は碓井っていう学生だ。あまりひどい目には合わせたくない」
他の人に聞かれて碓井の事が他の人に悟られないよう、小声で音切に返事をする。
「碓井? ……ネクラ君か! それってマジ? 確かにあいつら、よく見たらシャイマーと同じプレート付けてるな! ……あれ? 何で先輩が碓井の事を――」
「敵を目の前にごちゃごちゃとお喋りなんて、随分と余裕そうだな! 二人まとめて恨みを晴らしてやる!」
目の前の怪物の正体を知った碓井が驚きつつも余計な事に気付きそうになるが、甲殻の怪物がハサミを打ち鳴らしながら俺達へと突っ込んできた。
「話は後だ。まずはこの場を切り抜けるぞ!」
振り下ろされたハサミを、蹴りを繰り出し受けとめる。
怪物はもう一本の腕に付いたハサミで俺の足を挟もうとするが、音切により素早く殴り飛ばされた。
「恨みって、オレはお前みたいな化け物に覚えは無いぞ! 先輩、あいつが誰か知ってるか?」
音切は倒れた怪物を指さして大声で叫びながら、俺の方を向いてくる。
「俺も知りたいと思ってたところだ。お前は誰だ?」
相変わらずの言動はさておき、俺も怪物の正体は気になっていたところだ。
先程の言葉を聞く限り、俺だけではなく音切にも恨みを持っている様子。
……心当たりが思い浮かばない。
「この姿だし、覚えてないのも仕方ないか。俺はお前たちや警察に強盗の邪魔をされたんだよ」
俺と音切に強盗の邪魔をされた?
となると、奴の正体はここ最近戦った相手か。
「特にブレイズライダー、警察に邪魔されなきゃお前には光弾を撃ち込めたんだ。捕まってから、何度お前を切り刻んでやるのを夢に見たことか!」
その言葉でこいつが何者か、ようやく理解する。
音切と初めて会った時に、最後まで抵抗していたナイフ裁きの上手い男だ。
「思いだしたぞ! オレと先輩の初めての共同作業の相手じゃないか! 思い出させてくれてありがとう!」
俺が怪物の正体を思い出すと同時に、音切も同じく奴の正体を思い出し、妙な言い回しで何故か怪物に礼を言う。
「気にするな、礼を言うのはこっちの方だ。お前らが馬鹿正直に話を聞いてくれたお陰で、時間を稼ぐ事ができた」
……時間稼ぎ?
怪物の言葉に辺りを見渡すと、すぐにその言葉の意味に気付かされる。
「ね、ネクラ君がいない!?」
碓井の姿が、いつの間にか消えている。
怪物がペラペラ喋っていたのは俺達の気を反らす為だったのか。
「畜生! 早く追わないと!」
碓井を追いかけようとした音切を、超能力を使われる前に肩を掴んで制する。
「待て、碓井は透明になれる。今から追いかけても、捕まえられない」
悔しいが、碓井が再び姿を現すのを待つしかない。
それよりも、今はこうなった原因を何とかするのが先決だ。
「ソニックライダー、碓井の事も大事だけど、先にあいつを倒すぞ」
「よしわかった。先輩とオレのコンビネーションならあんな奴、速攻で片付けられる!」
音切は思考を音切から、目の前の化け物を倒す事へと切り替える。
そんなに息が合っているとは思えないが、やる気が出るのならそういう事にしておいたほうがいいな。
「速攻で片づける? 随分とでかい口を叩きやがるな。ノワールガイスト戦闘員の『スコーピオ』をあまり嘗めてくれるなよ!」
先に動いたのは怪物改め、スコーピオ。
自らのコードネームを名乗ると同時に黒いモヤが身体から吹き出し、何体もの影分身が形作られ、俺たちの前に立ち塞がる。
「小洒落た名前を付けてもらったじゃねえか。だけど、オレの相手が務まるかな!」
超能力によって影分身をスルーし、一瞬の間にスコーピオへと接近する音切。
懐へと潜り込んだ音切は、そのままの勢いでスコーピオを殴りつける。
「痛い! 先輩、こいつ硬すぎる!」
そして殴りつけた手をヒラヒラと振りながら此方に振り向き、叫んできた。
「馬鹿! 余所見するな!」
敵との戦いの最中に迂闊な事をした音切を叱責しながら、スコーピオへと近づく為に駆け出す。
しかし、俺の邪魔をするように影分身たちが立ちはだかってきた。
「邪魔なんだよ! そこをどけ!」
炎を纏った拳で殴りつけ、火球を撃ちだし、火炎放射で燃やし尽くして影分身を倒す……が、倒したそばから次々と新たな影分身が現れる。
「まずは貴様から血祭りにあげてやるぞ、ソニックライダー!」
スコーピオは両手のハサミをガチンガチンと開閉しながら、音切に目掛けて突きだす。
「オレ、グロいのは嫌いだから遠慮させてもらうぜ。その代わりスマートに、格好よくお前を倒してやるよ!」
相変わらず軽口を叩き続ける音切だが、反撃に移ることができずスコーピオの攻撃をかわすのが精一杯といった様子。
「これでも食らえ、蟹野郎!」
攻撃の合間に生じた僅かな隙をついて音切が構えた、二丁のエナジーピストルが火を噴き、スコーピオに直撃した。
「痛くも痒くもねえ!」
しかし、スコーピオの甲殻には傷ひとつ付けられなかった。
音切がスコーピオにダメージを与えられない以上、俺が奴の相手をしなければならない。
「ええい! うじゃうじゃとしつこい奴ら!」
だが、いつまでも湧いて出てくる影分身達がそうさせてくれない。
本当ならこんな奴ら、爆発で一気に蹴散らせてしまえる。
「いいぞ、ヒーロー! そんな化け物やっつけちまえ!」
だが、周囲で危機感の低い野次馬が見物している以上、巻き込んでしまうかもしれない派手な技は使えない。
どうしたものかと考えていると、背後から光弾が飛来し影分身を撃ち抜いた。
振り返ると、何人かの警官がエナジーピストルを影分身に向けているのが視界に映る。
そしてその内の一人は、俺のよく知っている人物だった。
「警察だ! 抵抗したら撃つ!」
先頭に立っていた警官……勉叔父さんが、スコーピオに銃を向けながら警告する。
「お前、ブレイズライダーを倒そうとした時に邪魔した……確か、火走勉とか言ったな?」
「な、なんで名前を!」
名前を呼ばれた勉叔父さんが、少しだが動揺した様子で問いかける。
「ノワールガイストの情報網は凄かった。データベースで少し調べたら、復讐したい相手の事を簡単にわかったぜ。さて、お前に俺を止められるかな!」
スコーピオはニヤリと笑い、標的を勉叔父さんへと切り替える。
「待てよ! お前の相手はオレ――ええい! 邪魔するな!」
音切がスコーピオを追いかけようとするが、その行く手を影分身が阻む。
「警告はした!」
勉叔父さんの構えた銃から光弾がスコーピオへと放たれる。
しかし、スコーピオは直撃しても意に介さず、叔父さんの元へと走り続けていた。
「させるか!」
叔父さんを助ける為に靴裏からのジェット噴射で更に大きく飛び上がって影分身の包囲を突破し、走り出す。
その間にもスコーピオは叔父さんへとハサミを突きだし攻撃を仕掛けるが、勉叔父さんは何とか避け続ける。
「え、援護――うわっ!?」
他の警官が叔父さんを助けようとするが、影分身によって妨害され、思うようにいかない。
「お前、嫁さんや甥っ子と暮らしてるんだってな?」
「そ、そんな事まで知っている――ぐあっ!?」
家族の事を話題に出された勉叔父さんの動きが僅かに鈍り、その隙を見逃さずにスコーピオが勉叔父さんを殴りつける。
そして倒れこむ勉叔父さんを見下ろしながら、スコーピオが腕を振り上げる。
「安心しな。お前を殺したら、家族も一緒にあの世へ送ってやるよ!」
「させるか!」
スコーピオの腕が振り下ろされた瞬間、勉叔父さんとスコーピオの間に割って入り、振り下ろされたハサミを受けとめた。
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