誰もいない電車
電車が動くと、バランスが崩れそうになる。必死につり革につかまり、顔面からこけるのを避けた。この車両には空いてる席がない。
「今池に到着したら、席は空くだろう」と近くの席で待つことにした。次の駅に到着すると、真横の席に座っていたおじさんが立ち上がった。僕はすかさず、その席に腰を下ろした。鞄を膝に載せて、抱きつけるように座ると暖かい。
また眠気が押し寄せる。疲労に負けた意識は、ゆっくりと遠のいていく。今度は本当に寝ちゃうかも。まあいいや、家はまだ遠いから。
*
僕は目を覚ます。電車の窓の外には薄暗い壁が流れている。起きたばっかりで少し息がしづらいけど、咳払いをしたらすっきりした。何回か瞬きをした瞬間に心臓が跳ねた。
「ん?」
何かがおかしい。
誰もいない。
さっきまでほぼ満員だった電車には、今や僕しかいなかった。そんなはずない。
そう心の中で唱えながら、鞄を背負って立ち上がる。ずっと寝ていたかのように足が少し震えた。
歩き回っても電車は蛇の抜け殻のように、誰もいない。僕だけが取り残されたのか?なぜ終点で起こしてくれなかったんだ?
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
車輪と線路がぶつかり合っている轟音が今にも響いている。
床が揺れる中、僕は車両から車両へと渡りながら運転席を目指した。電車がまだ動いているのなら、誰かが運転しているはずだ。
だが、電車の端にある運転席を覗いても誰もいない。それでも電車は走り続けていた。
心臓を右手で押さえながら近くにあった鉄柱につかまる。
深呼吸、深呼吸。そう自分に伝えると、ずんと背中に重りがのしかかったように、立っているのが辛い。震えながらも周りを見ると、上にある電子看板はまだ光っていた。
路線図が表示されている看板を見上げる。
『第一試練』




