第7話 開幕戦
「お願いしまーす」
葉央高校VS高坂農林水産高校の試合が始まった。
「球人」
道二が原野を呼ぶ。
「昨日の練習でやったことは見せるな。お前ならわかるだろうが、これはあくまで親善試合だ。わざわざ相手に手の内を明かす必要はない」
「それじゃあ、サーブはどうするんだ?」
「サーブは本気で打て。あれでも昨日は、本気を出していないんだろ」
「うーん……あのとき出せる力は全て出したが……多分、試合になると集中力が上がって、練習以上の力が発揮できるんだと思う」
「だろうな。とりあえず、今回はお前のサーブがどこまで通用するのかを確かめたいからな」
「わかった」
「最初は恐らく、素人であるお前にブロックはつかないだろうな。最初はお前にトスを上げる。それを、ちょっと触って相手コートに落としてくれればいい」
「そんなにうまくいくものなのか?」
「俺を信じろ」
「まー、バレー素人の俺が考えたところでどうしようもないもんなー」
最初にサーブを打つのは、手貫である。
手貫は、抜刀の構えのように右手を腰の左側に添えると、ボールを真上に投げ上げる。ボールが落ちてくるタイミングに合わせ、右手を下から上へと、抜刀するかのように振り上げ、手の側面でボールの右側を打つ。ボールは高々と上がり、右へ右へと流れながら落ちてくる。
「オッケイ!」
落ちてきたボールは、いとも簡単にレシーブされる。そして高坂農林水産高校のセッターが、ボールを高々と上げる。その先には、2m34cmの大男、高山がいる。
高山は助走をつけ、手を大きく振りかぶる。そして、まるで翼でも生えているかのように軽々と、しかし、高々と跳び上がり、床からおよそ4mの高度からボールを叩きつける。
葉央高校の面々は、誰1人として反応できず、ボールは床に落ちる。
葉央0ー1高山
「なるほど。これはブロックの意味がないわけだ」
高坂農林水産高校にサーブ権が移り、サーブが打たれる。それを古寺が微笑みを浮かべたままレシーブする。道二は、上がったボールの落下地点を予測し、そこにネットに背を向けて立つ。高坂農林水産高校の前衛3人は、道二を完全にマークしている。
原野は違和感を覚えていた。2回目にボールに触る人をセッターというが、その通りであれば道二はセッターである。セッターはトスを上げてアタックをさせる役割なのだが……
なぜか、高坂農林水産高校の前衛3人は、アタックをさせる役割であるはずの道二をマークしている。
「読みどーり」
道二は原野を全く見ずに原野へとトスを上げる。原野は完全にノーマークである。
「ちょっと触るだけでいいんだよな」
原野はボールを少しだけ触る。ボールは高坂農林水産高校側のコートにポトリと落ちる。
「斎藤、相変わらずだな」
「今のはさすがに、俺を警戒しすぎだろ……それと、高山、先に忠告しておく。アイツは素人だが、世界最強だぜ」
「あの1人だけ服装が違うアイツか……たしかに、体格が良いのは認めるが、世界最強はさすがにないだろ」
「それはどうかな」
葉央高校にサーブ権が移り、ローテーションして原野のサーブ順となる。
「球人、くれぐれも相手にボールを当てるなよ」
「デッドボールは厳禁というわけか」
「そーいうこと」
原野は位置につく。ボールを持った瞬間、あの、ボールを思うがままに投げられる感覚が蘇ってくる。そして、原野は誰にも聞こえない声で、野球をやっていた頃から呟いていたある言葉を呟く。
「蹂躙を始めようか」




