第6話 遠征
「球人……お前はなんで全く眠そうじゃないんだ?」
現在時刻は朝5時。原野にとっては早い時刻ではない。
「野球部は朝3時があたりまえだったからな」
ただ、バレー部の面々には早い時刻のようで、死にそうな顔をしている。バスに乗ると、原野と運転手を除いた全員が眠ってしまった。ただ、原野はやることがあった。バレーボールのルールを覚えるということである。そのため、ルールブックを読んでいるのだが……
「難しすぎ……」
チームでボールを触っていいのは3回までで、3回以内に相手コートに返さなければならないことや、サーブ権が相手から自分に移ったら、ローテーションと呼ばれる時計回りにポジションを移動することや、ブロックは1回に含まないなどなど……
「まあ、やってるうちにわかるか」
そう言っているが、原野にルールを理解できる日はやってこない。
ーーーー
「ここが算橋先生の友人が監督をやってる高校かー」
朝5時に出発して着いたのは、岐阜県にある『高坂農林水産高校』である。
「着いたぞー」
朝7時だというのに、運転手と原野以外は熟睡している。結局、全員を起こすのに10分程かかってしまった。最後まで起きなかったのは歌川である。
「ここに来るのも、1年振りですね」
算橋先生は一切迷うことなく体育館へと歩いていく。
「原野くんを除く皆さんは、去年も来ているので知っていると思いますが、高坂農林水産高校はバレーボールとバスケットボールがとても強い高校です。去年、どちらの部も全国大会に出場しています。ですから、皆さんにとって良い経験になるでしょう」
算橋先生は眼鏡をクイっとあげる。
やがて、巨大な体育館が見えてくる。
「絶景かな〜絶景かな〜」「あっぱれあっぱれえぇ」
原野は自分に、気にしない気にしないと念じる。歌川や白混は騒いでいるが、他の4人はなんだか緊張しているようだ。なぜか、出場できない折田が最も緊張している。
原野は前日に、バレーボールシューズを買っているが、ユニフォームは当然間に合わなかった。そのため、原野のみ服装が違うのである。親善試合ということで、お咎め無しということになったらしい。こういったところは、算橋先生がしっかりと手を回している。
そして、葉央高校バレーボール部の面々は、巨大な体育館に入っていく。
ーーーー
原野の見た、高坂農林水産高校バレーボール部の第一印象は『でかい』である。身長189cmの原野が『でかい』というだけあって、全員の身長が2mを超えているのだ。
「さすが、入学条件に『身長』の項目を設けているだけはあるな」
道二はすっかり感心している。
「おーい、さいとーう」
あの2m軍団の中でも頭一つ抜けている長身の男が、原野らに向かって走ってくる。
「高山、久しぶりだな」
斎藤と高山は知り合いのようだ。
「なんだかんだあって1年振りかー。今年こそは、お前の初見殺しを防いでやる」
「それは無理だな。お前、また身長伸びたか?」
「うーん……今はたしか、2m34cmだったかなー」
「あんまり伸びてないな。たしか去年は2m33cmくらいだっけ?」
「そのくらいだったな。もう、身長は伸びないだろうと言われてな」
「そうか……」
「あの頃はもっと夢があったよ。ぐんぐん身長が伸びていたからな」
「県選抜のときから、すっかり変わったな」
「ああ。もう一度、味方としてバレーをしたかったよ」
道二とあれこれ話した高山は、2m軍団の元へ戻っていく。
「アイツは一体だれだ?なんだか親しいようだったが……」
「ああ、アイツは高山頂で、中学生の頃の県選抜で一緒だったやつだ」
原野は、「ふーん」と言って特に気にも止めていない様子だ。
「さーて、アップでもしますか」
といっても、葉央高校バレーボール部のアップは、個人アップである。全員が同じアップを行うのは、自らの力を最大限に発揮できないという考えのためである。
ーーーー
葉央高校バレーボール部は、選手の自主性に任された部である。そのため、キャプテンの斎藤道二が、基本的には全てを仕切っている。そのため、スタメンも道二が全て決めているのだ。
「はい、これが今日のスタメンだ」
前衛
レフト:歌川伎舞和
センター:斎藤道二
ライト:原野球人
後衛
ライト:白混朱雀
センター:古寺僧治
レフト:手貫刀衛門
ここで、原野は素朴な疑問を覚える。
「なんで前衛はレフトが左、ライトが右にいるのに、後衛はレフトが右、ライトが左にいるんだ?」
「同じポジションの選手を対角線に配置することで、どちらか一方が常に前衛にいるようにするためだな」
「ふむ……同じポジションの奴が同時に前衛や後衛にいたら、スペースがなくなってしまうということか」
「まあ、そんな感じだ。それじゃあ、今日の作戦を伝える」
道二がそう言うと、一瞬にして空気が張り詰める。
「今日の相手は、全員の身長が2mを超えている。よって、ブロックが全く意味をなさないと推測される。だから、今日はブロックのことを忘れてくれ。あとはいつも通り、俺がなんとかする」
「「「「「「了解!」」」」」」




