第19話 それは偶然か、必然か
「あ〜〜疲れたあ〜〜」
春高の開会式が終わり、斎藤道二はとある店を目指して歩いていた。
「ん?なんだあいつは?」
通りすがりの公園に奇妙な男がいるのである。
「太陽をおかずに飯が食えるなァァァ!」
訳のわからないことを言っているが、彼は春高注目選手の1人、大南凰梨である。広げられたレジャーシートの上に、大量の弁当箱と、なぜか大量のパイナップルが置いてある。
「みんな食べるといい!美味しいぞォ!」
公園で遊んでいた小学生と思われる子どもたちに、パイナップルを捌いて配っている。そのパイナップル捌きは見事なものである。
(こいつが本当に注目選手なのか?)
斎藤道二は疑問を抱きながら、目的の店に行く。
ーーーー
斎藤道二は、ラーメン屋『蜘蛛の咆哮』に到着した。
(ここのラーメン屋は最高に美味い出汁を使ってるんだよな〜)
『蜘蛛の咆哮』は、全国チェーン店である。そのため、全国どこでも(道二好みの)美味しいラーメンが食べられるのである。
道二はカウンター席に座り、ラーメンを注文する。
「君は……斎藤道二くんで間違いないね?」
「!?」
突然、隣の席の男から話しかけられる。が、見覚えのある風貌から、誰であるかの予測は立つ。
「いきなり話しかけて申し訳ない。俺は渋川赤秋だ。こう言えば君ならわかるだろ?」
「やっぱりそうか」
見た目は完全におじさんであるが、中身は(道二と)同い年というギャップ男にして仕事人、渋川赤秋と遭遇した。
「一度君とは話をしてみたかったからね。ラーメン好きという情報を元に、ここに張り込んでいたのは正解だったよ」
「ラーメン屋ならいくらでもあるのに、どうしてここだとわかったんだ?」
「運が良かったということだな」
そう言って渋川は淡々とラーメンをすする。
「必然に近い偶然か」
道二の注文したラーメンがカウンターに置かれる。
「この出汁がたまらないんだよな〜」
道二は美味しそうにラーメンをすする。
「で、初戦から帝調高校との試合だが、勝算はあるのか?」
渋川ら柿野原高校の初戦の相手は、今年度のインターハイの覇者、帝調高校なのである。
「はっきり言って勝算はほとんど0と言ってもいい」
渋川は断言する。
「ほとんどということは、勝算がないわけじゃないってことだな」
「ああ。秘策はある」
「なるほどな。柿野原高校だからこそできる戦法か」
道二は渋川と同じような戦法を考えているようだ。
「ま、それでも勝てるとは思ってない。なんといっても総合力に差がありすぎるからな」
渋川はため息をつく。
「ま、俺は俺の仕事をするだけだがな」
「さすが、仕事人だな」
渋川赤秋は通称『仕事人』と称され、どんなときも冷静かつ的確に相手を見る観察眼の持ち主である。
「練習もミーティングも、マスコミがそこら中にいるせいでろくにできないのが、イライラするけどな」
渋川はそう言って店の端に座っている男を指差す。
「あいつは〇〇社の記者だよ」
「よくわかるな」
「さっきトイレに行ったときに机の下でメモを書いていたし、カメラも所持していたし、目つきも記者らしかったからな」
渋川は絶対の自信を持って断言する。
「優勝は葉央高校だと思うが、一つだけ懸念材料があるな」
「渋川も気づいていたか」
「ああ。守神重化学工業高校か」
「同じことを考えていたようだな。俺たちは」
守神重化学工業高校は、宮城県の公立高校である。公立高校ということで練習時間が限られる中、彼らはある練習のみをしていた。
「レシーブとブロックのみに絞って練習し、予選では相手のミスとブロックのみで点を取った高校か」
「原野球人のサーブに対抗できるのは、守神と骨無夢音だけだろうな」
会話をしている間に、道二はラーメンをあっという間に食べ終わっており、席を立つ。
「それじゃ、お互いに頑張りましょう」
道二はそう言い残して、店を去っていった。
1人残った渋川は、4杯目のラーメンを注文したのだった。




