第15話 変化球
原野はいつもと全く同じように構え、同じようにボールを投げ上げ、同じように足を上げ、同じように足をつき、同じように手を振り下ろす。
ボールが放たれた瞬間、平虎上高校の面々は「もらった」という顔をする。ついに打ち損じたと思ったのである。とにかく初速がいつもより遥かに遅い。しかし、平虎上高校の面々がボールに触れることは一切できなかった。なぜなら、放たれたボールはネットを越えると同時に(原野から見て)左下へと鋭く曲がり、アタックラインの内側に突き刺さったからである。
スパァン
ヒュウッ
静寂を支配する息を吐く音が会場に響き渡る。
葉央4ー0平虎上
球速表示は107km/h。ただ、変化のキレと量は凄まじいものだった。いけると思った平虎上高校に再び絶望が襲いかかる。
スパァン
葉央5ー0平虎上
えげつない変化球が平虎上高校を襲う。平虎上高校の面々は完全に戸惑っていた。データにないどころか、世界中どこを探しても、こんなキレの良い変化球サーブを打つ人間はいないだろうと。
バゴオォォォォォン
葉央6ー0平虎上
100km/h台の変化球の後に150km/h台の直球が放たれ、誰1人として反応できない。
「やはりこの程度か」
直球と変化球を織り交ぜるだけで、簡単に制圧できてしまう。こんなレベルでよく愛知県の絶対王者と名乗れたものだと原野は不満を抱く。
スパァン
葉央7ー0平虎上
当たり前のようにアタックラインの内側にボールが刺さる。するとここで平虎上高校の監督が指示を出す。
「アレをやれ!」
すると、平虎上高校側のコート上の6人はハッと大切なものを思い出したかのような顔をする。
「そうだ!一回でも向こうがミスればこっちの勝ちなんだ!」
平虎上高校側のコート上の6人は、コートの中央に集まり、レシーブの姿勢をとる。
「なーるほどね〜」
コート中央に集まることによって圧力をかけることにより、相手がサーブを打つ場所をコートの端の方に誘導しようという作戦だろう。普通なら、コートのどこでも狙える状況より、コートの端しか狙えない状況の方が、ミスをする確率は高くなる。そう、普通ならば。
バゴオォォォォォン
葉央8ー0平虎上
ボールは的確にコートの端に突き刺さる。
バゴオォォォォォン
葉央9ー0平虎上
さっきと全く同じ場所にボールが刺さる。
「速いだけの奴が甲子園で勝てるわけねぇだろうが」
原野球人は、自分は精度で勝負する投手だとずっと思っていた。150km/hの球速ばかりが注目され、原野の本当の武器を知る者はほとんどおらず、原野は速球が武器だと誰もが認識していた。そんな中であっても、原野は自分を見失わずに、精度を主とした投手としての練習をしていた。その結果が、甲子園での全試合完全試合に結びついたのである。
バゴオォォォォォン
葉央10ー0平虎上
「いつか……いつかは必ずミスをするはずなんだ!」
ーーーー
平虎上高校の祈りも虚しく、原野は1度もミスをせず、葉央高校は第1セットを取ったのだった。




