第9話 それぞれの思惑
葉央高校と高坂農林水産高校の練習試合は、原野のサーブによって、葉央高校が圧勝した。
例年であれば、3試合行った後に、談笑会が行われるのだが、今年は違った。1試合終わると、高坂農林水産高校バレー部の監督が、「次は春高で会いましょう」と言って、練習試合という名の親善試合は終了となった。
帰り際に、高坂農林水産高校バレー部の監督は「今までは我々が負けるような相手ではなかったが、今年は完敗だったか……これから、原野球人の研究をしなければならないとは、時代も変わったものだ……」と呟いていた。
時代が変わったのではなく、原野が規格外を通り越した強さを持っているからである。にもかかわらず、高坂農林水産高校バレー部は、時代の波が押し寄せてきたと考えているのだ。
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「原野くん、あのサーブは一体……」
帰りのバスに乗り込むと、算橋先生は大変驚いた様子で原野に尋ねてきた。ただ、表情は変わらないが。
「ん?なにかマズイことでもしました?」
「マズイどころではすみませんよ」
「どこがです?」
原野は、事の重大さを全く理解していない。
「相手が全く反応できていなかったんですよ。あれでは試合になりません」
「えー、あれが正解なんじゃないんですか?」
「まあ……ある意味正解ですし、ある意味不正解でもあります。確かにあのサーブがあれば、日本一も夢じゃないでしょう。ですが、敵味方関係なく戦意喪失させる威力ですから、使い方には十分注意しないといけません」
「じゃあ、球速を落とせばいいんですね?」
「まあ……手抜きをしろとは言いませんが……球速を落としてくれた方が、相手の怪我も防げていいかもしれないですね」
「はーい」
そう答えた原野は、不敵な笑みを浮かべていた。
「算橋先生、これからの練習試合を全てキャンセルしてください」
道二が強い口調で注文をつける。
「これは、相手チームとの兼ね合いもあるので……」
「算橋先生、そんな悠長なことを言ってる場合じゃありません。原野は秘密兵器なんです。相手にわざわざ見せる必要は全くありませんし、相手を怪我させても困ります」
「まあ、なんとかしましょう」
結局は、算橋先生が折れる形で練習試合は全試合キャンセルすることになった。これでも、算橋先生はやり手であり、キャンセルなど造作もなくやってしまうのだ。ただ、葉央高校バレーボール部は斎藤道二に依存していたため、顧問の教師も含めて、道二に頭が上がる者はいないのだ。
道二もまた、不敵な笑みを浮かべていた。
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「金計理事長、こちらをご覧ください」
ここは葉央高校理事長室。秘書が、理事長である金計大喜にとある動画を見せていた。
「なんだね!?これは……!?」
金計は思わず立ち上がってしまう。葉央高校の生徒が、とてつもない球速のサーブを打っている動画がネット上で拡散しているのである。
「確認いたしましたところ、加工は一切されておりませんのでご安心ください」
「むしろその方が安心できないことなんじゃないのかね?」
「申し訳ございません」
秘書はおそるおそる頭を下げる。
「まあ、気にするな。ところでこのサーブを打っているのは誰なんだね?」
「原野球人でございます」
「原野だと!?あいつは野球部のエースではなかったのか!?」
「いえ、つい先日野球部を退部し、バレーボール部の助っ人になった模様です」
「ほう……まあ、これはこれでいいかもしれないなぁ……」
金計大喜は、怪しい笑みを浮かべていた。




