第31話 黒騎士は真面目に仕事をする…?
「いらっしゃーい!……なんだ、また来たの?」
にこやかな表情から一転して嫌な顔をするフィリア。
ハベル亭に来たキョウスケ、アイカ、リュータ、カイト達は最近一緒にパーティーを組んでいるらしく毎日ハベル亭に食事をしに来ていた。
「フィリアさんはキョウスケに厳しいよな、なんかしたのか??」
心当たりが有りすぎる…
「…なにも、してないとは…思う」
肩を叩きながらいつもの席に座るカイトとリュータに連れられて座るキョウスケ達を見てアイカはフィリアに耳打ちする。
「…フィリアさん、キョウスケさんは命の恩人ですしもう少しこう…」
「んー。でもなんだか無理なのよね…なんでかは知らないけどさ」
首を傾げるフィリアにアイカはため息を吐く。
「まあどうしても合わない人っていますからね…あ、それよりも明日は大丈夫ですか?まだ本調子じゃないなら無理はしないほうが…」
「大丈夫よ、そろそろ真面目に身体を動かさないと家に帰るのも"ドレム大森林"を通らないと帰れないし」
「…ドレム大森林はSクラスの魔物がウヨウヨしてるらしいですからね。だけど…そんな場所に一人で行くのは…私達じゃついていけないのは分かってるんですけど心配です」
「……アイカから返してもらったあの手帳…内容を翻訳して貰っておいてあれだけど…どうにも信じられないというか……」
アイカが教えてくれた情報はフィリアには信じられない内容だった。
魔族に黒騎士がいるなんて自分の記憶にはないし自分が知らない間に数百年も経っていると言われても信じられないのが普通だと思う。
「…あと、さ…」
「大丈夫ですよ。リュータとカイト以外には特に何も内容は話してませんから…」
ならいいのかな?…アイカの話を聞いていると記憶を失う前の私が本当に隠す気があったのか、暫く前の私に小一時間問い質したいと思う。
それに記憶が無いといっても私からしたら皆から話を聞いてそうだった、こうだった、という話を聞いただけだから判断が出来ないんだよねぇ…
まぁでも…亜空間にも知らない武器防具が大量に入ってたのも見たから認めるしかないし、あの黒い鎧もボロボロだったけれどなんとなく自分が使ってたんだ、と身体が覚えているというか…
「とりあえず話は後からにしましょ?…あまりフィリアさんの邪魔をすると周りの人達からの視線が…」
言われてから見回すと各テーブルからなんだかアイカが睨まれていた。
「……みたいね、お客様を待たせるのは良くないわ」
よくわからないけど今は仕事に集中しないと。
それからは忙しく各テーブルを行ったり来たりしていたフィリアだったが…突然乱暴に店の扉が開かれた。
驚いて店の入り口を見るといかにもガラの悪そうな男が3人…入って来た瞬間立ち込める血の臭いで他の客も顔をしかめた。
男達は近くにあるテーブルまで荒々しく歩いていくと先に座っていた客を椅子ごと蹴り飛ばした。
慌ててお客さんの所に走っていって倒れた客を抱き起こすフィリアだったが勿論蹴られた客も黙っているわけもなく…
「なにすんだテメェ…!」
「…あん?なんか文句あんのか?」
男の仲間が腰の剣に手を掛けたのを見たフィリアは一瞬ハベルを見てハベルが"駄目だ"と首を振ったのを見てから頷く。
「まぁまぁ。ちょっと落ち着いて?ザックおじさんも彼等は依頼帰りで少しピリピリしてるだけでしょうし許してあげよ?ね?」
フィリアが蹴られた客…ザックをカウンターの方へと連れていくとすかさずハベルが一番高い酒とつまみをサービスする。
「…フィリアちゃんがそう言うなら…まぁいいさ」
ザックがカウンターに座ったのを見て今度は男3人に振り返るとにこやかに元々ザックが座っていたテーブルに案内する。
「へぇ。よく見りゃこんなシケた酒場にしては美人な給仕じゃねえか…どうよ?今夜俺とやらねぇか?…満足させてやるぜ?」
下品な表情を浮かべて言いながらフィリアの太股を撫でる男に周りの客がざわめいた。
「…ご注文は?」
笑顔で聞き流したフィリアだったがそれも気にせず更に男はフィリアが何も抵抗しないと感じて続ける。
「今日の俺たちゃ金持ちだからよぉ。金貨二枚は出すぜ?」
「……」
…はぁ。暴れたら店に迷惑がかかるからって思って相手にしなかったのに。
太股を撫でていた手がフィリアのお尻に向かおうとした時、後ろの席から声がかかる。
「…その辺にしておけよ、じゃないと俺が相手になるぞ?」
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時間は少し戻ってアイカがカイト達のテーブルに戻った頃…
「アイカ、フィリアさんと何を話してたんだ?」
リュータがアイカにそう聞いたらアイカは笑って
「女子同士の世間話だよ?後明日の依頼の話を少しね」
「あぁ、確かに話をしてなかったね。近くに出没してるレッドスネークの討伐依頼だったっけ?」
「…ちゃんと依頼内容の確認してよね…依頼内容をうろ覚えでどうするのよ。…俺は関係ないって顔してるカイト、あなたが一番依頼の確認をしてないんだからね?!」
「わ、わかってるって!レッドスモッグだろ?任せとけ!」
アイカはため息を吐くと置いてあった水を飲む。
「大変だな、アイカは。お前らもあんまりアイカに頼りすぎなんじゃないか??」
キョウスケがそう言うとアイカは頷きながらそうだよ!と言っていつもの説教が始まる。
「…大体さ、私を抜かして依頼を受けたら殆ど酷い目に逢って帰ってくるのはちゃんと情報をみて事前に準備しないからだって分かってんの??…フィリアさんの看病をしてた時だって…」
「あぁ!分かったからさ、今は楽しく飲んで食おうぜ?説教なんて今しなくてもいい…」
カイトがそう言った瞬間、店のドアが乱暴に開かれた。
「…なんだ?アイツら」
「…いかにもチンピラって感じだよね」
「カイト、もし絡まれても暴れたら駄目だよ?フィリアさんやハベルさんに迷惑がかかるから」
「…わかってんよ。俺だってフィリアさんみたいな強い人敵にしたくね…いや、フィリアさんになら…」
「変な想像はするなよ?この街には冗談抜きでヤバイのが3人はいるからな。死にたくなければ変な事は考えない方がいい」
キョウスケの言葉にアイカが頷く。
「…そうだよ?ブレイドさん、ギルドマスター、ハベルさん…敵に回すとこの街にいられなくなっちゃうんだからね!」
アイカが挙げた名前に苦笑いするキョウスケ。
本当は全然違うんだが…チラリと窓から外を覗くと向かいの屋根上に青い髪の人物が立っていた。
やっぱりいる…当然の様にいるその魔族の女性にヒヤリとするとキョウスケはソレを見なかった事にした。
男達が他の客に絡み出した時、リュータが立ち上がろうとしたのをアイカが押さえる。
「ハベルさんもフィリアさんも黙ってるんだから余計な事しちゃダメだって。多分ああいう人達って後から面倒だから皆黙ってるんだよ?…キョウスケさんを見てみなよ?フィリアさんの事には必ず入ってくるキョウスケさんでさえ黙ってるんだから」
キョウスケの場合は外が気になって店内を見てなかっただけだったがアイカ達には分かるわけもなくそういう風に見えたのだ。
「…おい、アイツらフィリアさんのふ、太股を触りだしたぞ!?あれ羨ま…止めなくていいのかよ?」
「カイト今なんかおかしな事口走ったよね?……そもそも、フィリアさんより弱い私達が行っても迷惑になるだけだっ……」
アイカが言い終える前にガタンッと音を立てて立ち上がったのは…
「…その辺にしておけよ、じゃないと俺が相手になるぞ?」
立て掛けていた聖剣を掴んだキョウスケだった。
「んだぁ?ガキは大人しくしてろ。これは大人の遊びなんだからよぉ…!」
同時に男の仲間も立ち上がってそれぞれの武器に手をかける。
『キョウスケ、目立つ事はしたら駄目だっていわれたでしょ?』
「だけど黙って見てる訳にはいかないだろ?」
キョウスケが剣の柄を握った瞬間、相手の男達が剣を引き抜いて躍りかかるが……
「…抜いたなら…覚悟はいいのね?」
いつの間にか手元に握られた建御雷神を振り抜いて男達が握っていた剣を切り飛ばしたフィリア。その返す刀でキョウスケに切っ先を向け…
「…あなたも。黙って元の席に戻りなさい」
目の前で紫電を放つ刀身に気圧されて大人しく席に着くキョウスケ。
フィリアは男達に振り返ると冷たい視線を投げる。
「私はお客様だから黙って我慢してたの。ザックさんにした事も許してないし、これ以上騒ぐなら…」
建御雷神をゆっくりと男達に向けると言い放つ。
「斬り刻むよ?」
剣を斬られた事で実力差がハッキリとしている相手の言葉を無視出来るほど彼らも馬鹿ではなかったのか「す、すまねぇ。大人しく飲む事にする…」と言って元の席に戻った。
静かになった店内にフィリアが鞘に納めた刀の鍔鳴りが響く。
「…はい!終わり!お騒がせしました、皆さんもお酒は楽しく飲んで下さいね?じゃないとこの剣で斬りますからねぇ?」
ニコニコしているフィリアだったが周りの客は言い知れぬ悪寒が走り…どこが、とは言わないがヒュンッとなった。
その後は何もなかったかの様にまた騒がしい酒場に戻り、キョウスケ達のテーブルでも盛り上がっていた。
「…フィリアさんはやっぱつええよ。記憶がもどったら剣を教えて貰えないか頼もうぜ?」
「うーん。でもフィリアさんが教えてくれる所が想像出来ないんだけど…」
「えー?意外と普通に教えてくれそうだけど…私は少し魔術を教えて貰ったよ??それにお礼だっていって武器もくれたし」
アイカの言葉に皆が驚いた。
「フィリアさんから?まじかよ…」
アイカがバックから取り出したのは鎖がつけられた短剣だったが…普通のキーホルダーのサイズだった。
「…………武器??それが?」
明らかに武器に見えないソレを見てカイトが落胆しているがアイカは気にせず説明を始めた。
「武器というかこれは魔術触媒…いわゆる杖なんだってフィリアさんから言われたんだよね」
『これは"ヘカティア"っていって腕に鎖を巻き付けて装着する魔術触媒…まぁ簡単に言えば魔導師が使う杖だと思えば良いよ。杖ってダンジョンや狭い場所での戦闘に向いてないじゃない?それを何とかしようとして魔ぞ…まぁいいか、アイカに隠す必要もないし…それはね、魔族が造り上げた物よ。術者の魔力を引き上げて威力を高めると同時に魔力の拡散を防ぐ…ようするに無駄な魔力消費を無くすから効率的に魔術が使えるのよ。…ちなみに魔力を込めたら普通サイズの短剣になって物理障壁も同時に張るから護身用として性能は高いよ、ソレ』
杖を使わないでいいというのは魔導師にとって相当なアドバンテージになるというのをアイカは良く理解していた。
フィリア達の様にそもそも杖を必要としないレベルの実力者はともかく、アイカ達のように未熟な者からすれば杖は魔術を行使する上で欠かせない物だ。
だが杖を持って戦闘をするには最低限の棒術が必要となるし、扱えたとしても前述の通り狭い場所では戦えない。
「へぇ…なんか凄いもん貰ったんだなぁ。俺は強そうな魔槍とかのがいいけど」
カイトがそう言った時、今まで黙っていたキョウスケが口を開く。
「いくら強い武具でも使う本人に使いこなす技量が無ければ意味がない…俺に剣を教えてくれた人は毎日俺にそう言っていたけどな」
「…確かにそうですよね。…カイトはもっと真面目に訓練をするべきだよ?僕らはまだまだ弱いんだ。この前みたいな事が起きたら自分達で対応出来るようにしておかないと」
結局フィリアさんが来てくれなければ皆仲良くあの世行きだった。とリュータが言えばそれにアイカも頷く。
「そーよ、ちゃんと鍛えないと駄目なんだからね?」
「わーったよ!どうせ明日はフィリアさんも行くんだろ?バシっと俺がやれるっての証明してやるぜ!!」
そんな事を言うカイトをみて皆が肩を竦めたのは言うまでも無かったが。




