第29話 黒騎士、目を覚ます…
「これでいいと思うんだが…どうだろうか?」
『…別にいいんじゃない?…というかフィリアにあげる花選ぶ位自分で考えたら良いって思うんだけど?』
やや呆れながらそう言ったイルミナはこのやり取りは何日続くのか…と密かにため息を吐いた。
それというのもあれから3日が経ったのだが未だにフィリアは眠り続けていた。
剣で貫かれたまま高威力の魔法を何発も受け、魔力を限界まで使っての戦闘…だが一番の問題はやはり……
「…好きな人が敵になる…か。相当ショックだったろうな…」
『まぁ、キョウスケが敵を逃がしたのもあるだろうけどね』
イルミナの言葉がグサリと突き刺さる。
「そ…いや、あれは仕方ないだろ?あのままだったらフィリアは死んでたかもしれないし」
『…どっちが良かったのかは本人にしか…分からないよ』
そう、大切な人が敵として現れてこれから先も戦い続けるのと、あの時止められずに自滅…どちらが良かったのかは本人しかわからない。
フィリアが目を覚ました時の事を考えるとまず間違いなく俺は……やっぱり考えたくないなぁ。
『キョウスケに出来るのはとにかく謝るくらいじゃないかな』
だよな。
ここ最近通い慣れた道を歩いていくと見えてきた酒場。
扉を開くと店主のハベルさんがこちらを見て苦笑いしていた。
「君は毎日花を持ってくるのだな…フィリアと知り合いでも無いのに律儀な事だ」
ハベルさんには申し訳ないがこれもエレノアの指示だ。
"いいですか?我々の事情を話すことは禁止です。いくらこの国が魔族に敵対的では無いとはいえ我々の正体をバラすのは危険です。フィリアが目を覚ますまでは余計な波風は起こさないように…いいですね?"
エレノアの言葉は正しいんだが…俺にだけやたらと殺気を振り撒きながら言うのはやめてほしい。
その後ゲイルさんから「まぁ、諦めな。ここにいる女は全員敵に回すと厄介だからなぁ」と肩をポンと叩かれた。
ちなみにゲイルさんはその後エマさんに叩かれていたが。
「助けた後は関係ない、とは言いたくないですからね」
「そうか…今アイカちゃんも来てるからゆっくりしていくといい」
そういってハベルさんはまたグラスを磨きだしたので頭を下げて酒場の階段を上る。
フィリアの部屋の前に来たのでノックをすると中から"どうぞ"と声が聞こえたので中へと入る。
「毎日ありがとうございます、キョウスケさん」
入ってすぐ持ってきた花をアイカへと渡すとベッドに視線を移す。
「…まだ目を覚まさないんだな」
死んだように眠るフィリアを見てそう呟くキョウスケにアイカは頷く。
「あれほどの怪我を負って生きているのはフィリアさんらしいですけどね」
アイカは数日前の事を思い出す。
フィリアがキョウスケによって街へと運ばれた次の日、街の治療院から治癒師がハベルさんに呼ばれてフィリアを診察に来た。
「…普通なら死んでおるぞ?これは」
治療院から派遣されてきた老治癒師はため息を吐く
治療の為にはだけたフィリアの服を戻してから部屋を出ていた男性陣を呼ぶとそう告げる。
「まず胸部の刺傷、これは心臓を避けてはいますが剣に特殊な呪詛が掛かっていたみたいですな。魔力が身体から徐々に抜けていってしまっておる…だがこの娘さんの魔力回復の方が少し上回っておるようじゃから安静にしておれば当面は問題ないじゃろ」
他にも身体の至る所の骨が折れていたり、強力な魔術で貫かれたりしている箇所はこの老治癒師…ベネッドが治癒してくれたそうだ。
「…治せる所は治したがの、今まで治療した中でも一番酷い怪我じゃったわ。この娘さんが目を覚ますかどうか…正直なんともいえん」
何日かに一度は様子を見にくると言ってベネッドはハベルと部屋を出ていった。
後に残ったのはキョウスケとアイカでアイカはフィリアに毛布を掛けると近くの椅子に座る。
「…昨日はバタバタでお礼を言えてませんでした、フィリアさんを助けて下さってありがとうございます」
頭を下げるアイカにキョウスケは当たり前の事をしただけだからと言って自分も近くの椅子に座る。
「…しかし君は彼女とどういった関係なんだ?家族…という訳でも無いんだろ?」
「私は…フィリアさんに友人を、大切な友人達を助けて頂いたので。フィリアさんには返しきれない恩があるんです。…それ以外にも…フィリアさんは私達にも優しくしてくれましたから」
「そうなのか…」
彼女が穏やかに笑っているのをみてアイカが何故フィリアの看病をしてくれているのか分かった。
「はやく意識が戻ったらいいんですけどね…なんだかこのまま起きない様な気がするんですよ。おかしいですよね?でもそんな気がするんです…そんな事、無いですよね?」
アイカの言葉にキョウスケは息を飲む。…フィリアがこうなった原因を考えたらそれが無いとは言えなかったから。
「…それは、俺には分からないな。ただ怪我をしていた彼女を運んだだけなんだ…すまん」
嘘を吐くのは心苦しいが仕方がない。
「い、いやこちらこそすいません!わたしったらキョウスケさんはただフィリアさんを連れてきてくれただけなのに」
「別にいいさ、不安なのは分かるから…それじゃ俺はこの辺で失礼するよ。また明日来る」
そういって出ていったキョウスケは言った通り次の日、また次の日も様子を見に来たのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
あれから更に1週間が経ったある日…アイカはいつも通りフィリアの部屋へとやって来て扉を開く。
ガチャ…
開いた扉の先…ベッドの上をみて驚いた。
「フィリアさん!」
上半身を起こしたフィリアがアイカを見て驚いていた。
「…!」
「どこか痛い所とかありませんか?!」
駆け寄ってきたアイカにフィリアは首を振ると一言……
「あなたは………誰?」




