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黒騎士は自由に生きてみたい  作者: カルバリン
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第28話 記憶


「…ねぇ!ねぇってば!なんでむしするの?!」


「…うるさいな、騒ぐならどっかいけよ」


くるくると回りながら空を見上げる赤い髪の少女はまた近くまできて話しかけてくる。


「ねぇ!雲って食べられるのかなぁ?甘いのかな?えへへ…」


口の端から涎を垂らす間抜けな少女は最近僕がこの丘でぼんやりしていると必ず現れるのだ。


「…食べられる訳無いだろ。あんなに高い場所にあるんだから」


「…むぅ。わかんないでしょ?私たちがいっしょうけんめいがんばってべんきょうしたらあの空までとどくかもしれないでしょー!」


「ありえない、そんな魔法はない」


「ベルはいじわるだね、そんなことじゃいつまでたっても私いがいお友だち出来ないよ??」


「…お前も友達じゃ、ない」


「…」


言ってからしまったと思った。


見れば彼女は目に涙を溜めていた。


「…ともだちだもん…」


「…ちがう…」


頭では分かっているのに口からは全然違う言葉が出てしまう…


「ベルのばか!!!!」


泣きながら走り去っていく彼女を追いかける事も出来ずにその場に佇む俺……


あぁ、そうか。これは……


あの時は何て馬鹿な事を言ったんだろうと後悔していた時、霧がかかったようになって場面が切り替わる。



「フィリア!待てって!そんなに走ったらぱ、パンツが……!」


目の前を走る彼女が振り返った瞬間、スカートがふわりと舞ったから慌てて目を逸らす。


「…変態。ばか!スケベ!」


「ちょ!なんでだよ!お前がそんな格好で走るからだろ!?」


学校の入学式が終わってから俺達はリーニアさんの所に制服姿を見せに行くところだったな。


「まぁでも、ベルに見られても恥ずかしくないけどね!だってこの間まで一緒にお風呂入ってたし」


「…まぁな。俺もフィリアの下着見たところで何とも思わねぇし」


「…あによ?」「…んだよ?」


「いつも仲良しね?二人とも」


声がしたほうを振り返ると黒い軍服を身につけたフィリアの姉…リーニアが微笑んでいた。


「お姉ちゃん!べ、別にベルとは仲良くなんて無い!」


「そうですよ!俺もこんなガサツなやつと仲良くなんて…ッブべ!?」


フィリアの拳がベルの脇腹に突き刺さると悶えながら崩れ落ちた。


「フィリア、あんまりベルくんに酷いことしちゃダメよ?」


「…ふん。こんなやつはこうなって正解よ!」


うずくまった俺をリーニアさんが引っ張って立たせてくれたので助かった。


「…ベル君、こんな妹だけど見捨てないでね??」


困ったような表情のリーニアさんには申し訳ないが…フィリアにはその内制裁を加えたいと思う。


「それにしても…ベル君はともかく、フィリアが学年二位を取るなんてね…まぁあれだけ頑張ってたんだし…ねぇ?」


「お、お姉ちゃん!良いでしょそんな話しなくても!」


真っ赤になっているフィリアをからかっているのだろうリーニアさんは楽しそうだ


「…二人とも本当に士官学校に入るなんてね。これは将来私と肩を並べて戦う日も近いかなぁ」


それは無いですよ…リーニアさんは魔王陛下の近衛隊長だからな、俺達が頑張っても近衛には入れそうもない……まぁフィリアはコネでなら何とかなりそうだが…。


「ベル君、今フィリアはコネでいけそうとか思ったでしょ?」


何でバレた?前から思ってたがこの人は何か心眼スキルでも持ってるのか??


「…ふふ、女の勘ですよ」


だから…いや、リーニアさんに関しては何を言っても無駄のような気がする…考えないようにしよう。


また霧がかかる………



この日は……フィリアの両親が死んだ日だ。


墓地での葬儀は全然現実みが無かった…というのも死んだフィリアの両親の身体はその墓には入っていないから。

何故そうなのかは教えて貰えなかったけれどゲイルさんとエマおばさんがそう言っていた。


「ベル…ここは俺達がいるからフィリアの様子を見に行ってやれ」


「そうだよベル、アンタが辛いときフィリアはいつもアンタの側に居ただろ?男の子なんだからしっかりやってきな!」


バンっと背中を叩かれた。


痛い、いつも思うがエマおばさんはもっと手加減して欲しい。


周りの人の話だとフィリアは葬儀の途中から居なくなったらしい…


いつもこうだ…俺はフィリアの事を見ているようで見ていない。

ゲイルさん達に言われるまでフィリアが居なくなった事にも気が付かなかった。


「フィリア、どこに……」


フィリアの家にいってみたが居なかった…だとしたら…あそこか??


町から少し離れた場所にある丘だ。


俺とフィリアが初めて出会ったあの場所……


丘まで来るとやはりフィリアは木の根元に膝を抱えて座っていた。


「…」


「…何で、パパ達は死んじゃったんだろうね…」


どう声をかけて良いのか分からず立ち尽くしていると顔を膝に埋めたままフィリアが呟く。


「…フィリア」


「二人共すごく強かったのに…何で…」


「…わからない」


「…ベルもこんな気持ちだったんだね…あの時、私って迷惑だったね。ベルの気持ちも考えないで付きまとってさ…」


違う…そうじゃない。


あの時は喧嘩してしまったけれど、迷惑なんて思ってない


むしろ…感謝してるんだ


「…ごめん、暫く一人にして。もう少し風に当たってから戻るから」


「嫌だ」


自然と出た言葉にフィリアが顔を上げる


「俺の時はずっと居ただろ?あっちいけって言ってもずっと。なのに俺だけ言う通りしないといけない事も無いだろ」


ゆっくりとフィリアの隣に腰を下ろす


「フィリア、あの時はごめん。本当はあんなこと言うつもり無かった」


「…あの時?」


「友達じゃないって言って泣かせただろ?あの時からずっと謝ろうとは思ってたんだ」


ゲイルさんやエマさんの言う通りだった。


いつもフィリアはなんだかんだ俺が落ち込んだ時や寂しい時は居てくれて騒がしくしながらも俺を元気付けてくれていた。


「まぁ、上手く言えないが…ありがとうフィリア」


「……ふふ。なにそれ。元気付けに来たのかと思ってたのに」


そう言って笑うフィリアは…いつもと同じフィリアだった


「…ありがとうベル、少し元気が出たよ!…後少しだけここにいるから先に戻ってて…」


「あぁ、早めに戻ってこいよ?皆心配してたからな」


そう言って戻る途中…微かに風に乗ってフィリアの泣き声が聞こえた気がした。


まただ、また霧がかかる…



「ベル!フィリアを守ってあげるんだよ?」


いつものようにバンっと背中を叩かれた。


街の皆がフィリアを逃がす為に戦っていた。


普段世話になっていた雑貨屋のお姉さんが短剣を抜き放ち、パン屋のおじさんが巨大な戦斧を肩に担ぎ、服屋の兄さんが槍を携えて……


皆が武器を持って戦ってた。未熟な俺でも戦い慣れているのが分かる程の使い手ばかりだった。


普段はそんな素振り一度も見せなかった人達が今は魔王陛下の直属の部隊相手に互角以上に渡り合っているのには驚いた。


「行くぞ、フィリア!皆の邪魔になる」


「でも!!」


「俺達がいても何も出来ないだろ!みんなフィリアを逃がす時間を稼いでくれてるんだ、俺達がここにいたらいつまでも皆が逃げられない!…大丈夫、みんな俺達より遥かに強い。とにかく今は離れよう!」


フィリアの手を引いて走りはじめるとフィリアは何度も振り向きながらも走る。


そうだ…この後、俺達は…


フィリアに気絶させられた後、そう長く気絶していなかったから必死になって追いかけた。


途中で止められそうになったが躊躇なく切り捨てていく。

躊躇したら間違いなく俺が負ける。


そうしてたどり着いたそこには…ボロボロになったフィリアとリーニアさん…そして剣を振り上げている魔王様がいた。


考えるより先に身体が動いたのは良かった、間一髪でフィリアとリーニアさんを守ることが出来たんだから。


しかしそこまでだった。やはり魔王様と俺では実力の差がありすぎてどうする事も出来ずに切り捨てられた。


そこまでで記憶が途切れていた…意識が段々と遠退いていく。


今までのこれはなんだったのか…何故自分の記憶を眺めていたのかが分からない


フィリア………どうか無事でいてくれ………

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