第26話 ギルドマスターと災難
「なぁ、フィリアちゃんはいつ帰ってくるんだ?お前だけだと華が無くて通い甲斐が無いぞ」
「…知らん。フィリアはギルドからの依頼で出かけたからな、いつ戻るかは聞いていない」
ギルドから直接俺に連絡が来た後、フィリアはそのまま出かけたみたいだしな。
「…そうか、つまらん。フィリアちゃんを眺めるのが俺の楽しみだったんだがなぁ」
「まぁフィリアがいないとこの店が静かだというのは同意だがな。彼女はたまにドジをやるが仕事は真面目だし、客に絡まれても度が過ぎなければ笑顔で対応する…良い子だよ本当にな」
明るく素直な彼女はあっという間にこの店の看板娘になった。
だが…
「…なあブレイド、お前はギルドでフィリアとは話したりしないのか??」
「ん?まぁ会えば話はするけどな、だがフィリアちゃんは普通の冒険者と一緒じゃないからなぁ。フィリアちゃんってあぁ見えてすげぇ強いんだぜ?ギルドマスターと模擬戦やってたのを見てたんだがよ…ありゃ凄かったぜ」
ブレイドが言うには一瞬でナイフを首もとに当てていたらしい。
「…ふむ」
「どうした?変な顔してんぞ?」
「…いや、フィリアは確か怪我が元で兵士を辞めたと言っていたんだが…ギルドマスターを倒せる程動けるというのは何故かと思ってな。そこまでの強さがあるなら軍にいたほうが金も稼げるだろう」
「それはそうだけどなぁ。人にはそれぞれ事情があるだろ?お前だって昔は冒険者だったんだからその辺は分かっててフィリアちゃんをここに住ませたんだろう」
「だな。フィリアが悪人じゃないのは見てれば分かる」
ハベルはグラスに残った酒を飲み干してまた注ぐとブレイドに酒の瓶を渡す。
暫くそうして飲んでいると店の扉が叩かれた。
「…?閉店の看板は出してたんだが…」
ハベルが立ち上がろうとした時、ブレイドがハベルを手で制する。
「……ハベル待て。…血の匂いがする」
ブレイドは近くに立て掛けていた剣を握って立ち上がると扉の近くまでゆっくりと近づく。
「…閉店だぞ?何か用か?」
「アイカです!開けて下さい!」
聞こえてきたのはよくこの店でフィリアと仲良さげに話をしている所を見かける少女の声だった。
ブレイドが扉を開けてから驚く。扉の前にはアイカと見知らぬ少年に背負われたフィリアが居たからだ。
「フィリアちゃん?!こりゃ一体…」
「…フィリアは怪我をしてるのか?…手当ては…終わってるみたいだな」
ハベルは少年からフィリアをソッと受けとるとフィリアの部屋へと抱えていった。
「ありゃ結構な怪我だったが…一体何があった?」
チラリとフィリアを担いできた少年に視線を向けたブレイドだったがすぐにアイカへと視線を戻すと近くの椅子へと座るように促す。
「私は宿に帰る途中でこちらの…」
「キョウスケだ、彼女が怪我を負って倒れていたのを見つけて連れてきたんだが…彼女がどこに住んでるか分からず困っていたらたまたま彼女…アイカさんがここへ連れてきてくれたんだ」
「……そうか。まぁフィリアちゃんを助けてくれたみてぇだから一先ずはありがとよ…とりあえずハベルにも説明してやってくれや。治療も終わってたみたいだしフィリアちゃんをベッドに置いたら戻って来るだろう」
暫くしてハベルはアイカ達のいる所へ飲み物を持って戻ってきた。
「果実水だ、これなら二人とも飲めるだろう?…とりあえず彼女を連れてきてくれてありがとうな。あれほどの怪我を負って生きて帰れたのは君達のお蔭だろう」
頭を下げるハベルにアイカが首を振る。
「私はたまたま通りかかっただけですよ、キョウスケさんがフィリアさんをここまで運んで来たらしいのでお礼ならキョウスケさんに言ってください」
「いや、怪我をした人を助けるのは当たり前だからな、礼なんていい」
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四人が話をしている間……酒場の向かい側の建物の屋根でその様子を見ている人影が3人…
「…どうやら上手くやってくれたようですね。あの勇者は気に入りませんが仕事をちゃんとこなす所は評価してもいいでしょう」
「だな。俺達じゃ警戒されそうだしどうするかと思っていたが…これで一先ずは何とかなった」
「…あたいは反対だったけど。せっかく再会出来たフィリアと話す機会すら無かったからねぇ」
不機嫌なエマをまぁまぁと言いながら宥めるゲイルと何やら考え込んでいたエレノアだったがエマがそういえばと口を開く。
「エレノア、あんた確かこの街に用事があるから丁度良いって言ってたけど…」
「まぁフィリアもあの少年がいるならば襲われる事も無いでしょう。先にそっちの案件を片付けましょうか」
「ん?何処に行くんだ?」
「ちょっとした挨拶ですよ。ゲイルさん達は宿に戻っても良いですよ」
「…そうだな、ちと久しぶりに暴れたから腰も痛い。先に休ませて貰うとするか」
二人が宿へと向かったのを見送るとエレノアは大通りに降りて目的地まで歩く。
さて、今までは特に害も無かったから放置してましたが…人族の街に来たからには協力者を確保するのが急務。
この街には1人魔族が逃げ込んでいるというのを報告で知っているからまずはその魔族と話をしてみようと思う。
エレノアは目立たないように纏ったボロのローブにあるフードを改めて被り直して目指すのは…
「あれですね、冒険者ギルド…」
建物は少しこじんまりとしているが…
「…なるほど。建材は見た目に騙されてはいけないみたいですね、外側は木材ですが中身は強化が施された鉄ですか」
防衛戦を考えて造られているのが分かる造りにエレノアは目を細める。
この街の門や外壁は普通のものだった。
だけどこのギルドだけは妙に頑丈に造っているし、何よりも探知の魔術式が張り巡らされているのが少しだけ気になった。
…まぁいいですが。私ならばこの程度は何の障害にもなりませんし、逃走しているのであればこれは当然の処置だとは思えますから。
建物に入ると目の前にはカウンターがあり、そこに座っていた男性が職員だと思われる。
「あ、依頼の報告ですか?でしたら明日にしてもらえま……」
「いや、ここにオルト=アルデバランという人物がいるでしょう?会わせてもらえますか」
「ギルドマスターですか?失礼ですがお名前は?」
警戒の色を見せた男性だが…
「……ふむ。少々面倒ですね」
スゥっと男性へ向けて指を突き出すと男性はフッと意識を失って机に突っ伏した。
「…少しだけ眠ってて下さい。その間にはこちらの用事は終わりますので」
カウンターの裏にある階段を上って行くと目的の場所へと辿り着いたエレノアは扉を開ける。
「誰だ、お前は?」
扉を開けると同時にエレノアへと剣を突きつけるオルト
「……」
フードで顔が見えないが相当なプレッシャーを与えてくる目の前の人物にオルトは嫌な汗を垂らす。
「…私をお前呼ばわりとは、随分と偉くなったのですね?オルト=アルデバラン?」
その声を聞いた瞬間、オルトは自身が剣を向けた相手が誰かを悟って後悔する。
ガチガチと口の震えが止まらず剣を握る手も震え出す。
「ま、まさか…」
目の前の人物がフードを取り払った瞬間、オルトは自分の人生に終わりが来たのだと悟った。
「久しぶりですね、アルデバラン。あなたが逃げ出してから始末書に追われて私の仕事は激増しましたよ?ええ、それはもう本当に大変でしたよ。本当に…」
「エ、エレノア軍団長…!何故貴女がこ、こちらに…?」
震えながら問いかけるオルトにエレノアは微笑む。
「…何故?ふふふ。それはあなたが一番理解しているのでは??」
腰から提げていた剣の柄を握るエレノアに対してオルトは動く事が出来ない。
スラリと引き抜かれた剣は半透明で淡く透き通る氷を剣にした様な刀身が冷気を放っていく。
「裏切りには制裁を。それはあなたが所属していた部隊の掟だったはずですよ?」
声を出すことすら出来ない程の殺気を放たれたオルトはゆっくりと目を閉じる…
どう足掻いても勝てない相手なのだ目の前の人物は。ならばいっそ諦めて斬られよう…と。
「……………??」
しかしいつまでも斬られた感触が襲ってこなかった為にうっすらと目を開くと
「…ふふ。あの時の忙しさを思い出して少しからかっただけですよ。安心なさい、別にあなたを殺しに来たわけではありませんよ」
エレノアは剣を納めるとさっさと近くの椅子へと座ってから笑顔でそういったのだった。




