第24話 黒騎士、再会する
「後から後から…一体何人いるんだい!!?」
また1人襲いかかってきた魔族を叩き伏せたエマが叫ぶ。
「魔族もですけど…たまに人族も混じってますね…まぁ人族は影とも戦ってるようなのでまだ良いですが…」
「だな。だが俺は解放出来ないからそろそろ腰が痛いんだが…」
腰を擦りながら言うゲイルにエマは容赦なく蹴りを入れると
「もう弱音を吐くなんてだらしないね!昔はもっとガッツがあったのに…情けないねぇ」
「そうは言ってもな、かれこれ1週間以上は休みなしなんだぞ…無茶言うなって!」
二人が言い合いをしている近くでエレノアはまた迫ってきた魔族を斬り捨てる。
「…確かにゲイルさんの言う通りかもしれませんね…休み無しでここまで戦えば疲労も溜まりますし…」
しかし、ここで根を上げる訳にもいかない。ベル君をどうにかして戦闘不能にして連れていかないと。
エレノアがどうしたらいいか思案していると…
「…来ましたね…!ゲイルさん!エマさん!周りの雑魚はお任せします!『フィジカルブースト』」
「おう」「あいよ!」
エレノア達目掛けて魔力の斬擊が地面を抉りながら向かってくるのを見て、エレノアはまたベルが来たのを悟ると身体強化する。
「…『氷刃烈爪』」
こちら目掛けて走る魔力の斬擊にエレノアも自身の技を放つ。
2つの斬擊が衝突して激しく削り合い霧散するとその土煙の中から漆黒の鎧を纏ったベルが剣を振り上げて突っ込んでくる。
エレノアも自らベルの方へと飛び、剣を振り下ろし鍔迫り合いへと持ち込む。
「ベル君!!正気に戻りなさい!魔王の言いなりになったままで君はいいの?!」
『……ッ!ガァァァァァァァァァ!!!!』
エレノアの叫びに反応するかのように咆哮を上げるベルは強引にエレノアを弾き飛ばす。
「っ!?私が弾き飛ばされるなんて……ベル君に何かしたな…あの魔王は!」
体勢を立て直そうとしたエレノアに次々と連擊を加えていくベルに対してエレノアは防戦するのが精一杯の状態になる。
「エレノアちゃん!?一旦離れ…っぐあ?!」
一瞬エレノアの方に視線を向けたゲイルに1人の魔族が突撃してゲイルを短剣で貫く。
「…ゲイル!?…オマエェェェ!!」
ゲイルが刺された事で激昂したエマが周りに張り付いていた影を凪ぎ払いながらゲイルへと駆け寄る。
「…しっかりして!!こんな所でくたばるようなアンタじゃないだろ?!」
ぐったりしているゲイルに必死な顔でそう叫ぶエマ。
「…ゴフッ!…俺は大丈夫だ…それより…エレノアちゃんを…「…駄目よ…何百年連れ添ってきたと思ってんだい…大丈夫じゃないのなんて…「…頼む…俺ならまだ動ける、お前は…エレノアを助けてやってくれ…!」……わかったわよ。…もしあたいを置いて逝ったら…追いかけてしばきたおすからね??」
エマはそう言ってゲイルを近くの木に寄りかからせるとエレノアの方へと駆け出して行った。
それを見送ったゲイルは……
「…まさかたかが雑魚に殺される日がくる…なんてなぁ………………フィリア…今俺もそっちに……」
駄目!ゲイルさん!死なせはしない!!
『ハイヒール』
「…なに…?」
そんな声と共に自身の傷が治っていくのを感じたゲイルは驚きながらも声の方へと振り向く……そして目を見開いた。
「…まさか…生きてたのか………?」
ゲイルの目の前には昔よりも大人になり髪を長く伸ばした……フィリアが泣きそうな顔で立っていた。
「…うん…うん…!!間に合って…良かった!!」
血だらけのゲイルに抱きついたフィリアに後ろから声がかかる。
「フィリア!ひとまずあっちに加勢に行か…あぶねぇ!!」
ゲイルに抱きついたフィリア目掛けて飛来した短剣を聖剣で弾くキョウスケ。
『あなたはやるべき事があるはず…ここはキョウスケに任せて行って!』
イルミナの声に頷くフィリア
「…ゲイルさん、少しだけ待ってて。エマさんは私が助けてくるから」
そう言って走り去ったフィリアにゲイルがしまった!と声を上げる。
「…ま、まて!フィリア!お前は…くそ!!」
「どういう事ですか?」
「…マズイ。今向こうで戦ってる相手はフィリアの幼なじみなんだ…」
「…え?」
「しかも魔王に何かされたみたいでな…俺達を認識出来ないくらい正気を失ってんだ!そんな状態でフィリアと会わせてみろ…何が起こるかわからん!」
走り出そうとしたゲイルだったがいくら傷が塞がったとはいえ流した血は元に戻った訳ではない。すぐに膝をついてしまう。
「無茶ですよ!」「…無茶でも行かねぇと!」
『キョウスケ!!…話は後!囲まれてる!』
イルミナの声でキョウスケは周りを確認する…
少なくとも20はいる…!
「…ゲイルさん、でしたか?…すぐに片付けますから少しだけ待ってください。フィリアを追いかけるのはその後で!!」
「…すまん。俺さえ満足に動ければ……!」
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『……オォォォォォ!!!』
「こ、これはキツイですね…こっちは殺す訳にもいかないが、向こうはそうじゃない」
ゲイルさんも気になるけれど…正直いってエマさんがこっちに来てくれて助かった…エマさんが影を引き付けてくれてるからなんとか…
何度も打ち合いをするエレノアとベルはエレノアがやや劣勢だった。
今まで休みなしで戦い続けたエレノアの体力が限界に近かったからだ。
「…まだ、こんな所で終わるわけには…!」
何度目かの打ち合いでとうとうその時が来てしまう。
焦りと霞む視界で捌くのに失敗したエレノアは剣を弾き飛ばされてしまった。
「っ!?」
無防備になったエレノアは一か八か魔力障壁を腕に集中展開してベルの剣を受け止めるが…徐々に障壁を切り裂いて剣が迫る。
エレノアはもう駄目か…と目を瞑った時、物凄い激突音と共にベルは吹き飛ばされた。
「……???」
「…なんで私以外の黒騎士がいるのかは知らないけど…私の恩人をやらせはしない…!」
バチバチと紫電が弾ける刀を手に目の前に現れたフィリアに驚くエレノア。
「フィリア…?フィリアなの!?」
振り向いたフィリアはニコッと笑うと頷く。
「はい!軍団長!フィリアスカーレットです!」
…?エレノアはフィリアの反応に違和感を抱いたがフィリアが生きていたという喜びの方が勝って涙を流す。
「良かった………死んだのだと………!」
「自分でも不思議なんですけどね…何故か生きてて隸属も解除されましたよ?…というか軍団長は何故こちらに??それにあの黒騎士は……?」
「…フィリア、落ち着いて聞いて。あれは…「危ない!!」」
とっさにフィリアはエレノアを抱えて飛び退くと先ほどまで二人が居た場所を魔力の斬擊が走り抜けた。
「…話は後で…私がアイツを何とかします」
「待って!……もう!話を聞かないのは昔から直ってないんだから…」
エレノアは体力の限界でその場に膝をついてフィリアの背中を見送る……
多分団長はアレを見て私を止めたんだと思う……あの黒騎士が持つ剣…レーヴァンティン。いくらあたしでもあの剣を見間違える筈もない…あの魔王が持たせたんだろうけどアレを持って良いのはベルだけよ。
許さない…
「…大人しくその剣を渡して。そうすれば見逃してあげる」
『………オォォ。』
……?話が通じないのかしら?
「…まぁいいよ。そっちがその気なら力ずくで取り返すから」
フィリアが御建雷神を無造作に振るうと雷撃が迸り黒騎士目掛け走る。
『…!?』
黒騎士はその場から飛び退くがその先には…
「遅い、『ウィンドランス』」
フィリアは風の槍を飛び退いてきた黒騎士に直に当てて更に飛ばすと今度は手元にイマジンブレードを取り出して空間を切り裂く。
「ゲート」
飛ばされた先にゲートを開き先回りからの剣に魔力を込め…
「イビルスラッシュ!」
黒い斬擊をまともに受けた黒騎士は地面に何度も激突しながら転がっていく。
「…以外としぶといね…あれだけ食らえば大抵の奴は倒れるんだけど…」
土煙の晴れた先でゆっくりと立ち上がる黒騎士に若干驚いたフィリア。
『……アァァ。……フィリ……ア…』
「…え…?」
『フィリア……ハ………オレガァァァァ……』
黒騎士が持つレーヴァンティンが深紅に輝きながら魔力を纏い始める。
「…まさか……ベ、ベルなの…?」
フィリアは黒騎士の正体に気が付くとフラフラとした足取りで黒騎士…ベルへと近づく。
「ベル!!私だよ!フィリアだよ!」
『フィ……リア………』
「そう!…ベル!ベル!!生きて…」
『オオァァァァァァ!!!キリサケ…!レー…ヴァ…ンティ…ン!!』
無防備に近づくフィリアにベルは魔力が臨海に達したレーヴァンティンを振り下ろす。
「…なんで…ベル……嫌だよ…あなたと分かったら…私は…」
剣を下ろして涙を流すフィリアにレーヴァンティンの斬擊が迫る。
レーヴァンティンの魔力刃がフィリアを呑み込もうとした瞬間…
「何してんだ!!死ぬぞ!?」「フィリア!!」
割って入ったキョウスケがレーヴァンティンの一撃を受け止め、その間にエレノアがフィリアを掴んで離れる。
『キョウスケ!マズイよ!!この魔力刃…密度が尋常じゃない!』
「わかってる!!…だけど、今反らしたら…フィリア達を巻き込む!」
バチバチと魔力刃と聖剣が激しく衝突して徐々にキョウスケが圧されていく。
「ぐぉ!まじか…!」
『ガァァァァァァァァァ!!!!』
『も、もう駄目…!』
イルミナが諦めかけた時、ガシャンという音と共に目の前に漆黒の鎧が割り込んでくる。
『…どいて!』
フィリアは逢魔を盾に魔力刃を弾いていく。
『…取り乱したけど…ベルは私が救ってみせる!泣き言なんて言ってる場合じゃない!はぁぁぁぁぁぁ!!!』
フィリアは逢魔を振り上げて魔力刃を完全に弾き飛ばしそのままベルへと向かって走るが……
「………まさか生きていたとはな…フィリア」
どこからか響いてきた声と共にフィリアを爆炎が包み込む。
「…あぐっ!!?」
爆炎で足が止まったフィリアの目の前の空間が歪みそこから現れたのは……
『……魔王……ルシウス……!?』
禍々しいオーラを纏ったルシウス…
「フィリア…いつから余を呼び捨てに出来るようになったのだ?…調子に乗るな」
ルシウスは手元に魔剣を召喚するとフィリアの胸を一息に貫く。
『……ゴフッ……』
「なぜ隸属紋が消えたかは知らぬが…新たな黒騎士がいる以上靡かぬ貴様はもう要らぬ…」
『…げ…外道………が……!……ベルを…返せ…!』
貫かれたままベルに向かって手を伸ばすフィリアに魔王は更に剣をグリッと回して傷口を抉る。
フェイスガード越しに血を吐くフィリアだが尚もベルに近づこうと貫かれた剣ごと前へと進む。
「…流石にしぶといな。今まで600年間魔王軍最強として君臨してきただけはあるか…」
『……な、758…年………2…6……よ。…わた……お前を……!』
殺したいと思わなかった日は無い…そう言葉を紡ごうとしたフィリアだが…
「貴様はここで終わりだ。束の間の自由…最後に想い人に会えたのだ…満足して死ね」
ルシウスは一気にフィリアから剣を引き抜き、フィリアはその場に倒れた。
「…まだ調整が必要か。まぁ時間はある…ゆっくりと仕上げるとしようか」
ルシウスはベルへと向き直りそう呟くがそこでまた振り返る。
「…エレノア、貴様には失望したぞ。大人しく従っていれば生きていられたものを…」
ルシウスは手をエレノアの方へと向ける
「地獄の業火」
ルシウスの一言でエレノアを紫に燃え盛る炎が包み激しく燃え上がる。
「…ル、ルシウスゥゥゥゥ!!!……貴様は…私が…!」
エレノアは自らに氷の魔術をかけて炎を消す。
「ほう…あれを耐えるか。…まぁ良い…余はこやつを回収に来ただけだからな、貴様らなんぞいつでも始末できる……ふむだがまぁコレは死体になっても使えるか…」
ルシウスはフィリアの頭を掴むと持ち上げる。
「黒騎士となったこの男と共に精々末長く使い潰して……む?」
力尽きたと思ったフィリアだったが持ち上げられた瞬間、ルシウスの腕を掴む。
『…………』
「死に損ないが…!大人しく……!?」
『…シネ!』
フィリアの言葉と同時に近くに落ちていた逢魔が反応してフィリアの手元に収まるとルシウスを斬り裂く。
「ちぃ!!貴様……!」
咄嗟にフィリアを離して下がった為、ルシウスは服を斬り裂かれただけに終わったがフィリアは全身から不気味なオーラを放ちながら立ち上がる。
『……………ユルさナい…』
暴走モード突入…




