第19話 黒騎士、先回りされる
「…はい?」
「もう一度言うが…君に依頼がある」
…毎日平和に過ごしていた私にまたしてもギルドの魔の手が…
「いやいや、私は最初に言ったでしょ?夜は仕事だから長期の依頼は受けませんってさ」
「確かにそう言われたが…今回の依頼は断る事が出来そうにないんだよ」
何故に!?
最近やっとハベル亭にお客が来るようになって忙しいのに…
「あなたが断れないんだから自分でやれば良いじゃない。私はなんと言われても最初の約束以上の事をする気はないよ?」
せっかく自由になれたのにまた強制されて動くなんて勘弁してほしいし!
それにフィリアさんは今とても忙しいのよ?昼間は図書館に行って調べものもしないといけないし、近所の奥様方と井戸端会議もあるんだから。
「そう言われてもなぁ…一応ハベル亭の主人には先に許可を貰ってるからな」
なんという理不尽…私が断るのを見越してハベルさんに先に言うなんて…逃げ道から塞いでいくとは最悪じゃん。
「…だが断る!」
断固拒否!もう間違いなく厄介事だと分かりきってるのに受けるなんて選択肢は出てこない。
「まぁそう言わずにまずは依頼書を見てくれないか?」
そう言ってフィリアの前にオルトが差し出した依頼書を渋々受け取る。
「…魔族との話し合い?…ちょっと待って、確かこの街に近づいていた魔族に対する依頼って討伐じゃないの?」
確か宿屋で聞いた時は討伐依頼だったはずだけど…
「それは間違いではない。確かに少し前まで討伐依頼だったのだが…それはこの街の領主が出した依頼だ。こちらはこの国…ヴィトアニア皇国から正式に依頼された物だ」
うげ……。国からの依頼とか勘弁してほしい。
「無理、断る「ハベルさんが…」うがぁぁぁぁぁ!!!…やればいいんでしょ!!」
くそ…こやつ…私を手玉に取るとは…!その内殺……いや、もっと恐ろしい目に遇わせてやるわ…ふふ…ふふふ…あーはっはっはっは!!!
「…今までよく黒騎士だってバレなかったな?考えてる事が顔に出てるぞ…」
「…べ、別に何も考えてないわよ?」
「あぁ…まぁそうかもな」
やっぱり殺そうかしら…!
「…というか具体的にはどうしたら良いのよ?大体魔族がヴィトアニア皇国の領土に侵攻してくるとか有り得ないのはアンタもわかってるでしょ?…仕事中に冒険者から聞いたんだけど…その魔族の集団って追われてるって話だったよ?」
「それなんだがなぁ…一応俺が調べたんだが…」
「…え?オルトって仕事してんの?」
「おぃぃぃぃ!お前は俺をなんだと思ってやがる!?アホ騎士…ッブホ!?」
フィリアの拳がオルトの顔面に炸裂して吹き飛ばされた。
「…口の聞き方に気を付けろよ?私に勝てるのか?んん??」
「いきなり殴るなよ!…あーいてぇ」
ハベルさんを盾にしようなんてするからこうなるのよ!
「…んで、話の続きだが…追われてる魔族っていうのがちょっとマズイ」
「ん?どういうこと?」
「昔あった街でドレイクって街があったんだが…魔王様に反逆した罪で滅ぼされて今では反逆者の街……って何だよ?そんな怖い顔して」
「…反逆者の街……そう…か…そういう事になってるのね」
「あ、あぁ。確か何百年前の出来事らしいが…なんか知ってるのか?」
「…私が生まれた街でずっと住んでたよ…何が反逆の街よ…!」
「フィリアの故郷?待て待て!ドレイクがあったのは何百年も前の話だぞ?」
「…それはまぁ後で教えるから…それよりドレイクと追われてる魔族ってなにか関係があるの?」
「…ある。というかドレイクの生き残りだな。『不死の副長』『同胞殺しの料理人』…俺が調べた限りじゃ有名なのはその二人だな。二人とも長命な竜人…ドラゴンレイスだ」
………?誰よそれ?私はそんな人達知らないんだけど。
「…誰それ?容姿の特徴は?」
オルトが懐から紙を取り出してフィリアに渡す。それに似顔絵が書かれていたのだが…
「えぇ……。宿屋のおじさん達じゃん…」
あの時私とベルを逃がしてくれた二人だった。
というか凄い物騒な2つ名持ってたのね…私達の前じゃ気の良いおじさん、おばさんだったのに。
「や、宿屋?」
「うん、ドレイクにあった宿屋の夫婦だよ」
「…フィリア、もしかして君も長命種なのか?」
え?とっくに気がついてると思ってたんだけど…私が黒騎士だって時点で長生きしてるの分かるでしょうし。
「黒騎士が何百年前から存在してると思ってるのよ……。私の種族はデーモンよ」
デーモン、デモニア色んな呼び方があるけど。まぁ私はデーモンの中でも更に別の種族なのよね…そこは秘密だけど。
寿命は正直あってないようなものなんだよね…私達の寿命は魔力で補填出来るからねぇ。充分生きたっていうデーモンはそれをせずに死ぬ。成長も最初の百年で止まるし。
「デーモンか…見た目が人間と変わらないから分からなかったが…」
「まぁ本当の姿は見せてないからね、本当の姿もこの姿と対して変わらないけど」
あの姿は絶対に見せられない。魔王にすらバレてないんだから死ぬまで秘密にする。
というか話が逸れたけど宿屋のおばさん達生きてたんだね…あの後どうなったか分からなかったから心配してたんだけど…生きてて良かった。
「なんで追われてるのかは知らないけど私が行くしかなさそうだね。おばさん達には恩もある」
よくおかみさんには怒られてたなぁ。それにベルと喧嘩した時はいつもパイを作ってくれて慰めてくれてたし。
「じゃあ依頼は受けるんだな?」
「うん、ハベルさんにも承諾されてるなら断る理由も無いし…」
次はあらかじめハベルさんにも言っておこう。ギルドから誰か来たら追い返して下さいって!
今回は話だけで解決するだろうし早めに終わらせて帰ろう。




