第18話 黒騎士、勇者と再び遭遇する
あれから一週間が過ぎた。
ギルドへの報告やらルッツさんたちからのお礼やらでバタバタしたけれど、概ね平和な日々である。
「しまった…フィリア、すまないが市場に行って足りないものを買ってきてくれないか?」
「いいですよ、何を買ってきます?」
「ドーの肉と注文していた酒、果物を幾つか…果物の内容はフィリアに任せるよ。フィリアが働き始めてから夕方もお客が来るようになったから少し多目に用意しないといけないからね」
そう!私がウェイトレスをやるようになってから少しずつお客が来るようになったのですよ!
美人過ぎるっていうのも罪ね…
「これは代金だから無くさないように」
渡された袋を受け取ってポケットに入れる。
…というか最近ハベルさんは私を子供扱いするんだよね。さすがに子供じゃあるまいし預かったお金を落としたりはしないよ。
早速店を出て市場へと向かう。
この街の南側に市場があるんだけどハベルさんの店からは結構歩かないといけないんだよね。
「あ!フィリアのねーちゃんだ!」
「ほんとだ!」「あそぼー」
近所の子供達が猛ダッシュしてくる。
「ちょ!私は今から市場に行ってお買い物なの!また今度遊んであげるから!」
「えー!やだよ!今から遊ぼうよ」
「駄目だって、ほら…ワガママ言ってると黒騎士が来るよ?」
「黒騎士はイヤー!!」「逃げろー!!」
うっ!自分で言っておいてなんだけど…嫌われてるのはかなりクルものがあるよね…。
そんな中、逃げずに黙って私を見つめる子供が1人…。
「もう皆行ったよ?行かないの?」
「…黒騎士なんてこわくない!おれがたおすんだ」
あらま…
「…んー、黒騎士を倒したいならもっと頑張らないと駄目かなぁ…黒騎士って凄く強いよ?」
「にーちゃんのカタキをとりたいんだ!」
…………仇か。
「ねぇ、お兄さんはあなたに仇を…なんて願ってはないと思うよ?」
「……」
「大丈夫、その内黒騎士を倒してくれる勇者様が現れるよ。その勇者様にお願いしたらいい…"黒騎士をやっつけて"ってさ」
しゃがみこんで目線を合わせてからそう言ってあげると男の子はフィリアの胸に飛び込んでグリグリしてくる。
「よしよし、…さ、もう皆の所に…」
「……またお前は……こら!!」
え?なんか男の子に似た少年が私の胸に顔を埋めていた男の子を引き剥がしたんだけど……?
「にーちゃん!後少しだったのに!!」
にーちゃん??
「すいません!!うちの弟が…」
「…お兄さんって黒騎士に殺されたんじゃ?」
「え?いやぁ、確かに黒騎士を遠目では見たんですけどね…それに驚いて気を失ったから助かったんですよねー。…いつもなんですよ、弟は女の人の胸に執着しているというか…やはり母親が恋しいんですかねぇ」
苦笑いしながらそう答えた青年は弟君の頭を軽く小突く。
「ま、まぁ黒騎士はお兄さんの仇…じゃないなら良かったですよ。胸なんて子供に触られたくらいなんともありませんし」
セクハラロリコン外道魔王に触られるのに比べたら可愛いもんだしね。
「本当に申し訳ない!…そうだ、お詫びといってはなんですが…今度お暇な時にでも俺の店に来てください!革製品や日用品も扱う雑貨屋なんですよ」
「へぇ、なら今度行ってみようかな?あ、私はフィリアって言います、夜はそこの…ハベル亭で働いてますから是非一度飲みか食事でもしに来てくださいね?」
「わかりました、近い内に顔を出しますね!…俺はレイニーっていいます、そこの角にあるのが俺の店なんで気軽に寄ってください!」
へー、気になってた店じゃん!忙しくて行けなかったけど…何かの縁だし暇を作って行ってみよう。
少しだけ喋った後改めて市場へ向かったんだけど…なんか人だかりが出来てるなぁ
「何かあったんですか??」
近くの人に聞いてみるとどうやら勇者が今市場に来ているらしい。
勇者…この間の少年かな?
流石に今勇者と遭遇するわけにもいかないか……。
最近私は学習したのだよ、バレたら困るのに何故かバレるような行動をしてしまう。
だが!宣言しよう!!私は生まれ変わったのよ!そう…言わばニューフィリアにね!!
うははははは!
ガシッ!
……………??
「…ちょっといいかな?」
「…………はい?」
「ここで騒ぎを起こすのは駄目だからな…黒騎士」
ワーオ………。
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街から少し離れた森の中に連れていかれたんだけど目の前にいる少年…えっと、……名前知らないわ。
「アナタハダレデスカ?ワタシハアナタノコトヲシラナイノデスガ…?」
ここは誤魔化す方針で行こう。
「いや、明らかに誤魔化せてないから。口笛吹いても無理だぞ?黒騎士……アンタは馬鹿なのか?」
む…失礼なボウヤね。ちょいとお仕置き……いやいや!生まれ変わった私を甘く見るなよ?
「…あのね、いきなり人をこんなところまで連れてきて馬鹿呼ばわりするとかなんなの?馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ、ばーか!」
あ、私も馬鹿って言ったら私が馬鹿になるのか…クソ!!ハメられた!
『ぷっ…なんですかこの愉快な生き物は。これが黒騎士の中身とは…キョウスケ、この人は見た目が似ているだけの別人じゃないですかね?』
剣が喋った…インテリジェンスソードか。
というか持ち主共々失礼な奴らね。さすがの優しいフィリアさんもそろそろブチキレそうよ……
「アンタ黒騎士だろ?ふざけてないでマトモに話そうぜ?馬鹿のフリとかしなくていいからさ」
プチン
「…黙って聞いてれば言いたい放題いってくれちゃいますねこの野郎!まずは目上に対する口の聞き方からその身体に叩きこんでやる!」
フィリアは手元にイマジンブレードを取り出すと柄に手をかける。
それを見た勇者は慌ててフィリアに
「待ってくれ!失礼な言い方だったのは謝るから!話を…」
「そんなん知るか!お腹を刺された恨み、今ここで晴らしてやるわ!」
さぁ、どうしてくれようか…………!
フィリアはイマジンブレードを抜きはらってキョウスケへと斬りかかるが、それをキョウスケはかわしていく。
「待てって!」
『…どうするのキョウスケ?戦うしかなさそうだけど……』
「うーん。だけどさ…彼女も本気で戦ってる訳じゃなさそうだし暫くは好きにさせようか…っ!」
フィリアの剣を避けながらそう言うキョウスケに聖剣イルミナは溜め息を吐く。
『馬鹿ね。やっぱり惚れたんでしょう?』
「だから違うって…」
そうやって暫く剣を振り回していたフィリアだったが…やがてイマジンブレードを鞘へと納める。
「…反撃もしてこないって事は私に何か用事でも?…言っておくけれどもう魔王軍とは一切関係無いから。それでも私を倒したいって言うなら…」
フィリアは指を鳴らして黒騎士の鎧を呼び出して逢魔を肩に担ぐ。
『今度は本気で殺すわよ?』
「いや、本当に話をしたかっただけなんだ。信じて欲しい」
『…ん?本当にそれだけ?…私が生きてるのを知って殺しに来たんじゃないの?』
「最初からそう言ってるじゃないか。馬鹿にしたのは謝るからその物騒な装備は仕舞ってくれないか」
フィリアが鎧を解除した所でキョウスケは本題を切り出す。
「あの時の言葉の意味を知りたい。最後にあなたが呟いた『これで自由になれる』の意味を」
「………それを聞いてどうするの?」
「もしあなたが自分の意思で人と敵対した訳じゃないなら…帝国に力を貸して欲しい。魔王は倒さないとこれから先も罪の無い人々が犠牲になる」
「……………」
「これ以上魔族と人族が争う事で犠牲が増えないように…協力して貰えないだろうか?」
「……………」
何を言うのかと思えば……これは真面目に答えるべきね。
「…ねぇ、キョウスケだったかな?キョウスケは魔族と人族が何で戦争を始めたか知ってるの?」
『………』
「魔族が人族の国に攻め込んだのが始まりだと聞いている。…魔王が当時友好関係を結んでいた国を一方的に滅ぼした『グレイス炎上』は有名だろう?」
……はぁ。やっぱりね。
「これだから人族は嫌いなのよ」
「なに…?」
『…キョウスケ、あなたがまさかこんな提案をするなんて考えて無かったし、本来は教えてはならないって言われてたから教えるつもりは無かったけれど…』
「…そのインテリジェンスソードはイルミナね?……数百年振りかな、あんたと言葉を交わすのは。といっても昔は私に一方的に話しかけてくる変な女だったけれどね…まさか剣になってるとは思ってなかったわ」
『私も黒騎士…あなた言葉を交わす事が出来る時が来るなんて思っても無かった』
「…まぁ、イルミナが勇者君に真実を隠している理由は大体予想がつくけれど。……まず勇者君に言いたい事がいくつかあるわ…魔族が先に仕掛けたって聞いてるだろうけれど真相は違う。…先に仕掛けたのは人族だから」
「…なん…だと?」
「それと、『グレイス炎上』も全然違う。確かにあの魔王はクズで変態でロリコンだけど…グレイス王国全体が魔族の子供を拐って奴隷として使っていたのがバレて魔王と私の姉…リーニアが子供を返してもらう為にあの王国へ行った。でも結果は話し合いの最中に大規模戦略魔法を使って二人を殺そうとして国ごと消滅した…自業自得よ」
もっと正確に言うなら戦略魔法を使ったけれどお姉ちゃんが一時的に戦略魔法を止めて、二人が話をしていると同時に拐われた子供の両親や軍が救出を行っていて終わると同時に戦略魔法を解放しただけらしい。
まぁ、戦略級魔法位で殺せるような魔王とお姉ちゃんではないけどね。
「…本当なのか?」
「嘘を吐く理由が無いよ。魔王に裏切られた私が魔王を庇う必要ある?…真実をねじ曲げて大義名分を振りかざす人族が嫌いだし、それに利用されてる事に気が付かない奴も私は嫌い」
人族みんなが悪い訳じゃないのは知ってるから別に人族を滅ぼしたいとかは考えないけどさ。
「先に戦端を開いたのも人族だから。魔族領の資源が目当てだったと聞いてるし、事実私の実家の近くにあった街は滅ぼされた。……私の友人の両親も殺されたよ」
ベルの両親は人族の商人に殺されたってお姉ちゃんが言ってた。
ベルが住んでいた街は商人とか結構来ていたしね。
「…それでも、罪の無い人々が殺されるのを黙って見ている訳には…」
「じゃあ君は罪の無い魔族は死んでもいいって言うのね?」
「違う!皆が平和に暮らせるようにする為に戦争を終わらせたい…それが…」
「……皆が平和に、ねぇ…無理よ。私達魔族は寿命も長いから例外はいるけど欲望があまり強く無いんだよねぇ。でも人族は?短い人生で己の欲を満たす為に平気で他者を殺すよね?そうじゃない人族も多いのは知ってる、だけど欲が強い人間が国のトップになるのだから結果的に平和にするならまず人族の国のトップを全て殺した方が早いんだと私は思うけどね…」
魔族は魔王一人しか居ないから魔王を殺して次の王を選出すればいい。
その時にマトモな魔王を選べばいいんだから。
だけど人族は違う。寿命が短いから良い王様が国を纏めてもそれは何十年の話な訳で…その後継者がマトモだとは限らない。
唯一私が知ってるなかで王族が良識ある国はこの国…ヴィトアニア皇国位だと思う。
ヴィトアニア皇国は何百年前かに革命があって今の王の血筋に変わってから良くなった。
今でもヴィトアニア皇国だけには先に攻撃を仕掛けることは無い。
「勇者君が今言った事は唯の独善だよ。人族の犠牲は無くしたい、だから魔族を攻め滅ぼしても良いって事でしょう?…魔族にも馬鹿な奴はいるけれど、人族に比べたら細やかな数だし、私が今までそういう奴らは粛清してきた」
それに…魔族の掟はヤられたらやり返せだし。自ら仕掛けることは無い。
だって侵略する意味が無いからね…資源もある、領地もある、王は1人…まぁクズだけども。
そのクズでもヴィトアニア皇国を標的にしてないのは手を出してこないからだ。
本気で征服するつもりならとっくに征服出来るだけの戦力はあると思う。
ここまで戦争が長引いているのは勇者という存在がいる、それだけなんだよ。
「だけど…!」
「だけども何もないよ。私は帝国に味方はしないし、魔族を滅ぼす手伝いもしない。…そうね、最初の質問には答えようか…『これで自由になれる』あれはそのままの意味だよ。私は何百年もの間魔王に隷属させられてた…あの時君に瀕死に追い込まれて魔王から君を巻き込んで自爆しろって命令された。もう死ぬなら自由になれる…まぁ実際は何故か生き残ってたけどね」
私は私のやり方で魔王を殺す。…だけどそれはお姉ちゃんやベルを救う手段が整ってからだ…あの氷は永久に溶ける事は無い。火山に投げ込むと魔王が言ったのはマグマの中なら誰も手が出せないからだ。
魔王が何故あの時氷から抜け出せたのか分からないけれどそれを調べてれば何かが分かるかも知れないしね。
『…貴女は魔王が憎くないの?帝国と協力すれば魔王だって……ッ!』
イルミナがそう言った瞬間、今までのフィリアとは別人かと思えるような濃密な殺気がフィリアの全身から発せられてイルミナもキョウスケも怯む。
「…憎くないの?ですって?…何も知らない癖に…!姉を人質に取られ、好きだった人も魔王との戦いで死に瀕してる。挙げ句その憎い魔王に何百年もの間隷属させられて身体を好きにされてきて…憎く無いわけが無い!!今でも姉と友達を人質に取られて無ければとっくに魔王城に乗り込んで殺してる!」
フィリアは憎悪のままに叫ぶ。普段はそういう態度を見せないようにしているフィリアだがその心はあの時、リーニアとベルが氷に包まれた時から変わっていなかった。
「…だから私にはもう関わらないで…勇者が関わると今まで録な事が無かったから。君も一度良く考えた方が良いよ、私が嘘を吐いてるのか人族が嘘を吐いてるのか…調べてみたら分かるでしょ?…あなたが持ってるその元勇者に問い詰めてみても良いかもね。何らかの情報は持ってるでしょうし」
じゃあね。…真実を知っても人族を救いたい、魔族を滅ぼしたい、と言うなら…次は確実に勇者君…君を…
そういってフィリアは街へと戻っていった。
そして残されたキョウスケは…
「…一度帝国へ戻ろう。彼女の話が本当なら…俺は……」
『…私には何も聞かないの…?』
「…今は。まずは帝国に戻る、話はそれからだ」
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街へと戻ってきたフィリアはハベル亭へと帰宅する。
「お帰り、遅かったな?何か問題でもあったかい?」
………あ、しまった。
「ハベルさん…お買い物忘れてました………」
「…そうだろうと思ったよ。まぁまだ間に合うからもう一度行っておいで…今度はちゃんと買ってきてくれよ?」
ハベルさんは苦笑いしながらさぁ行ってこい!と言って奥へと戻って行った。
「……ゆ、勇者め…やっぱりロクな事がない…!」
フィリアはまた市場に向かって走っていった………。
シリアス…笑




