第17話 黒騎士には友達がいたらしい。
フィリアの記憶やらが矛盾しているのはデフォなのでご了承ください。けして俺が間違っている訳ではないのです!
「お姉ちゃん!ベル!!」
「わわっ!?」
飛び起きたフィリアに驚いたのはアイカだった。
「………あれ?ここは…?」
何故かハベル亭の自室に寝かされていたフィリアはさっきまでのは夢だったと理解する。
「…もうあれから何百年も経ってるのか…」
窓の外を見ると綺麗な月が見えて……月?あ、あれ??
「…あのぅ、そろそろ私に気付いて下さい…」
「今それどころじゃないわ!仕事しないと!」
慌てて立ち上がろうとした時、部屋の扉が開かれてハベルさんが中へと入ってきた。
「気が付いたんだね、良かったよ…倒れたと彼女…アイカ君から聞かされた時は本当に心配したよ」
「…え?……あぁ、アイカちゃんも居たのね。…ってそれよりも仕事をっ!」
「いや、今日はゆっくり休むんだ。無理はしなくていいからね?」
「…でも」
「ははは、心配しなくても普段から一人でやってるし、お客も今はブレイドだけだからね。心配いらないよ」
「…すみません」
「…あまり危険な事をしないように、と言っても冒険者にそれは無理な話か…君は妻に似ているから出来れば長生きして欲しいがね」
そう言ってハベルさんは部屋から出ていった…
「あの!そろそろ良いですか??」
あ、そう言えばさっきから居たけど放置してたね。
「…なぁに?」
「先ずはこれを。フィリアさんが起きるまで預かってたんです」
アイカは建御雷神をフィリアへと渡す。
「ありがとう、というか正直そのまま持っていってもバレなかったのにちゃんと返してくれる事に驚いたわよ」
魔界では本人が完全に気を失ってる時点で身ぐるみ剥がされても文句は言えないからね。
「…いえ、それはルールとしてどうかと。落とし物は警察…じゃなくて」
「ケイサツ……ははぁ、道理でなんか違和感があったのか。…アイカ、あなたって転移者?それとも転生者?」
フィリアの質問に驚いたアイカは目を見開く。
「も、もしかして…フィリアさんも?」
フィリアは首を振ると
「…昔ね、敵だった子が言ってたのよ『この世界には警察みたいな組織はないの?あったら真っ先に逮捕して貰うのに』ってね」
……懐かしいなぁ。黒騎士になってから500年位だったかな?本気で戦って初めて殺し損ねたのは。
彼女は本当に強かった。そもそもこの建御雷神も彼女の持ち物だったからなぁ…
「…その人って今は」
「…もうとっくに墓の下だよ。でもまぁ最後に会った時は満足そうな顔をしてたからね」
冒険者協会?を作り上げて国々を周りながら広めていったらしい。最後に私が戦ってた場所にいきなり現れて……あれ?現れてどうしたんだっけ…?タケミカヅチを渡されてから何か…いやぁ物忘れじゃないのよ?ただ少し思い出せないだけで…
「そう、ですか…もしかしたら帰る方法とか何か手掛かりを、と思ったんですけど…」
「…あ、そう言えば確か…」
フィリアは亜空間をゴソゴソと探る。
これじゃない、これも…あ、これは…ギルドで吐いたヤツだ…後で捨てとかないと…!
しばらくそうした後、目当ての物を見つけるとそれを取り出してアイカへと渡す。
「これは?」
アイカは渡された物を見てフィリアはひとつ頷く。
「その知り合いからこの刀と一緒に渡されたのよ。あの時は事情があって言葉を交わす事が叶わなかったんだけどね…行動不能になるまで戦った挙げ句無理矢理渡されたから中身は一度しか見てないけれど…読めなかったんだよねぇ」
アイカは手帳を開くと少し目を通してみる。
「……フィリアさん、これ…少しお借りしてても良いですか?内容が…」
「…別にあげるわよ?私が持っていても読めない「駄目ですよ!!」」
「最初の方だけしか見てないですけど…これはフィリアさんへと書かれた物みたいですし」
へ?私に?……そんな筈は…
「最初の一文が『私の最大の好敵手にして唯一の友へ』って書かれてますし…」
ともぉ?!…あれ?そんな事になった記憶なんて…無い…よね?
「よく分からないけどどのみち読めないし…」
「なら私が翻訳しましょうか?内容を読むついでですし…」
「じゃあお願いしようかしら。…所でさ、何であなたが私の部屋にいるの??」
「というか今ですか!?今更それを聞くんですか?!」
いやぁ、だってさ…ハベルさんが来た辺りで聞こうとはしたんだよ?でもなんかそういう雰囲気じゃなくなったというかなんというか…
「…フィリアさんは黒騎士さんと戦った後魔力の使いすぎで倒れたんですよ。武具屋でここにって言ってたのを覚えてたのでここまでルッツさんに運んでもらったんです」
「そうだったの…で、そのルッツさんとあなたの仲間は?」
「ルッツさんも皆も今は宿で寝てますよ、ここまで休み無しで帰ってきましたから…だけど…」
「…?」
「実は黒騎士さんに助けてもらったんです。私もそうみたいなんですけど…あんまり記憶がハッキリしなくて…」
「ま、助けて貰えてラッキーだったじゃない。結果的にあなたが助けたかった人達は無事だったんだし」
「……そうですね。ただ私と黒騎士さんの間で約束を交わしたみたいなんですよね…それが何なのか分からないというのが気がかりなんですよ」
……あ、そういえばそんな事を言ったような…
「…約束ね、わざわざ助けたのに命を奪うような事はしないと思うし気にしなくていいんじゃない?きっと恥ずかしかったから適当に誤魔化しただけよ、そういうことにしときましょ?」
うーん、これはもう一度記憶を…いや、あんまりやり過ぎると本当に頭がお花畑になるしなぁ。
知れずアイカに危機が訪れようとしていたが
「考えても仕方ないですよね。…それにもし会えるなら…もう一度会ってお礼も…」
最後の部分はゴニョゴニョと言ってたから聞こえなかったけれど本人が良いって言うなら問題はない。
「それじゃあ私は帰りますね、また後日二人を連れてお礼をしますから」
「私はなにもしてないからそういうのはいいよ」
「何もしてないだなんて!フィリアさんがあそこでオーガキングと黒騎士さんと戦って無かったら…私達は今ここにいませんでしたよ!だからお礼は絶対にしますから!…あと、ルッツさん達も話がしたいって言ってましたしね」
ではまた、と言って出ていったアイカ。
「…どっちにしてもギルドには報告しないといけないしね」
明日明日!今日は仕事も出来ないしもう寝よ!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「アイカお帰り」
「あれ?リュータは起きてたんだ」
リュータは苦笑いしながら指差す。その先には盛大にイビキをかいて寝ているカイトとルッツ、コリンズの姿があった。
「…なるほど。あれじゃ寝れないね」
「うん、…フィリアさんは大丈夫だったかい?アイカが帰ってきたって事は目を覚ましたんでしょ?」
「フィリアさんは目を覚まして預かってたあの刀もちゃんと返したよ」
リュータはそっか、と頷くと
「アイカ、疲れたでしょ?コーヒーでもどう?」
「お願いしようかな、ちょっと今から読みたいものもあるし」
アイカは近くのイスに座ると早速先程の手帳を開く。
「…それは、手帳…?」
「うん、フィリアさんに転移者だって言ったら昔の知り合いの人も転移者だったんですって。それで何か手掛かりになるんじゃない?って事で預かってきたんだけど…」
私の最大の好敵手にして唯一の友へ。
まずこの手帳を日本語で書いた事を許して欲しい。
フィリア、あなたが置かれている状況を考えるとこれをこの世界で使われている文字で書く事は出来ないからね。
もしあなたを使役している魔王とかに見られるとこれを破棄されてしまう可能性もあるから。
フィリア、あなたが限界まで魔力を使った結果一時的に身体の自由を取り戻した訳だけど…その時に聞いた話だとその隷属紋は強力なモノだから解除するにはあなたが死ぬか術者が死ぬかしないと解除することは出来そうに無いの。
私は出来る限りの情報を集めたけれど…私の人生では間に合わないみたい。
最初にあなたと戦ってからもう10年以上が経ってしまった今でもあの時の戦いは覚えてるよ、勇者としてこの世界に召喚されて戦うしか無かったのだけどあなたが正気を取り戻したあの時…私に言ってくれたあの言葉を私は忘れない。
『ユウナ…あなたは別に隷属されてる訳ではないじゃない…ならば自由に生きていく事は出来る。私みたいになってはいけない…私は隷属されてからもう何百年が過ぎたけど、人の人生は短いでしょ?……そんな顔をしてまで自分を犠牲にする必要なんて無いじゃない…自由に、自分の思う通りに生きてみたら良いと思うよ』
今思えばフィリアはかなり無理をしていたと思う。
私なんかよりも大変な目にあっているのにどうしてあんな風に笑う事が出来たんだろうって。
『…1つだけお願いがある。…多分だけど今この時の記憶はあの外道に消されると思うからユウナの事も忘れると思う。だけどもし…出来るなら…お姉ちゃんとベル…私の愛する人達を助けるのをいつか手伝って欲しい。人として輪廻の輪を外れてしまう事になるけれど…人生を全うしたその時に…これを使って欲しい』
そういって渡された剣は今でも大事に保管してるよ。
…フィリア、あなたと約束した通りに私は自由に生きてます。
だからあなたも…いつか自由になれる事を諦めずに生きていて欲しい。
あ、そうそう!使って欲しいと言うならこの剣の使い方を教えてくれてもよかったんじゃないかな!?ぶっちゃけ使い方がわかんないよ!
最大のライバルであり最高のお馬鹿さんな黒騎士殿へ
榊原 裕奈
その後は難しい術式や地名らしき場所が書かれた地図やらが書き込まれていた。
「……………」「………………」
あ、あれ?この内容を信じると……黒騎士って…
「…リュータ、これは絶対に秘密にしたほうがいいと思うんだけど…」
「…だね。フィリアさんが黒騎士の正体なら俺達の恩人だし…それにさ、このユウナって人…まさかとは思うけど…」
「多分そうだと思う。冒険者ギルドの創設者にして歴代の勇者の中でも最強の勇者…サカキユウナ。その人だと…」
これは大変な代物を預かったんじゃないかな…?
そう思いながら残りのページを読み進めるアイカだった……。




