第13話 黒騎士と逢魔
フィリアは………お馬鹿…。
少し時間は戻る………
フィリアはルッツ、アイカと別れた後少し離れた場所でいそいそと準備をしつつ後悔していた。
正体隠さないといけないの忘れてた……長年あの鎧姿だったからつい鎧着ちゃうんだよね……馬鹿か私。
一応口止めはしたし、アイカには最初から魔法を掛けてたから良いけど。
「えぇい、やってしまったことは悔いても仕方ない!毒を食らわば皿までよ!」
なんか違うような気がしないでも無いけどいいか。
とりあえず再び兜を被ってフェイスガードを装着する。
『……にしてもやっぱり人族って弱いんだねぇ。オーガ1匹に3人がかりでやっと対等くらいか』
気配を消して茂みから覗くと3人が連携してオーガと戦いを繰り広げていた。
『見た感じあのオーガは魔族領にいるオーガよりかなり弱いぽい。あんなのに苦戦するって…まぁ頼まれた以上は助けるけどさ』
そろそろ行こうかと思って立ち上がろうとした時、離れた所からこちらを目指して移動する気配を複数確認した。
『オーガの群れ…か。ならやっぱりいるね』
案の定現れたオーガに囲まれてピンチになった3人を助けるべく、フィリアは気配遮断を解除するとゆっくりと歩き出す。
さーて…さくっと片付けて本命を倒しに行かないと。
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『いい?あなたは黒騎士に遭遇して何かを約束した。だけどそれは思い出せない。そして一緒に来たフィリアとははぐれた。…以上!』
あんまり記憶の操作ってやっちゃいけないんだけど…僅かな可能性だけど失敗したらちょっと馬鹿になるだけだから。……ごめん!アイカちゃん!
「アイカ、本当に思い出せないのか??」
「うん。何だか記憶が曖昧で……一緒に来た人とはぐれた後、あの鎧の人に森で会ったのは確かなんですけど…」
「奴は約束がどうとか言っていたが…一体何を約束したんだ…黒騎士を動かす程の約束なんて…まさか命を差し出すとかじゃねぇだろうな?」
「…多分ですけど違うと思います。…何だかそんなに恐ろしい人では無かったと思うんですよね」
「…よく分からんな。だが実際俺は助かったしアイカも生きているからなぁ……それと一緒に来た人ってのは誰だ?」
「ギルドに助けを呼びに行ったら来てくれるって言ってくれた人で…でも途中で見失っちゃったんです…強い人みたいなんで大丈夫だとは思うんですけど」
「そうか、その人も無事だと良いが…今はとにかくリュータ達を助けに行くのが先だな」
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んー。
やっぱり弱いね。まさかの1振りで両断出来るとは…やっぱり人族が弱いから周辺の魔物も相応に弱いのか?
とりあえず3人は助けたし後は…
魔力を周辺に薄く広く放出して反応を見ると一際大きい反応が離れた場所にあった。
『みっけ。多分こいつね…』
暫く歩いていると気付かれたのか凄い勢いで此方へと向かってきた。
木々を薙ぎ倒しながら近づいてきたのは普通のオーガより2周り位巨大なオーガでフィリアの目の前まで来るとその凶悪な牙だらけの口を開く。
「ニンゲン……オマエナニモノダ?」
おや?喋れるくらいには知能があるみたいね…
『やっぱりオーガキングか。残念だけどあなたはここで死んでもらうよ…私この後仕事だから』
「グガガ…ニンゲンのメス…オマエハコロサズニツレテカエル!オデノツガイ二スル!」
うげぇ…誰が獣畜生のツガイになるか!!あの腐れ魔王と同じレベルで嫌だわ。
『お断りするわ。私より弱い奴なんて興味無いから』
大剣を肩に担いだまま掌をクイッとしてかかってこいと挑発するフィリア。
「ガァァァァァァァァァァァ!!!!」
オーガキングは怒りのままに突進してくるがそれをフィリアはヒラリと横にズレてかわす。
『遅いよ。大体その手に持った魔戦斧は飾りなの?使い方も分からないなんてその武器は可哀想ね』
みた感じ結構レアな武器で魔法を付与されてるぽいのに使い方が分かってないみたいだからぶっちゃけただの鈍器と変わらない。
更に怒りに火を注いだらしく魔戦斧を豪快に振り回して斬りかかってくるがそれをフィリアは真正面から逢魔で受け止める。
受け止めた衝撃でフィリアが立っていた場所は陥没し、衝撃で周辺の木が薙ぎ倒された。
『まぁ、力だけはあるね…でも』
フィリアが片手で持っていた逢魔の柄をもう片方の手も使って握るとオーガキングの魔戦斧を押し返していく。
「バカナ……ニンゲンノメスゴトキガ……!!」
オーガキングはただ本能で素早く後ろへと飛び退く。
するとさっきまでオーガキングがいた場所から禍々しい剣が空中から現れて斬撃の軌跡を残して消えた。
『あら、野生の勘って奴?そのままだったらもう終わって……ッ!?』
フィリアの足元が突然輝き地面から真っ赤に燃え盛る鎖が飛び出してフィリアを拘束していく。
「バカメ…ユダンシタナ!!グガガガ!」
しまった…。まさか武器の特殊術式を使ってくるなんて思ってなかった。
しかもこの術式…拘束力が半端じゃないね、力で振りほどくのは無理か。おまけに燃えてるから幾らこの鎧が耐熱効果の高い魔鉱石製でも長くは耐えられないかも…。
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「リュータ!カイト!」
黒騎士が立ち去った後、地面にへたり込んでいた三人の所に到着したアイカとルッツ。
アイカはすぐに二人の所まで駆け寄っていく
「アイカ?!なんでここに…」「なんでいんだよ?!」
二人がそれぞれ驚いている間にもアイカは進み目の前に来たと思ったら…
「なにが『なんでここに?!』よ!!この馬鹿共!!」
アイカは手を振り上げて思いっきり二人の頬をひっぱたいた!
バシーンと音を立てて張り倒された二人。
「…本当に、心配したんだから。…もう絶対にあんな事しないでよ…」
倒れた二人を抱きしめるアイカに二人はそれぞれ謝罪する。
「…ごめん」「す、すまねぇ」
「…さて、とりあえず話は終わりだ。それよりもアイカとはぐれたらしい冒険者を探しにいくぞ」
「アイカ、誰かと来たのかい?」
「うん…ギルドで紹介してもらったフィリアさんと途中までは一緒だったんだけど…走るのが速すぎて途中で見失っちゃったの」
「え?じゃあその後どうやってここまで来たんだよ?」
「それが…」
「アイカは黒騎士に連れられて来たんだ。本人は記憶が曖昧らしくてな。黒騎士となんらかの約束をしたらしいが…」
「そういえば…黒騎士が約束とか言ってましたね…」
最後に黒騎士が言った言葉を思い出せば確かにそんなことを言っていた気がする。
「覚えてないんだよね…何だか頭がぼやーっとした後気がついたらルッツさんが目の前で酷い怪我してて…黒騎士さんがルッツさんを治してくれたの」
「そういやルッツの怪我が治ってるな…」
「一先ずそのフィリアさんとやらを探さねぇとな。アイカ、その人の特徴を教えてくれ」
ルッツがそう言うとアイカが口を開く前にカイトが口を開く。
「真っ赤な長い髪に赤い目…ものすげえ美人だったな、……なんだよ?あんな目立つ奴忘れる訳無いだろ!ただ目立つから覚えてたんだよ!」
アイカのジト目に必死に言い訳するカイト
「そういうのは帰ってからにしろ。とにかく急ぐぞ、早くしねえとまたオーガに遭遇するかも知れねえからな」
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『………っ』
ジワジワと熱が伝わり肌が焼けるように熱い……ってあれか、本当に焼けてるんだった。
『乙女の柔肌をなんだと……』
そう言いかけた時、少し離れた場所に近づいてきた反応に気付き、遠視の魔法を発動するフィリア。
「カイト!慎重に行けよ?」
「わかってますって、コリンズさんもルッツさんも少しは信用してくだいよ」
あれは…このままじゃこっちに来そうね…折角助けたのに死なれるのはちょっと困るかな。
しょうがない、本当はあまり使いたくないんだけど……
『…我が影をもって像を為せ《映し現す闇の幻影》』
フィリアの体からごっそりと魔力が抜けていくとフィリアの影から鎧を装備していない状態のフィリアがゆっくりと立ち上がる。
「はいはーい!何百年振りに呼ばれて飛び出た私!!」
立ち上がると同時に何故かガッツポーズを繰り出してそう言ったフィリア(幻影)は本体が拘束されているのを見て…
「あれ?拘束プレイ?…マスターはいつの間にそんな趣味を…」
『馬鹿な事を言ってないでさっさと目の前の敵を攻撃しなさいよ!』
だから使いたくなかったんだよ……この術式を使うと『逢魔』の中に記憶されている魂を呼び出して影を使役出来るんだけど、欠点が多いのよね。
まず消費が激しい、逢魔の中に封じた魂の人格が酷い、そして呼び出すと私の影だから私の姿をそのまま写すからアレの仕出かした馬鹿な事、言動は私がそのまま馬鹿だと思われてしまうからね。
「ちぇ…人使いが荒いマスターね。もうちょっと『早く!私が丸焼きになるから!本当に熱いんだって!』…はいはい、んじゃまやりますかぁ」
フィリア(幻影)は腰から剣を引き抜くとオーガキングへ向けて駆け抜ける。
「走れ…『地走り』」
剣から放たれた斬撃が地面を走りオーガキングへと向かうがそれをオーガキングは飛び退いてかわす。
空中へと飛んだオーガキングは魔戦斧をフィリア(幻影)へとむけて振り下ろしたがそこには幻影の姿は既に無く…
「後ろだよ。お馬鹿さん!あなたにお似合いの技を使ってあげるね…『討鬼刃』」
剣から赤黒いオーラが迸りオーガキングが魔戦斧を握っていた右腕を切り落とす。
「ウガァァァァ!?オ、オデノウデェェェェ!!!」
ストンと着地すると同時にフィリアを拘束していた炎の鎖が消滅する。
『…ハイヒール。…危うく丸焼きになるところだったわ』
…そろそろ彼らが来そうね。はやく終わらせないと…
「どーします?私がサクッと始末していいの?」
『いや、私がやるわ。あなたが動くと私の魔力がどんどん持っていかれるから』
そういって手に持った逢魔を振り上げるフィリア
「ヤ、ヤメ…」
『お前はやめてと言われて殺すのをやめた事がある?…無いでしょ?じゃあね、次にまたオーガになった時は魔族領で暴れる事をオススメするわ』
振り下ろした剣は狙い違わずオーガの首を撥ね飛ばした。
『これでこの辺りの魔物も大人しくなるでしょ。さて……後は…』
「ん?どうしたのマスター?」
フィリアは幻影に近づくと大剣を差し出す。
『…逢魔、あなたは鎧を』
パチンと指を鳴らすとフィリアの鎧は消え去り代わりに幻影…逢魔が黒騎士の姿となる。
『この鎧重いから嫌なんですけどー?』
「もうすぐここに人族が来る。あなたは私と戦うフリをしてね?適当な所で戻すから」
『ははぁ、なるほど。アリバイ工作的な奴ですね?…分かりました!この逢魔、見事に黒騎士を演じてみせましょう!』
「…適当にでいいからね?本気で動いたら私の魔力が切れるから!」
『やだなぁ勿論分かってますよぅ』
本当に分かってるんだろうか?なんかちょっと…いや、かなり不安なんだけど。
そうしている内に彼らがやって来た。
「よし、行くよ?」『ばっちこーい!』
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「おい、こっちから血の匂いがする…みんな警戒しろよ」
ルッツの言葉に全員が頷いた瞬間、金属と金属がぶつかり合う音が響き渡った。
「!!」
「こりゃ急いだ方が良いかもな!誰かが戦ってる音だ!」
駆け出したルッツに続いて皆が走り出すとすぐにその場所へとたどり着いた。
ギィン!!
ちょうど黒騎士と鮮やかな赤い髪の女性がお互いの剣をぶつけ合い、激しく斬り結んでいた。
「くっ!この…!」
『あはは。どうした、その程度か小娘!』
黒騎士の大剣は赤髪の女性の首を狙い振られるがそれを女性は剣でガードする度に辺りに衝撃が走る。
「す、すげえ……」
カイトがポツリと呟いた言葉はその場にいた全員が同じ事を思っていた。
何度も剣がぶつかり火花を散らしていくその光景は他の者が見たら圧倒される光景だったが…本人達は違った。
二人は自分達にしか聞こえない声量で言い合いをしていた。
「ちょ!ちょっと!あんたあんまり本気で動くなってあれほど言ったでしょうが!」
『えー。なんかもう楽しくてそんなのどうでもよくなっちゃいましたよぅ。久しぶりなんですよ?!楽しまないと!』
もぅやだぁ。だから呼びたく無かったんだよ!言うこと聞かないし、身体能力は私の影だから完全に私と同じだし…それにアイツが動けば動くほど私の魔力はどんどん減っていくし。
『あははは!たーのしいなぁ!』
大剣が嵐の様に振り回されそのひとつひとつが正確に狙ってきている為、フィリアは行動を防御に割くしか無かったが……
「もう、2度と呼ばないしあんたの本体も封印してやる。どこか火山の火口に放り投げても言いかもね…」
フィリアがそう言った瞬間、ピタリと大剣が止まる。
『…冗談、だよね?』
「冗談だと思う?」
フィリアの本気を悟った逢魔はゆっくりと剣を下ろすと後ろに下がる。
『いやぁ、もう充分楽しんだしこの辺でおしまいにしましょっか!』
「…………」
フィリアは無言で亜空間から一降りの剣を引き抜く。その剣は豪奢な装飾が施された鞘に収まっていて観賞用に見えるが実はバリバリの実用品で銘は建御雷神という刀だ。
『あ、あれ?マスター?その剣は危険じゃないですかね!?私幻影とは言っても痛みも感じるんですけど……!』
「言うことを聞かない駄剣にはちょうど良いでしょ。本当は適当な所で戻すつもりだったけど…」
鞘から引き抜くと刀身が紫電を帯びて激しく帯電する。
『いやぁぁぁぁぁ!!』
フィリアが建御雷神を振り下ろし、刀身から放たれた激しい紫電の奔流が逢魔を飲み込んでいく。
奔流が収まるとそこには辛うじて消滅を免れた逢魔が剣を杖にして立っていた。
『…………こ、今回はここまでにしておいてやろう…』
そう言ってゆっくりと姿が霞んでいく黒騎士。
「…最初から……そうしなさいよ…馬鹿…」
黒騎士が消えると同時にフィリアは魔力を使いきって倒れたのだった。
お馬鹿さんが増えました。




